1.紅桜編
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芳野の隠れ家の外は、いつもの雰囲気とは少し違っていた。
皆と特有の活気とはまた違うなにか不穏な空気が充満していて、鬼兵隊の船の周辺を歩く浪士達は今にも斬りかかってきそうな様子だった。
そんな港の近く、廃れた長屋の一室に芳野の隠れ家がある。
室内には大きめのタンス1棹と全身鏡、簡易的な洗面台だけが置かれていた。
「っ、あ……?」
その外の雰囲気に当てられてかどうか、芳野がゆっくりと目を開けた。
万事屋からふらふらと歩くこと30分以上、限界の体を動かしながら自身の隠れ家にたどり着いたはいいが、部屋に入った瞬間、芳野はそのまま畳の上に倒れるようにして気絶に近い形で眠りについた。
いくぶんか熱の下がった体を畳に手をつき持ち上げれば、倒れていた場所には乾いた血の跡がしっかり残ってしまっていた。
「あー……、これは畳を張り替えないとダメかなぁ」
立ち上がり腕を上げて体を伸ばせば、胸の傷は突っ張るように痛んだ。幸いなことに、手のひらにできた傷のほうはほぼほぼふさがってしまったようだった。
芳野はンスの一番上の段を開け、しまっていた治療道具を取り出し床に置いた。とはいっても、あくまでも隠れ家。ガーゼに包帯、消毒液が置いてあるだけだ。
続いてタンスの真ん中の段から一枚大判のタオルを取り出すと、洗面台の前まで移動して水に浸した。芳野は室内というのをいいことに、ぼろきれになった着物をすべて脱ぎ捨て下着とさらしだけの姿となった。
巻かれているさらしもゆっくり外していくと、固まってしまった血が肌に張り付いてしまっていた。洗面台から水をすくって、さらしと肌の間に水を垂らして水分を含ませながらゆっくり、ゆっくりと外していく。
すべてさらいを外し終えると、芳野は水にさらしていたタオルを絞り傷口に直接触れないよう丁寧に体をふき始める。
ざあざあと振る雨の音をBGMに頭の中を冷静に冷やしていった。
「(雨音で確信はないけど、少なくとも港の方で大きな騒ぎは起きてない。てことは志村くんはまだ来てない……?無事、だとは思うけどそっちも確信持てないな)」
体をふき終えると、タンスの一番下の段から青い男物の着と白の襦袢、下着やさらしなどを取り出す。そばに白いレースでできたショールも畳まれ置かれていたが、今はいらないなと一度手に取ってから再びタンスの中に戻した。
芳野は慣れた手つきでさらしを巻き、着物へと着替える。少なくとも似蔵と戦闘後の状態よりかは清潔な着物に腕を通すと、水や血に濡れていない着物の温かさに感謝をした。
「(乗り込んだ後はどうしよう。できれば殺しは避けたいけど口減らしが主ってなると難しい、か)」
最後に足袋をはいてから、芳野は軽く屈伸をする。体を左右にひねってみたり、飛んでみたり。なんとか動けそうなことを確認し、ひらきっぱにしていたタンスの棚をすべて閉じる。そして、棚の上に雑に置かれていた真っ黒な鞘に収まっている日本刀を手に取る。
「殺してる姿は見られたくないなぁ……なんて、贅沢になっちゃったな」
攘夷戦争に参加しておいて、何をいまさらと、芳野は自身の思いに呆れてしまった。
「……行くか」
長屋の一室から出ると雨が降っていた。せっかく体を綺麗にしたのにと虚しい考えが浮かびつつも、芳野は鬼兵隊の艦へと向かった。
皆と特有の活気とはまた違うなにか不穏な空気が充満していて、鬼兵隊の船の周辺を歩く浪士達は今にも斬りかかってきそうな様子だった。
そんな港の近く、廃れた長屋の一室に芳野の隠れ家がある。
室内には大きめのタンス1棹と全身鏡、簡易的な洗面台だけが置かれていた。
「っ、あ……?」
その外の雰囲気に当てられてかどうか、芳野がゆっくりと目を開けた。
万事屋からふらふらと歩くこと30分以上、限界の体を動かしながら自身の隠れ家にたどり着いたはいいが、部屋に入った瞬間、芳野はそのまま畳の上に倒れるようにして気絶に近い形で眠りについた。
いくぶんか熱の下がった体を畳に手をつき持ち上げれば、倒れていた場所には乾いた血の跡がしっかり残ってしまっていた。
「あー……、これは畳を張り替えないとダメかなぁ」
立ち上がり腕を上げて体を伸ばせば、胸の傷は突っ張るように痛んだ。幸いなことに、手のひらにできた傷のほうはほぼほぼふさがってしまったようだった。
芳野はンスの一番上の段を開け、しまっていた治療道具を取り出し床に置いた。とはいっても、あくまでも隠れ家。ガーゼに包帯、消毒液が置いてあるだけだ。
続いてタンスの真ん中の段から一枚大判のタオルを取り出すと、洗面台の前まで移動して水に浸した。芳野は室内というのをいいことに、ぼろきれになった着物をすべて脱ぎ捨て下着とさらしだけの姿となった。
巻かれているさらしもゆっくり外していくと、固まってしまった血が肌に張り付いてしまっていた。洗面台から水をすくって、さらしと肌の間に水を垂らして水分を含ませながらゆっくり、ゆっくりと外していく。
すべてさらいを外し終えると、芳野は水にさらしていたタオルを絞り傷口に直接触れないよう丁寧に体をふき始める。
ざあざあと振る雨の音をBGMに頭の中を冷静に冷やしていった。
「(雨音で確信はないけど、少なくとも港の方で大きな騒ぎは起きてない。てことは志村くんはまだ来てない……?無事、だとは思うけどそっちも確信持てないな)」
体をふき終えると、タンスの一番下の段から青い男物の着と白の襦袢、下着やさらしなどを取り出す。そばに白いレースでできたショールも畳まれ置かれていたが、今はいらないなと一度手に取ってから再びタンスの中に戻した。
芳野は慣れた手つきでさらしを巻き、着物へと着替える。少なくとも似蔵と戦闘後の状態よりかは清潔な着物に腕を通すと、水や血に濡れていない着物の温かさに感謝をした。
「(乗り込んだ後はどうしよう。できれば殺しは避けたいけど口減らしが主ってなると難しい、か)」
最後に足袋をはいてから、芳野は軽く屈伸をする。体を左右にひねってみたり、飛んでみたり。なんとか動けそうなことを確認し、ひらきっぱにしていたタンスの棚をすべて閉じる。そして、棚の上に雑に置かれていた真っ黒な鞘に収まっている日本刀を手に取る。
「殺してる姿は見られたくないなぁ……なんて、贅沢になっちゃったな」
攘夷戦争に参加しておいて、何をいまさらと、芳野は自身の思いに呆れてしまった。
「……行くか」
長屋の一室から出ると雨が降っていた。せっかく体を綺麗にしたのにと虚しい考えが浮かびつつも、芳野は鬼兵隊の艦へと向かった。