🌸『盗賊の巻』

「詩紋から聞いてねぇのか?」
「この状態で、どう聞くんだよ……」
 イノリは、自分に泣きつく詩紋を親指で指す。
「それも、そうだな……」
 詩紋を見た天真は、引き気味で言った。
「それより、あかねは無事なのかよ?」
「今のところはね」
 友雅は、いつになく真剣な顔で屋敷を見ていた。
「どうすんだよ?」
「今は、手のつけようがないね」
「真っ向から攻めれば、いいじゃんか!」
「そんなことをしたら、神子の身が危ない」
「泰明殿の言う通りだよ」
「じゃあ、どうすんだよ?」
 全員が考え込む。そこで、天真がなにかを思い出す。
「確か、あの部屋から炊事場って、近かったよな?」
「ええ……」
 それに永泉が頷く。
「永泉。炊事場って、扉開いていたっけ?」
「開いていたはずですけれど」
 天真はなにかを思いついたようだ。
「お前ら、耳貸せ」
 彼らは天真の提案に、耳を傾けるのだった。
 一方、人質になったあかねは盗賊の様子を窺っていた。
(この人、私と同い年ぐらいかな?)
 盗賊の風情を見てそう感じた。
 さっきから盗賊の方は外の様子を見ていた時、後ろから小さな物音がする。
 振り返ってみると、あかねが茶を淹れていた。
「おい、あんた。なにやってんだよ!?」
「見てわかりませんか? お茶を淹れているんです」
「あんた、自分が置かれている状況、わかってんのか!?」
「わかってますよ」
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