Caligula
ゆら・ゆら(主鍵)
2018/03/05 12:45主鍵∞
「そういえばこの学校ってさ」
「? ふぁい」
給水タンクに寄り掛かり、空を見上げながら唐突に呟いた僕に、鍵介はもごもごとメロンパンを頬張りながら慌てて返事をしたので、「あ、ごめん」と謝って口が空くまで少し待つことにした。そよそよと柔らかな風が心地良い昼休み、昼食スポットになっている校舎の屋上には、僕ら以外にも多くの生徒たちの姿が見える。鍵介は購買の袋から取り出したパックのコーヒー牛乳にストローを刺して、パンと一緒にごくんと飲み下した。
「……ん、すみません、続き、どうぞ」
「あ、いや、こっちこそ急かしてごめんね」
僕は朝コンビニで買ったみたらし団子のパックを開けた。三本入りのそれを「いる?」と差し出す。鍵介は「ありがとうございます」とお礼を言って、そのうち一本の串をつまんで、そろりと持ち上げた。彼はメロンパンの前にもけっこうなボリュームの焼きそばパンをひとつ、ぺろりと平らげていたりするのだけれど、小柄な体格に似合わずけっこう食欲旺盛というやつだ。いかにも高校生っぽくて微笑ましい。
「屋上、生徒がこんなふうに気安く出入りできるんだね。普通は危ないから鍵かかってるでしょ。鍵介くんが本当に通ってた学校はどうだった?」
「んー……そう言われてみると……」
僕の疑問に、団子をもちもちと頬張りながら鍵介は考え込むような表情を見せている。やがて、なんだか納得したように頷いてみせた。
「……ああ、確かに。バーチャドールたちがこの学校を作るとき色んなもの参考にしたって言ってますけど、きっと漫画とかに出てくる学校なんかをマネしたんですよね」
「あ、なるほど」
僕も団子を咥えながら頷いた。確かに漫画やアニメの中で見る校舎の屋上には、こうしていつも自由に生徒が立ち入っている。そこは楽しいランチの場にも、甘酸っぱい告白の場にもなったりするのだ。無邪気なアイドルたちは、きっと学校とはそういうものだと思い込んでいるのだろう。実際に自分が高校に入ったばかりの頃、屋上へ続くドアが頑丈な鍵で封じられているのを見て、少しがっかりしたのは苦い思い出だったりする。
「それに……」
「それに?」
給水タンクの陰から周りをちらりと見遣って、鍵介は声を少し落とした。僕はそっと耳を寄せる。
「こんなところから飛び降りたりする不幸な生徒なんて、ありえないんでしょ。そういう世界のはずですから、ここは」
「……なーるほど、ね」
「って理由もあると思いますよ、一応」
ぱくぱくと団子を食べ進めた鍵介は、ごちそうさまでした、と軽く頭を下げた。僕らの頬をやさしく撫でるあたたかな春風が、なんだか急にとても寒々しいものに思えた。