1つ目の『廃棄本丸』の対処
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戦いの跡の残る本丸内を探索する山姥切長義は、審神者の部屋を探していた。報告によれば審神者は亡くなっている。どこで最期を迎えたのかは定かではないが、多くの場合は自室に結界を張り時間を稼ぐことが定石だった。そのため、最期の場所を探したい際には自室から、というのが山姥切長義の見解だ。
「……ここか」
審神者の自室と思われる部屋の柱には、『審神者』と札がかけられていた。障子は当たり前のようにすべて破壊されており、部屋内は荒れに荒れていた。そして畳にはべったりと血が、そして怪異が原因で回収されたなかった遺体が、影響を受けてなのか腐らずにその場に残っていた。
仰向けに倒れていて、最期に怖い思いをしたのだろう、顔は恐怖に歪んでいた。そして遺体の両腕がなくなっていた。正確に言えば、肘から下から切り取られているようだった。
「なるほど。審神者の『手』を狙った襲撃か」
審神者に等しく備わる力、刀剣男士を顕現させる力は『手』に宿るとされている。実際、審神者を解剖でもして実験しない限り正確なことはわからないが、近年このことが信じられ襲撃される本丸は少なくない。
この山姥切長義の本丸の審神者も、つい最近、敵襲を受けた際の講習と注意を受けたばかりだった。
「……赤の管狐、この本丸の初期刀は誰だ」
『初期刀:山姥切国広 未回収』
浮かび上がったスクリーンをみて、山姥切長義は目を細めた。
「待て、刀剣男士は全て保護済だと……いやそうか。『破壊された男士以外は保護済み』の意だな?」
不快そうに山姥切長義が吐き出せば、スクリーンはぶつんと消えた。くそっとこぶしを強く握りしめた。
山姥切長義は、遺体のもとへ跪けば見開かれた両の目の瞼をそっと下げ頭を下げた。
「あなたの初期刀は、折れた刀達は、俺が責任を持って回収しよう。だから今はどうか安らかに」
山姥切長義は立ち上がると、そのまま真っすぐ裏庭へと向かった。
裏庭へ脚を進めれば進めるほど百合の匂いが濃くなっていった。その匂いの強さは刀を溶かしてしまいそうなほど強く、山姥切長義は手で鼻を覆う。中庭に咲く百合の花は、どうやら前座に過ぎなかったようだ。
廊下がひどくきしむ。時折誰かが走っているかのような足音が、山姥切長義の周りをかけていた。この足音が襲撃当時の再現や名残なのか、はたまた別の何かなのかは判断が付かない。
裏庭へと続く扉前までたどり着くと、山姥切長義は自身の刀を抜いた。そして扉へ手をかけ、ゆっくりと開いた。
「これはっ……!」
まず山姥切長義の目に飛び込んできたのは、二本の青白い両腕だった。人間のものとは思えない、小さく見積もっても3メートルはあるだろうその腕は、肘から上が斬られてしまったかのように存在していなかった。
そしてその両腕から根が張られているかのように、百合の花が一面に咲いていた。風もないのにざわざわと揺れている。
両腕はなにかを手のひらで隠すように、包んでいるような形をとっていた。その手の中に何があるのかはわからないが、大事なものであることだけは伝わってきていた。
山姥切長義は自身の体から力が抜けていくのを感じていた。それは力を奪われる、といった敵意のある感覚とは全く別のもので困惑してしまった。激しい戦闘から本丸に帰ってきたときの安堵、昼下がりにうとうととまどろんでしまいたくなる穏やかさ、誉を取ったときに審神者へ報告をしに行くときの多幸感に似ていたのだ。
穏やかさに泣いてしまいたくなる自身を諫めて、山姥切長義は両の腕に近づいた。
「あなたは、この本丸の審神者だね?」
返事をしているかのように百合の花だけが、強い風に吹かれたかのようにざぁっと揺れた。
「……この様子だと怪異となってしまった自覚は無し、か」
山姥切長義は刀を手に持ったまま、さらに腕へと問いかけた。
「あたなが大事そうに抱えているものを見せてはくれないだろうか」
なにも変化は起きなかった。ただそこに腕があるだけでピクリともしない。
再度問いかける。
「俺の予想にはなるが、その手の中には俺らの、刀剣男士の折れたかけらがあるんじゃないか?」
腕がほんの少し動いた。何かを包み込むような手のひらにギュッと力が入っているのが見て取れた。
そのように当たったかと顔をしかめつつ、さらに会話を続けた。
「すまないが、欠片を離してくれないだろうか。この本丸で何があったのかを調べる必要がある。すべてを見てきたであろう初期刀……山姥切国広の欠片から調査をしないといけないんだ」
さらに手の力は強まった。
さきほどまで山姥切長義を溶かそうとしていた穏やかで幸福な意思は今は消え失せ、徐々にピリピリとした敵意を持ったものに変わってきていた。
敵意を持たれることは危険ではあるが、こちらの思考を溶かしてくるよりかはマシなようで、山姥切長義は動きやすくなったことに安堵していた。
「俺は元政府の刀といっても、折れてしまった刀の末路は知らない。だが俺のできる限りを持って丁重に扱うよう交渉することはできる。もしあなたが渡してくれないとなると、こちらも実力行使になってしまうんだ」
いやだ、やめろ、動くなと言わんばかりに、百合の花が山姥切長義の足元からきつく絡みついてきていた。
