1つ目の『廃棄本丸』の対処
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「山姥切長義」
出陣から帰ってきたばかりの第一部隊が転送装置である白い鳥居からぞろぞろと出てくるところに、待ち構えていたものがいた。
真っ赤な毛並みを持つ管狐がは転送装置の目のまででちょこんと座っており、刀剣男士を見上げていた。管狐の視線はまっすぐ山姥切長義へと向けられていた。
「俺に何か用かな?」
山姥切長義は刀を持たないほうの手を腰に当て、不機嫌に管狐に問いただした。
「時の政府より要請が届いています」
山姥切長義の表情が固まった。しかしすぐにいつもの調子に戻り、背後で耳をそばだてていた第一部隊の男士らに声をかける。
「すまないが、先に戻っててくれるかな?もし話せる内容であれば、後で話そう」
「……折れるようなことしないでよ?」
「なるほど、鯰尾には俺が折れるようにみえる、と」
第一部隊の隊長である鯰尾は、縁のある山姥切長義を心配していたのだが、山姥切長義は演技がかった調子で落胆した。
その様子からいつもの調子の山姥切長義であることに安心した鯰尾は、バシンと背中を叩いて笑いながら返した。
「ッいきなり叩くな!」
「無茶してもいいけどさ、ちゃんと帰ってこいよー!第一部隊のみんなはお手入れの時間だー!」
鯰尾が行った行ったとほかの男士を扇動すると、渋々手入れ場へと移動を始めた。皆言葉には出していないが『時の政府』の単語を出すより前から、ずっと警戒しているのだった。
山姥切長義自身が強い男士だあることは知っていたが、赤い管狐への信頼は一切ない。彼らはぎりぎりまで、管狐から視線を外すことはなかった。
第一部隊の気配が遠のいたところで、山姥切長義は赤い管狐に視線を落とした。
「赤いお前からの要請ってことは」
「はい、ご想像の通りです。廃棄本丸の対処要請です」
赤い管狐のしっぽが地面にぱたんと倒れて、土で汚れている。
「廃棄、いや、時の政府が見限った理由は?」
「敵のバグにより本丸の位置が暴露、その結果強襲され審神者が死亡。発足直後の本丸のため戦力不足。よって立て直し不要で廃棄の判断となりました」
「……そうか。俺が政府にいた時から、方向性は変わってないんだな」
この山姥切長義は、もともと政府の刀で『廃棄本丸』の対処を請け負っていた刀剣男士だった。
廃棄本丸とは、その名の通り何らかの理由で時の政府から見限られ廃棄された本丸だ。審神者が刀剣男士に不敬を働いた場所、反対に刀剣男士が審神者に反乱を起こした場所など……理由は様々だ。
たしかに本丸配属が決定した際、時の政府より要請が届くかもしれないと事前に聞いてはいた。廃棄本丸の対処がどの男士でもできるわけではないため仕方のないことだとも、山姥切長義自身が一番よく知っていた。
「詳細は」
「サーバー名、エラー。本丸名、エラー。位置固定済。刀剣男士、全保護済。審神者名、――」
赤い管狐はつらつらと『詳細』を語った。一つ一つに山姥切長義は耳を傾け、頭の中ですべきことを整理していた。要請が来たということは、何か自分が対処すべき事柄がそこにあるんだと、事前情報からわかることを探そうとしている。
「本丸の結界、修復不能。時間遡行軍の侵入、無し。本丸内のゆがみ、あり」
「……」
探るまでもない事象に、山姥切長義の眉間のしわがさらに深くなった。
「怪異の侵入、あり」
そう、これこそが。この事象こそが『廃棄本丸の対処がどの男士でもできるわけではない』理由の大きな理由の一つだった。怪異と相対して立っていられる存在。
己自身に歴史が、己の揺るがない立ち位置が刻まれている男士である山姥切長義は適任であったのだ。
これは物語ではない、たしかにそこにある存在の照明こそが怪異に立ち向かえる強さになるのだから。
「繋ぎます」
管狐が本丸の転送装置に小さい前足で触れると、鳥居の色が白から赤に一瞬で変わる。そしてゲートが廃棄本末へと道が繋がると鳥居の向こうからは強い百合の香りが漂ってきた。
「廃棄本丸への通路固定完了。任務遂行完了を確認後、再度通路を開きます」
「万が一にもないと思うが、俺が折れたら?」
「他の刀剣男士に要請が行きます」
「……承知した。この政府からの要請は俺が必ず遂行すると約束しよう」
山姥切長義は組んでいた腕をほどき、鳥居の向こうを睨み付けた。
「では、行ってこようか」
山姥切長義が鳥居向こうへと体を進ませると、その姿は完全に消え、転送装置の鳥居の色も白へと戻った。その場に残るのは赤い管狐と、百合の香りだけだった。
そして遠くから隠れながら聞き耳を立てていたとある『刀剣男士』が一振り、悔し気に口元を歪めていた。
