日記

グノーシアをやってほしいという話

2019/09/14 20:28
ゲームの話
 

航海中の宇宙船内で、精神汚染体「グノーシア」に汚染された人間の反応が感知された。彼らは空間転移の度に人を襲い、ひとりずつ消滅させていく。汚染された人間の見た目に変化は現れず、人前では以前と同じように振る舞うことが出来る。そのため、排除するには乗組員全員の話し合いで疑わしい者に投票し、コールドスリープ処置を施すしかない。彼らの嘘を見抜いた主人公は、何とか全てのグノーシアをコールドスリープさせることに成功した。
しかし、船に平穏が戻ったのも束の間。次に目を覚ました主人公の耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのあるアナウンスだった―――「船内に、グノーシア反応が感知されました」。ミーティングルームに駆け込んだ主人公が目にしたのは、グノーシアに襲われて消えたはずの人間、新しく増えた見知らぬ乗組員、そして、グノーシアであることを暴かれ、コールドスリープさせられたはずの人間。船内の状況は一変している。いったいどうなっているのだ。
戸惑う主人公に、乗組員のひとりである【セツ】と言う名の軍人は告げる。私たちは―――ループを繰り返しているのだと。

***


……と、いう実に不穏な感じから始まるPlayStation Vita専用ダウンロードソフト【グノーシア】ですが、これがもうハチャメチャに面白くて発売から3ヵ月ほど経つのにまだ遊び倒せないという記事を書かせてください。私はこれをVita最後の打ち上げ花火と呼んでいますが、それほど見事な完成度のインディーゲーです。すごい長いので畳みました、タップして開いてください。


以下すごい長いです




ゲーム内容をざっくり言ってしまえば宇宙に舞台を移した人狼ゲームなのですが、最終的な目的はグノーシア(人狼にあたる)を全滅させることではなく「ループする宇宙の謎を解く」こと。誰がグノーシアかという話し合いは所謂道中の雑魚戦で、ループしながら貯めた経験値と情報で宇宙の謎という大ボスを目指す……という感じでしょうか。人狼ゲームを目的ではなく大筋のストーリーを進める手段とするのは、ケムコの【レイジングループ】と似ている?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、プレイヤーが自分自身で全ての行動を選択することで人狼ゲーム部分をがっつり遊べるのが【グノーシア】。奥深いストーリー、周回が苦痛にならないテンポのよさと魅力的なキャラクターたち、膨大な会話差分とイベントの作り込み、すべての要素がガッチリ噛み合い唯一無二のゲーム性を生み出しております。それではメインとなる議論パートの流れを簡単に解説。

・話し合いに参加する乗組員は最大15名。この中にグノーシアが紛れ込んでいる。また人間サイドにもそれぞれに役職が割り振られている
・誰かに疑いを向ける、弁護してかばう、自分への疑惑に反論する、人の意見に賛同する、などのコマンドを使用して話し合いを進める。自分は疑われないように、怪しい乗組員には票が集まるように疑惑度を調節する
・決められた発言回数が終わると投票パートへ。各自1票をグノーシア疑惑のある人物に投じてゆき、最も票数を集めた乗組員がコールドスリープさせられる
・自由行動パートで生き残っている乗組員と交流を深めることができる。イベントが発生したり、話し合いの時に手を組まないかと誘われることも
・宇宙船が空間転移を始めるため、全員自室に戻る時間に。グノーシアサイドが行動を始め、襲われた人間(1名)は消滅する

