Caligula

3月9日の病(主笙)

2018/03/19 23:33
主笙

「もしかしたら、もしかしたら抜け出せるんじゃないかって、期待した。文字通り、ここから『卒業』ができるんじゃないかと。クラスメイトとのメシも断って、卒業証書握りしめて、ドキドキしながら家に帰った。最後だってのに付き合い悪りいなあ、なんて言われたけど、そんなもん、どうだってよかったよ」




「でも、一週間が過ぎても、十日が過ぎても、何も起こらなかった。俺を現実に連れ帰るための迎えなんか、待っても待っても来やしなかった。そんなのわかってた。わかってた、はずなのに。それでもまだ、俺は期待した」




「何もないまま、四月になった。机に放っておいた卒業証書はいつの間にか無くなって、入学式の通知に変わっていた。これは何かの間違いだとまだ疑いながら、入学式の朝、中庭に掲示されてたクラス分けの表を見た。一年生のクラスに、確かに俺の名前があった。周りを見た。知り合いの同級生、ついこの前一緒に卒業したはずの奴らが、いた。どいつもこいつもなんにも知らねえで、ヘラヘラ楽しそうな顔して、あちこちにいたよ。頭がおかしくなりそうだった」




「逃げたい。逃げたい逃げたい逃げたい。一日でも早く、いや、一分一秒でもいい、早く、ここから、こんなところから。なあ、頼む、部長、俺を、俺を助けて、助けてくれ」




骨張った指先が、特徴的なツートンカラーの髪を掻く。がりがりと搔き毟る。桜の花びらが、これからの夢を見据える卒業生を見送り、まっさらな新入生となって帰ってきた彼らを再びやさしく出迎えるこの季節に、彼は毎年、終わらない地獄の底を見ているのだ。

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