Caligula

いばら(主笙)

2018/02/28 06:30
主笙
 
「この人はきっと何よりも大切な誰かを喪ったんだろうなってことくらいしか俺には分からないけど、それでも気持ちは痛いくらい伝わる。いい曲だ、嫌いじゃないよ」
そうか、と、力ない声が返事をする。笙悟の怯えるような視線は、ずっと俺の足元だけに向けられていた。
「あそこまで強く想われてるのなら、いなくなってしまったその誰かも、きっと幸せでしょ」
その愛が、もうひとりの誰かへの底無しの憎しみを糧にして、さらに膨れ上がったものだとしても、だ。たとえ誰にも見えない奥の奥に何が含まれていようとも、周りを覆うのが誰かを愛しく感じる気持ちであれば、それは愛だと俺は思う。

「……そうだといいな」

数分が過ぎたか、それともほんの数秒の後だっただろうか。まるで時が止まってしまったかのようなどろどろとした沈黙の果てに彼は笑った。無理に唇を吊り上げて、喉と心を痛めながら言葉を絞り出して、それは自傷行為によく似ていた。

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