Caligula

あなたに愛を乞う意味について(主笙)

2018/04/06 11:41
主笙現実

「そもそも、笙悟があそこまで追い詰められてなければ、一凛って子が死んでなければ、メビウスに来て俺と出会うこと自体がなかったし、ソーンが、いや、棗って奴が死ななきゃ、俺らはここに帰ってくることも、一緒に暮らすこともできなくて、だから……だから……」

メビウスがなくなってから、つまり、笙悟たちが現実に戻ってきてから半年。現在の同居人である帰宅部の“元”部長は、時折夜中に突然飛び起きるようになった。隣の布団からぶつぶつと聞こえる神経質な声に笙悟が耳を澄ますと、彼はいつもだいたい同じことを言っている。自分と笙悟の出会い、そして思いの成就は、笙悟の友人ふたりの死がなければ成り立たなかったものだ、と。

「……起きてんのか」
「笙悟」

無言で自分の布団を少し捲ってみせれば、彼は空いたスペースにまるで猫のように滑り込んできた。最近気づいたのだがどうやら彼は少し冷え性のようで、僅かに触れ合った足の指が冷たかった。

「お前が背負うことじゃねえって、何度も言ってんだろ」
「でも俺が笙悟のこと好きでいるなら、そのくらいの覚悟がないと、だめ、だめなんだ」
「だめなんかじゃない、何も」

自分の身に起きたひとつひとつの事柄を分析するのに、半年というのは十分な時だったのだろう。本当にこれでよかったのか、どこかで間違えなかっただろうかと、彼が不安に満ちた言葉を口にすることが最近急に増えた。
取り乱す笙悟を「落ち着け」と一喝してみせた時の彼は、まるで頼りになるヒーローに見えた。だが今、現実世界の布団の中で丸まって怯えているのは、ただの弱い少年だった。ループを繰り返すメビウスの中でいくら極限状態に陥っていたと言えど、10も年下の少年に、帰宅部をまとめ上げる重荷を押しつけるような形で背負わせてしまったことは、未だに笙悟の後悔のひとつだ。

「俺はじゅうぶん救われてる」
「許されるのか、俺たち、俺たちの」

崩壊しかけた楽園から命からがら逃げ延びたふたりが、見知った顔の屍の上で愛を語らうような真似をするなど。
布団にもぞもぞと潜ってしまった彼の背中を、とんとんと叩く。笙悟は言葉を探したものの、結局、小さな寝息が聞こえてくるまでに答えを見つけることは、出来なかった。

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