Caligula
毒劇物くん(主琵琶)
2018/03/03 13:03主琵琶∞
気だるい放課後、部室にみんなが集まり始めるまでのほんの15分ほどの間にする永至先輩とのデートはいつも信じられないほど味気なくて、しかしこれはこれで、その味気なさがなんだかクセになる。永至先輩が女の子からもらったり俺がクラスメイトにたかったりしたお菓子を持ち寄って、非常階段の踊り場でつまむ。それだけのことを、俺はデートと呼んでいる。向こうはどう思っているか知らない。今のところ、全体的に向こうの持ってくるクッキーやら何やらのほうが、コンビニ菓子の中でもランクが高めのやつであることが少しだけ癪だ。
「なんだそれ、蛍光塗料か? ひどい色だ」
「ジュースだよ、ジュース。誰が塗料なんて飲むか」
「だって君、ペンキとか食べそうじゃないか」
「食べません」
今日のおやつは、俺が隣の席の女の子からもらったアーモンドのチョコレートだ。箱からひょいと一粒つまんで囓った永至先輩が、俺が飲んでいるジュースのペットボトルをちらりと見て、形の良い眉を顰めている。透明なボトルの中で揺れる液体は、いかにも身体に悪そうでケミカルな蛍光グリーン。既に半分ほど飲まれているそれは、一応メロン味を謳っているものの、なんだか惜しいような、少しとぼけた味がする。喩えるなら、メロンを食べたことのない人間が10人くらい集まって、想像だけでメロン味を再現しようとしているような。そんな感じの中途半端さ。
「んっ……」
永至先輩が口の中でチョコレートを転がして、アーモンドを噛み砕いて飲み下したのを見計らい、唇を合わせた。薄く開いたそこにぬるりと舌を差し入れると、鼻にかかった声が漏れる。たっぷり時間をかけて舌を絡め、彼の口に残っていたカカオの風味と似非メロン味が混ざり合うのをじっくり堪能した。唇を離すと、永至先輩は予想通りむすっとした表情を見せている。
「……見た目だけじゃなく味までろくでもないな」
口直し、と今度はアーモンドチョコを二粒、俺の手元から持っていった永至先輩はそれを口に放り込んでころころと転がし始める。俺はもう一度ペットボトルを傾けたあと、にんまり笑ってみせた。
「こういう身体の毒になりそうなモノとか、たまにはいいでしょ」
「そんなのは君だけで充分」
「またまたぁ」
「あと君、チョコのお礼に一応教えておくけど舌が緑色になってるから」
「えっ、うそぉ」