Caligula
×××に火をつけて(主琵琶)
2018/02/28 13:55主琵琶∞
上着もシャツも、まるで紙を雑に破くように脱がせたところで、彼が薄らと浮かべている品の良い笑みだけは最後まで残って消えないのだ。もはや皮まで剥いでしまわなければ琵琶坂永至という人間が内に隠している「何か」は露呈しないのではないかと、いっそ絶望的な心地になった。よく洗剤のCMとかでやってるこびりついた油汚れみたいだな、なんて言ったら「引くほどセンスのない喩え」と、鼻で笑って切り捨てられるのだろうけど。
「……泣いたって許さないからね」
「ん?」
穂積がかけた言葉に、永至はきょとんとしたような表情を見せたが、ほんの数秒も経たぬうちに、そこには笑顔が戻っていた。「へえ」と唇をゆるやかに吊り上げ、まるで値踏みするかのような無遠慮な視線で、自分を組み敷く男を見上げる。
「……なんだ君、僕が泣けば許されると思ってるような人間に見えるのか? ふ、あはは……」
面白くてたまらないとでも言いたげに、永至は肩を竦めて笑う。爪の先まで丁寧に整えられた指がすっと伸びて穂積の頬に触れ、それからゆっくりと口元を撫でた。その手つきはただ、地図にペンで正しい道順を書き込んでいるだけのような淡々としたもので、ベッドの上でのやりとりだというのに、ほんの微かな淫靡さも孕んではいない。滑るように首筋、鎖骨をたどった指先は、最後には穂積の胸元、心臓の真上でぴたりと止まった。
「……ああ、冗談じゃないなぁ。泣いても許されないことがあるなんて、僕がいちばんよく知ってるよ……」
不意に浴びせられたのは、底冷えのするような冷たい声だった。目ざとい彼は穂積が思わず息を呑んだことにすぐさま気がついたようで、今度こそ嘲笑と呼ぶに相応しい、ひどく生々しい笑みを口元に湛えた。
「恥ずかしい子だ。でも、そうだな、やっぱりそこがかわいいのかもね」
おいで、と広げられた無防備な永至の腕を、穂積は突き動かされるままに乱暴に掴んでシーツに縫い止めた。泣いても泣かなくても許さないし、笑っていたって許しはしない。