以上を1セットとして繰り返し、グノーシアを全員コールドスリープさせれば人間の勝ち、生き残った人間とグノーシアが同数になればグノーシアの勝ちになります(投票が成立しないので)。しかし決着がつくとなぜかその宇宙は終わり、次はまったく違った状況でイチから話し合いが始まってしまう……というのが1回のループの流れ。時に主人公はグノーシア側として暗躍し、消滅させる人間を選ぶこともします。
ゲームが進むと主人公の役職や参加人数など有る程度の状況設定ができるようにはなりますが、乗組員たちの配役はループごとに完全ランダム。もちろん誰を疑い誰と手を組むかといった各々の行動もがらりと変わってきますので、まったく同じ展開をなぞるループは二度とない、と書くととてもドラマチックです。どうしても前回グノーシアだった奴を警戒したくなってしまいますが、今回のループではただの無害な人間だったり、逆に前回のループで最後まで主人公をかばってくれた健気な子が今回はグノーシアに汚染されていて……みたいなことも。宇宙は無情です。
もちろん、ただの第一印象とか好き嫌いとかカンとかで疑ったりかばったりすれば良いわけではありません(そういうノー理論キャラもいるにはいる)。原則として人間は嘘を吐かず、グノーシアは生き残るために嘘を吐きます。人間サイドにはグノーシアに立ち向かうための力が宇宙船の権限の一部という形で与えられているので、それを駆使して矛盾を突き、嘘つきを見破るのです。

・エンジニア→人狼ゲームで言うところの占い師。1日にひとり、指定した人物がグノーシアか人間かを判別できます。人間サイドの切り札。
・ドクター→人狼ゲームで言うところの霊媒師。前日にコールドスリープしたのがグノーシアか人間か調査し、報告します。こいつが騙りだと実にややこしいことになります。
・守護天使→人狼ゲームで言うところの狩人。誰かひとりを指定して、グノーシアの襲撃から守ることができます。自分のことは守れません。
・留守番→人狼ゲームで言うところの共有者。宇宙船の外に一歩も出ていないので、絶対にグノーシアに汚染されていない(=人間確定者である)とお互い証明し合える2人。
・AC主義者→人狼ゲームで言うところの狂人。この宇宙は消滅すべきというアンチコズミック思想を掲げ、人間なのに嘘を吐いたりしてグノーシアの味方をする。
・バグ→人狼ゲームで言うところの妖狐。人間扱いだが、特例としてグノーシアに襲われても消えることはない。その代わりエンジニアに調査されると消滅する。最終日に生き残っていると……

以上が人間サイドの役職です。生き残りたい人間からしたらちょっと迷惑にも程がある奴が紛れていますが、ゲームに程よい緊張感が生まれますね。一気に並べ立てると小難しそうな感じがしますが、ゲームではいきなりドバッと全役職が出てくることはありません。最初は少人数から始まり、丁寧なチュートリアルを織り込みつつ徐々に人狼ゲームとしての難易度がステップアップしていきますので、しっかりルールを覚えながらプレイすることができます。初心者も安心。

しかしゲーム開始直後はやれることも少なく、ちょっと主人公の発言が増えようものなら「さっきから喋りすぎ!」「みんなを誘導しようとしてる!」「さてはグノーシアだな!」などといった具合に集中砲火。そして無情なコールドスリープ、もしくは寝ている間に襲撃を受けての脱落が多発し心が折れかけるのですが、だいたいの乗組員と役職が出揃う10~20周目あたりまではチュートリアルだと思ってがんばってください。最後まで生き残れなくても多少の経験値はもらえますので。そこから【グノーシア】はぐっと面白くなります。
このゲームでは、ロジック、カリスマ、かわいげ、演技力、直感、ステルスといったように、主人公のパーソナリティがパラメータ化されています。ループを繰り返すことで積み上げた経験値を割り振り能力を伸ばすことで、議論を有利に進めることができるようになるのです。例えばカリスマを上げて意見に賛同してもらいやすくするとか、かわいげを上げてみんなからかばってもらうとか、ステルスを上げて目立たないようになるとか……前述の喋りすぎて怒られる問題も、ステルスやかわいげのパラメータを上げていくことで解決されるのです。やはり宇宙でもかわいいは正義。記憶を保持してループを続ける主人公が次第に議論に慣れていく様子が、パラメータの上昇という形で可視化されるわけです。パラメータが一定値を越えると議論を大きく動かすコマンドも使用できるようになり、例えば「あいつがグノーシアって突き止めてるのにみんなが私を信じてくれない……!」なんていうエンジニアの苦悩を打破し、議論をコントロールできるようになります。まあ必勝法はないので負けるときは負けます。
ちなみにパラメータは議論の相手となる各キャラクターにも設定されており、「難しいことを考えるのは苦手だが抜群の直感で嘘を見抜く」「影は薄いが意外と勘が良い」「かわいいのでみんなからかばわれる」「いい奴だけど嘘が下手すぎるのでグノーシアの味方としては最悪」「頭は良いけどかわいげがないのですぐ投票される」など、読み物としてのキャラクターの性格とゲームとしての議論での立ち回りを見事に噛み合わせたものになっています。クセが強いもののなんだかんだ憎めないキャラばかりなので、嘘が下手な奴もかわいげゼロの奴もコールドスリープ常連キャラとしてユーザーに愛されています。いいのかなぁそれで。議論パートを繰り返していくうちに体感できるキャラクターの行動のクセ、そして彼らの人となりがわかる豊富なイベントの数々を通じて生まれる「乗組員のことを少しずつ理解していってる」という感覚が、物語への没入感の大きな助けになっているのです。