出陣から帰ってきたばかりの第一部隊が転送装置である白い鳥居からぞろぞろと出てくるところに、待ち構えていたものがいた。
真っ赤な毛並みを持つ管狐がは転送装置の目のまででちょこんと座っており、刀剣男士を見上げていた。管狐の視線はまっすぐ山姥切長義へと向けられていた。
「俺に何か用かな?」
山姥切長義は刀を持たないほうの手を腰に当て、不機嫌に管狐に問いただした。
「時の政府より要請が届いています」
山姥切長義の表情が固まった。しかしすぐにいつもの調子に戻り、背後で耳をそばだてていた第一部隊の男士らに声をかける。
「すまないが、先に戻っててくれるかな?もし話せる内容であれば、後で話そう」
「……折れるようなことしないでよ?」
「なるほど、鯰尾には俺が折れるようにみえる、と」
第一部隊の隊長である鯰尾は、縁のある山姥切長義を心配していたのだが、山姥切長義は演技がかった調子で落胆した。
その様子からいつもの調子の山姥切長義であることに安心した鯰尾は、バシンと背中を叩いて笑いながら返した。
「ッいきなり叩くな!」
「無茶してもいいけどさ、ちゃんと帰ってこいよー!第一部隊のみんなはお手入れの時間だー!」
鯰尾が行った行ったとほかの男士を扇動すると、渋々手入れ場へと移動を始めた。皆言葉には出していないが『時の政府』の単語を出すより前から、ずっと警戒しているのだった。
山姥切長義自身が強い男士だあることは知っていたが、赤い管狐への信頼は一切ない。彼らはぎりぎりまで、管狐から視線を外すことはなかった。
第一部隊の気配が遠のいたところで、山姥切長義は赤い管狐に視線を落とした。
「赤いお前からの要請ってことは」
「はい、ご想像の通りです。廃棄本丸の対処要請です」
赤い管狐のしっぽが地面にぱたんと倒れて、土で汚れている。
「廃棄、いや、時の政府が見限った理由は?」
「敵のバグにより本丸の位置が暴露、その結果強襲され審神者が死亡。発足直後の本丸のため戦力不足。よって立て直し不要で廃棄の判断となりました」
「……そうか。俺が政府にいた時から、方向性は変わってないんだな」
この山姥切長義は、もともと政府の刀で『廃棄本丸』の対処を請け負っていた刀剣男士だった。
廃棄本丸とは、その名の通り何らかの理由で時の政府から見限られ廃棄された本丸だ。審神者が刀剣男士に不敬を働いた場所、反対に刀剣男士が審神者に反乱を起こした場所など……理由は様々だ。
たしかに本丸配属が決定した際、時の政府より要請が届くかもしれないと事前に聞いてはいた。廃棄本丸の対処がどの男士でもできるわけではないため仕方のないことだとも、山姥切長義自身が一番よく知っていた。
「詳細は」
「サーバー名、エラー。本丸名、エラー。位置固定済。刀剣男士、全保護済。審神者名、――」
赤い管狐はつらつらと『詳細』を語った。一つ一つに山姥切長義は耳を傾け、頭の中ですべきことを整理していた。要請が来たということは、何か自分が対処すべき事柄がそこにあるんだと、事前情報からわかることを探そうとしている。
「本丸の結界、修復不能。時間遡行軍の侵入、無し。本丸内のゆがみ、あり」
「……」
探るまでもない事象に、山姥切長義の眉間のしわがさらに深くなった。
「怪異の侵入、あり」
そう、これこそが。この事象こそが『廃棄本丸の対処がどの男士でもできるわけではない』理由の大きな理由の一つだった。怪異と相対して立っていられる存在。
己自身に歴史が、己の揺るがない立ち位置が刻まれている男士である山姥切長義は適任であったのだ。
これは物語ではない、たしかにそこにある存在の照明こそが怪異に立ち向かえる強さになるのだから。
「繋ぎます」
管狐が本丸の転送装置に小さい前足で触れると、鳥居の色が白から赤に一瞬で変わる。そしてゲートが廃棄本末へと道が繋がると鳥居の向こうからは強い百合の香りが漂ってきた。
「廃棄本丸への通路固定完了。任務遂行完了を確認後、再度通路を開きます」
「万が一にもないと思うが、俺が折れたら?」
「他の刀剣男士に要請が行きます」
「……承知した。この政府からの要請は俺が必ず遂行すると約束しよう」
山姥切長義は組んでいた腕をほどき、鳥居の向こうを睨み付けた。
「では、行ってこようか」
山姥切長義が鳥居向こうへと体を進ませると、その姿は完全に消え、転送装置の鳥居の色も白へと戻った。その場に残るのは赤い管狐と、百合の香りだけだった。
そして遠くから隠れながら聞き耳を立てていたとある『刀剣男士』が一振り、悔し気に口元を歪めていた。
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