欠片を離す気のないその姿勢は、間違いなく審神者として生きたものの思考であり、刀剣男士から見れば最大の尊敬と誇りを抱くものだった。
「……ここか」
審神者の自室と思われる部屋の柱には、『審神者』と札がかけられていた。障子は当たり前のようにすべて破壊されており、部屋内は荒れに荒れていた。そして畳にはべったりと血が、そして怪異が原因で回収されたなかった遺体が、影響を受けてなのか腐らずにその場に残っていた。
仰向けに倒れていて、最期に怖い思いをしたのだろう、顔は恐怖に歪んでいた。そして遺体の両腕がなくなっていた。正確に言えば、肘から下から切り取られているようだった。
「なるほど。審神者の『手』を狙った襲撃か」
審神者に等しく備わる力、刀剣男士を顕現させる力は『手』に宿るとされている。実際、審神者を解剖でもして実験しない限り正確なことはわからないが、近年このことが信じられ襲撃される本丸は少なくない。
この山姥切長義の本丸の審神者も、つい最近、敵襲を受けた際の講習と注意を受けたばかりだった。
「……赤の管狐、この本丸の初期刀は誰だ」
『初期刀:山姥切国広 未回収』
浮かび上がったスクリーンをみて、山姥切長義は目を細めた。
「待て、刀剣男士は全て保護済だと……いやそうか。『破壊された男士以外は保護済み』の意だな?」
不快そうに山姥切長義が吐き出せば、スクリーンはぶつんと消えた。くそっとこぶしを強く握りしめた。
山姥切長義は、遺体のもとへ跪けば見開かれた両の目の瞼をそっと下げ頭を下げた。
「あなたの初期刀は、折れた刀達は、俺が責任を持って回収しよう。だから今はどうか安らかに」
山姥切長義は立ち上がると、そのまま真っすぐ裏庭へと向かった。
裏庭へ脚を進めれば進めるほど百合の匂いが濃くなっていった。その匂いの強さは刀を溶かしてしまいそうなほど強く、山姥切長義は手で鼻を覆う。中庭に咲く百合の花は、どうやら前座に過ぎなかったようだ。
廊下がひどくきしむ。時折誰かが走っているかのような足音が、山姥切長義の周りをかけていた。この足音が襲撃当時の再現や名残なのか、はたまた別の何かなのかは判断が付かない。
裏庭へと続く扉前までたどり着くと、山姥切長義は自身の刀を抜いた。そして扉へ手をかけ、ゆっくりと開いた。
「これはっ……!」
まず山姥切長義の目に飛び込んできたのは、二本の青白い両腕だった。人間のものとは思えない、小さく見積もっても3メートルはあるだろうその腕は、肘から上が斬られてしまったかのように存在していなかった。
そしてその両腕から根が張られているかのように、百合の花が一面に咲いていた。風もないのにざわざわと揺れている。
両腕はなにかを手のひらで隠すように、包んでいるような形をとっていた。その手の中に何があるのかはわからないが、大事なものであることだけは伝わってきていた。
山姥切長義は自身の体から力が抜けていくのを感じていた。それは力を奪われる、といった敵意のある感覚とは全く別のもので困惑してしまった。激しい戦闘から本丸に帰ってきたときの安堵、昼下がりにうとうととまどろんでしまいたくなる穏やかさ、誉を取ったときに審神者へ報告をしに行くときの多幸感に似ていたのだ。
穏やかさに泣いてしまいたくなる自身を諫めて、山姥切長義は両の腕に近づいた。
「あなたは、この本丸の審神者だね?」
返事をしているかのように百合の花だけが、強い風に吹かれたかのようにざぁっと揺れた。
「……この様子だと怪異となってしまった自覚は無し、か」
山姥切長義は刀を手に持ったまま、さらに腕へと問いかけた。
「あたなが大事そうに抱えているものを見せてはくれないだろうか」
なにも変化は起きなかった。ただそこに腕があるだけでピクリともしない。
再度問いかける。
「俺の予想にはなるが、その手の中には俺らの、刀剣男士の折れたかけらがあるんじゃないか?」
腕がほんの少し動いた。何かを包み込むような手のひらにギュッと力が入っているのが見て取れた。
そのように当たったかと顔をしかめつつ、さらに会話を続けた。
「すまないが、欠片を離してくれないだろうか。この本丸で何があったのかを調べる必要がある。すべてを見てきたであろう初期刀……山姥切国広の欠片から調査をしないといけないんだ」
さらに手の力は強まった。
さきほどまで山姥切長義を溶かそうとしていた穏やかで幸福な意思は今は消え失せ、徐々にピリピリとした敵意を持ったものに変わってきていた。
敵意を持たれることは危険ではあるが、こちらの思考を溶かしてくるよりかはマシなようで、山姥切長義は動きやすくなったことに安堵していた。
「俺は元政府の刀といっても、折れてしまった刀の末路は知らない。だが俺のできる限りを持って丁重に扱うよう交渉することはできる。もしあなたが渡してくれないとなると、こちらも実力行使になってしまうんだ」
いやだ、やめろ、動くなと言わんばかりに、百合の花が山姥切長義の足元からきつく絡みついてきていた。
欠片を離す気のないその姿勢は、間違いなく審神者として生きたものの思考であり、刀剣男士から見れば最大の尊敬と誇りを抱くものだった。
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