条件を満たせば乗組員の情報や宇宙の謎に迫るキーワードを手に入れることができるので、自分の役職や自由時間に話をする相手を変えたり、とにかくいろいろなパターンを試すのが唯一の攻略方法。何度も繰り返すと飽きそうと思われがちですが、乗組員とのイベントや生き残りメンバーによる特殊会話、話しかけた時の好感度別台詞、そもそも主人公の性別によって対応がまるで異なるキャラがいる……などとにかく差分が膨大で、周回する前提のゲームならではの遊び心が満載です。それでも、終盤に起こりがちな残されたイベントがなかなか発生しない期間は若干ダレてしまいますが……。しかし議論パート自体はじっくり考えながらプレイしても1回あたり10分程度とテンポがよく、次はグノーシアになってみよう、次はあの人と仲良くなってみようとやめ時を見失うこと請け合いです。ある程度進めると、特定キャラを生き残らせて情報を聞き出す、など条件つきの議論パートが始まったり、ゲームとしてもしっかりメリハリがあります。ネタバレなので言及は避けますが、積み重ねてきたループの総決算と言えるエンディングは圧巻です。とにかくやめ時が見つからなく、次の日が仕事なのに日付が変わるまでプレイしてしまったこともしばしば。

ゲームとして完成されたシステムについて長々と語ってきましたが、もちろんグラフィックやサウンドも素晴らしいのがこのゲーム。水彩風の柔らかなタッチで描かれた美しいイラストがキャラクターの個性を際立たせており、半透明の素材やビビッドな蛍光色、ゆるやかな曲線の意匠などを多用した宇宙チックな服飾デザインは唯一無二のシルエットを生み出しています。BGMも素晴らしく、プレイ中ずっと耳にすることになる議論パートの曲も状況によって切り替わったりと、飽きがこない作りになっています。個人的に特筆すべきと思うのはスタート画面と船内の自由行動パートで流れるボーカル曲で、なんとイラスト担当の方が歌っている(!)というのだから驚き。無限の宇宙が孕むやさしさと残酷さを映し出すような歌声が、【グノーシア】の儚い雰囲気(たまにすっ……ごいバカなイベントもありますが)と非常によくマッチしています。是非実際にプレイしながら聞いてみて欲しいと思います。

トロコンまで遊び倒して、もはや弱点は終焉間近のVitaというハードで出てることくらいなんじゃないかと思えるほどによくまとまったゲームだと感じました。別ハードへの移植については前向きに検討中とのことなので、前作【メゾンド魔王】に続きマルチプラットフォーム展開になる可能性はあります。ほんとに無敵になってしまう……。あと個性的なキャラクターたちの魅力的な会話イベントや美麗スチルがあまりに多いので回想モードやギャラリー機能を望む声もありますが、二度と同じことは起こらないループの中でのたった一度の思い出なので、あえてそういう機能は無しの路線を貫くのもありかなと思ってしまうくらいには思い入れが出来てしまいました。いやまあスクショだらけになっちゃうし色々と確認用にギャラリー機能欲しいって言えば欲しいんですけど、非常に悩ましい……!





……と、長々と書き散らしてしまいましたが本当に面白いひとり用人狼ゲーム【グノーシア】、DL専用でお値段2,480円です。間違いなく価格以上に楽しめる一本ですので、公式サイトを覗いてみて何かひとつでも刺さる要素が見つかるようでしたら、是非お手に取っていただきたいと思います。


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