Caligula

人は見た目じゃわからない(主琵琶)

2018/03/31 10:45
主琵琶

「先輩ってわりと面食いなとこある?」
「? なんで?」
「なんとなく」
とは言ったものの、俺がこんな質問をした理由は、先日廊下ですれ違った永至先輩の隣を歩いていた女子生徒が、俺たち二年生のクラスでも人気のある三年の先輩だったからだ。女子にしては背が高めで、かわいい系というより綺麗系。少し吊り目がちで、色白の肌にショートカットの黒髪がよく似合うキリッとした美人。ただ、彼女に告白し、しばらく再起不能になるレベルでボロクソにフラれたと証言する男子も学年に何人かおり、「もしかして性格はドぎついのか」と陰で噂になっていたりもするのだが。
「うーん」
先輩は、腕を組んで何かを考え込んでいるようだ。そしてしばらく俺の顔をじっと見つめて、
「君とすれ違ったのは、ただクラスで集めたノートを職員室まで運ぶのを手伝った帰りなんだけどね? クラス委員なんだ、彼女」
やがて、いつもの人懐っこい笑みというやつをにぱっと浮かべて、ちょっとかわいく首までかくりと傾げてみせた。げ、何が言いたいかバレてるし。「まあ、でも」頬を引き攣らせる俺の様子が愉快なのか、彼は口元に笑みを湛えたまま続ける。

「人間、いちばん大切なのは中身だ。しかし、人柄というのは自然と外見や表情にも滲み出るものだよね。僕はふたつを完全に切り離して考えてはいないから、面食いとまではいかないが、外見だってもちろん厳しく見る」
「……はあ?」
「なんだ、その顔は」
「……いやー、あはは、なんかキレイすぎて逆に気持ち悪いなあ。百点満点の答えをありがとう、完璧超人さん」
まるで、この世界のあなたそのものだ。舐めるような視線を送ると、彼はさっきまでの笑みがまるで嘘のように、形の良い眉を不機嫌そうに寄せた。だからほら、そういうところが。

「……はあ、真面目に答えて損した気分になる」
「真面目にってあんた」
先輩はやれやれとでも言いたげに、大げさに肩をすくめてみせた。コメディ映画の一幕のような白々しい身振りは、しかし彼の作り物じみた容姿によく似合う。俺は細長い指を飾る銀の環を見つめた。
「人柄は外見に出るものだよなんて、冗談でも笑えないよ。この世界で見た目と中身が一致してる奴なんてほとんどいない。年齢性別はともかく性格だ、キレイな顔して腹ン中ドブ煮込みみたいな奴で溢れてやがる」
「知ってる。そのドブ煮込み筆頭が君だものな」
「あ、言ったな」
くすくすと肩を揺らして笑ってみせる余裕が憎らしい。俺は小さく鼻を鳴らした。
「俺のことろくに知らないくせに」
「知らないね。でも君だって知らないだろ、僕のことなんて、何も」
「うん、まあ、そうだけど、『何も』ってほどじゃないかな」
「おっと……」
俺が手を伸ばしてスカーフに触れると、先輩は咎めることもせず楽しげに目を細めた。手触りのいい青に指先を滑らせたどり着いた先、軽くつまんだ銀のスカーフリングを、じりじりと引っ張ってみせる。

「俺はどうすれば先輩がすごくいい声で鳴いてくれるのかってことくらいしか知らないんだよ、ごめんね」

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