Caligula
ゆっくり歩いてね(主鍵)
2018/03/11 11:18主鍵現実
「……、さむ……」
鼻先を掠める冬の匂いにふるりと肩を震わせて、もこもこしたマフラーに頬を埋めた鍵介の横顔は、16歳だった頃のようにまだ幼い丸みを持ったそれではなくなりつつある。それでも足元にちらりと覗く靴下の黄色は徐々に大人の輪郭を帯び始めた彼にも相変わらず似合っていて、つまるところ今の彼はとても不思議ないきものだ。結局は臆病さの裏返しだった皮肉っぽい物言いは少しおだやかになって、まだまだ子どもっぽくてかわいいところはそのまま残っていて、あ、でもそれは身長に限った話ではなくて……と、そんなことをぼんやり考えながら歩いていたら、ごん、と電柱に肩をぶつけた。「……え、何してるんです?」と、肌を刺す風以上に冷ややかな鍵介の視線が僕に注がれている。ワンテンポ遅れてじんわりとした痺れを訴え始める肩をさすりながら、僕は苦笑いした。
「いてて、あーびっくりした、電柱だ」
「いや、びっくりしたのはこっちですって……何ですか、いつも以上にぼーっとしちゃって」
「はは、言うようになったねえ」
「……もう、しっかりしてくださいよ」
呆れたような声とともにこっそり伸ばされた指先に、人差し指をちょんとつままれて引っぱられた。「お、カレシっぽいね」と笑えば「まあ一応カレシですからね」と、少しつれない返事。でも、ただぼーっとしてたんじゃなくて君に見とれてたんだよ、なんて言ったらきっと恥ずかしがって手を離されてしまうから、家に着くまではしばらくはこのままでいよう。