いつもお世話になってるnoNe！のじゃずさんが拙宅の部長くんの主鍵を書いてくれました！　許可いただきましたので掲載させていただきます。ありがとうございます。


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｢あ｣
深夜のコンビニのレジ前で、思わず商品を出す手が止まる。
『たばこ税増額』の文字がでかでかと書かれたポスターには、｢カートン買いはお早めに｣とも書かれていて、たばこ業界も大変だなぁと思いながら、あらためて商品の入ったカゴをレジに置いた。
待ち構えていた無愛想なコンビニ店員は、気のない挨拶をしながら、カゴの中から商品を取り出していく。
｢何かありました？｣
雑誌の棚を眺めていた鍵介が、僕の視線を置いながら、こちらにやってくる。どうやらお目当ての本はなかったらしく、手ぶらのままだ。
先程見つけた『たばこ税増額』のポスターを示してみせると、｢ああ｣と鍵介はまばたきしてみせる。
｢世知辛い世の中だよね｣
僕がそう言うと、鍵介はきょとんとして、
｢でも、最近吸ってなくないです？松田先輩｣
｢ああー、うん｣
言ってなかったっけ、と、僕は何となく店員の後ろに並ぶたばこの棚を眺める。
｢無くなっちゃったんだよね、吸ってたやつ｣
｢え、そうなんです？｣
｢うん。販売終了｣
780円です、と、店員に言われて、ポケットから財布を取り出す。
｢まあちょうど良かったかな。禁煙しようと思ってたし……鍵介、10円玉ある？｣
｢ちょっと待ってください……はい｣
1枚だけ足りなかった10円玉を彼から受け取って、ぴったりの額を店員に差し出した。
店員はただそれを受け取って、商品の入った袋と、レシートをこちらに渡してくる。
｢禁煙、ねえ｣
｢うん？｣
僕の言葉を口の中で転がすようにしながら繰り返す鍵介に、どうかしたかと視線で問い掛けると、｢いや、｣と、鍵介は僕の隣に並んだ。
一緒にコンビニの自動ドアをくぐったタイミングで、｢たばこやめちゃったんですね、先輩｣と、寂しいのかなんなのかよくわからないトーンで言われる。
｢僕、あの匂い、結構好きだったんですけど｣
松田先輩って感じがして。
…………と、鍵介はこちらを見ないままに言うのだけど、僕は思わずその横顔をまじまじと見つめてしまった。
｢え、なんです｣
｢いや……｣
視線に気付いた鍵介に怪訝そうな顔をされてしまったけれど、｢今日は素直だ｣なんて言おうものなら、あっという間に拗ねられそうだったので、黙っておくことにした。
｢ほら、あれだよ｣
と、話題をすり替える。
｢長生きしたいし｣
｢はぁ｣
｢鍵介くんと一緒に、なるべくね｣
｢…………｣
今度はこちらが素直になってみたけれど、生憎鍵介は照れてはくれず、
｢そう思うんだったら野菜ぐらい残さず食べてくださいよ……｣
と、呆れたように言われてしまった。
｢いや、だって、ほら、｣
弱点をつかれ、僕は視線を逸らす。
｢無理したら寿命縮むって言わない？｣
｢言わないですし、縮みませんから｣
怒ったように言われ、言葉に詰まっていると、
｢もういいですよ、早く帰りましょう｣
そう言いながら、鍵介が僕の手を取り引っ張った。
深夜の歩道に、ほとんど人はいない。
それで多少大胆になったのかと納得した僕は、そうだね、と、小さく笑って、鍵介の手を握り返した。