Caligula

アイラブユーが聞こえない!(鍵主)

2018/03/26 11:22
鍵主

好きですと告白をされて、1回いっしょに下校して、3回デートをして、5回キスをすれば容易く明け渡されるであろう彼女たちのスカートの中の純潔とやらの価値を、誰か俺に教えてくれないか! 靴箱を乱暴に閉めて昇降口から見える空を呪った。いっそ雨でも降ってくれればいくらか頭が冷えるのにという願いもむなしく宮比市の空は今日も青い。きっと明日も青い。そして明後日も明明後日も、1週間先も1か月先も。いつかのSF映画で見た、ディストピアを覆うパネルの内側に投映された空よりはいくらか健康的な虚構の陽射しが、相も変わらず世界をあたたかく満たしていた。

「先輩、遅かったですね」
「悪いね。ちょっと女の子フッてきた」
「なんです、その『変な宗教の人に絡まれた』くらいの軽さ」
「軽いんだよ、実際」

校門で待ち合わせていた鍵介は、俺の物言いに軽く眉を顰める。だって仕方ないのだ。女の子に好きだと言われるなんていうのは、俺にとってそれほど些細で、鬱陶しくて、馬鹿馬鹿しいことなのだから。

「さあ、今日はどこ行く?」
「映画でもどうかなと思いまして。先輩が好きって言ってた映画の続編、今日からでしょう」
「お、いいね…………で? そのあと、ホテルとかのご予定は?」

戯れに指を絡めてみたら、鍵介の顔が少しだけ赤くなった。なんだか笑ってしまう。

「い……行きません。ごはん食べて解散です」
「なーんだ、つまんねーの」

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