Caligula

迷い犬の語る愛など(主琵琶)

2018/03/08 14:12
主琵琶

「なんか、こう……えっと……」
「うん?」
「好きにしていいって言われると、最初はやったーって思うんだけど、でもなんか、ちょっとだけ萎えてる俺もいるの」
「…………なんだ、それ」
あなただったら何をされてもいいという「好きにして」と、何でもいいからとっとと終わらせてくれの「好きにして」との区別くらいはついてしまう頭があるのだ、残念ながら。俺が答えることができずにいると、やわらかな唇で唇を塞がれた。口を塞いで言葉を封じるためだけの義務的なキスは、しかし案外気持ちがいいからタチが悪い。ゆるりと招き入れた彼の舌が健気な名残惜しさを演じながら口の中を去っていく頃には、ぼんやりと熱を持ってしまった頭が思考することを拒み始めるのだ。
「君の言いたいことは相変わらずよくわからないな」
俺の肩越しの天井を眺めたまま、永至先輩はくつくつと肩を揺らして笑う。同じベッドで素肌が触れ合うほど近くにいても、自分のそれより高く感じる彼の体温がおそらく36℃台であること以外に何も伝わるものなんてない。
「俺はその、先輩は、何がイイのかとか、何がイヤなのか、とか、一個ずつちゃんと知りたいんだ」
大振りのピアスの目立つ耳朶にキスをしながら尋ねると、「……そうか?」となんだかひどく気の抜けた返事が返ってきた。せつない。甘えるように歯を立てて、指先を胸元に滑らせて、ようやく先輩の口から甘い声が漏れた。せつない。せつない。
「わかんない?」
「わからない」
「わかってほしい、」
「わかりたくないな」
「……さみしい」
「ふふ」
俺を平気で突き放す彼の声音はやっぱり平坦だ。いつもあんなにいい声で鳴いてくれるのに、と本当にさみしくなってしまう。先輩の伸ばした手は、俺の頬をするりと撫でた。

「……ほら、そんなことはいいから、いつもみたいに好きにしてくれ。そうすれば、すぐにさみしくなんてなくなるよ」

ぐっと顔を寄せて、お返しのように俺の耳を甘く食んで、毒のような熱っぽさで包んでみせた投げやりな愛をくれる。だから今日も俺たちは真っ白いシーツの上で、絵に描いたような不埒と不誠実を、最後まで演じきってやらなければならないのだ。

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