1.紅桜編
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時は少しさかのぼり、芳野が似蔵に斬られ吹き飛ばされた時のこと。
胸は紅桜で深くえぐられ血が噴き出していた。さらに芳野の体は川の冷たい水にさらされ、このまま何もしなければ死んでいくだろうと直感していた。
芳野は、力の入らない腕を無理やり持ち上げて、着物の胸元に手を差し込み薬瓶を取り出した。
「く、っそ……!まだ、まだ!」
真っ白な小粒の錠剤を2粒取り出し瓶の蓋をしっかりと閉めると、芳野は水も無しに無理やり飲みこんだ。
すると直ぐに効果が表れた。
一度どくんと心臓が跳ね上がると、芳野が受けたからでる出血が少なくなっていた。完全に消えることはないが、確実に傷は浅くなっていた。
しかし、傷が浅くなるのと同時に芳野は息ができなくなるほどの暑さにも似た全身を駆け巡っていた。」
「っあ゛、はぁっ……っやっぱやば、あ゛ぁっ」
それがこの薬『不傷死錠』の効果だった。どんなに死に至るような傷でも瞬時に直す特別な薬。
しかしその副作用は、回復中に起こるしい痛みと、数時間後から発生する発熱や吐血、出血だった。
過去に何度か服用経験のある芳野だが、この薬による痛みだけは慣れることはなく、叫び声を抑え事で精いっぱいだった。
自然とあふれ出た涙でぼやける視界の向こうでは、銀時が紅桜によって貫かれていた。その瞬間、出血とは別の要因で体の芯が冷えた。痛みを引きずりながら、芳野の体は似蔵のもとへ向かっていた。
―芳野飛鳥 視点―
体の痛みはたぶん治まった。いやわからない、痛みの余韻がまだひどい。それでも私は動かなければ。
涙で見えにくくなっている目元を拭った。しかし額の上にできてしまった傷からの出血は止まっていない。額の傷の回復は後回しにでもされたんだろうか。
血液が目に入らないよう、完全につぶれてしまわないように右目だけをつむった。
私が坂田くんを助けようと体を動かすたびに、浅くなったはずの傷から血があふれる。副作用の割にはひどく不完全な薬に頼らないと死んでいた事実が腹立たしい。
耳を澄ませば、似蔵が何かを語っている。高杉くんのことだろうか?
坂田くんに対して高杉くんのことを語るなんて、とも思ったけれど、今の鬼兵隊の高杉晋助のことを、私は情報でしか知らない。彼の仲間のことも実際に相対したことはない。文字列としてよく知っていても意味はない。
それでもあんたが、似蔵が隣にいたってなにも変わらなかったよ、きっと。
だって私たちがいたのはそういう場所だっただろう?なあ、坂田くん。
似蔵は悦に浸っているのか、気配を殺した私の姿には気が付かない。
私は念のためと忍ばせておいた短刀を取りだした。
「自分語りが長い」
逃げるように言ったはず少年の気配がする。坂田くんもそれに気が付いたのか、口元がにやりと笑っている。
私は人間の体を保っていた似蔵の左肩に短刀を突き刺した。せめて少年の一撃が確実に決まるよう、似蔵の体が動かないようにしたかった。
「勝利の余韻で自分語りなんて寒いことしてんなって、それにまだ折れてない」
坂田くんが自身を突き刺している紅桜をがっしりと抱えた。きっと私の意図と同じなんだろう。顔を上げて不敵笑う。
「剣ならまだあるぜ、とっておきのがもう一本」
本来なら少年の攻撃直前にぱっと退くことが理想だけれど、今の私にそれだけの俊敏性はなく、体を横に倒した。
倒した体が川の水面にぶつかる寸前、少年の一撃が似蔵の腕を斬り飛ばしたのが見えた。同時に、本来の日本刀のサイズとなった紅桜を似蔵が自身の足元に落としたことも。
こればかりは似蔵のプロ根性というかなんというか。戦闘データを蓄積させた紅桜を確実に持ち帰りたい執念が垣間見えた。
片腕を切り落とされた似蔵だが、おそらくこの少年のことを殺すことは可能だろう。坂田くんが「とっておき」と称した少年を、殺させはしない。
倒れた時にこつんと手にぶつかったものがあった。それは木刀の切っ先らしきもので、それではどうにもならないことはわかっていたけれど、がむしゃらに掴んで私は立ち上がった。
似蔵は私が立ち上がったことに気が付くと、舐め腐った声をかけてきた。
「そこの僕よりかはまだ戦れそうだが……、紅桜にとっては意味がないね」
「なに、やってみる?」
時間稼ぎぐらいはできるだろうか?ひりつく空港の中、動きをうかがっていると、遠くからぴぃーっと笛のような音が聞こえた。
おそらく付近の住民が通報でもしただろう。奉行所の人たちが大人数で押しかけてきた。
助かった。ひとまずこの場は何とかなる。
似蔵がこちらに戻ってくる可能性はゼロではない。私は撤退していく背中をしばらく見ていた。
―芳野飛鳥 視点終了―
胸は紅桜で深くえぐられ血が噴き出していた。さらに芳野の体は川の冷たい水にさらされ、このまま何もしなければ死んでいくだろうと直感していた。
芳野は、力の入らない腕を無理やり持ち上げて、着物の胸元に手を差し込み薬瓶を取り出した。
「く、っそ……!まだ、まだ!」
真っ白な小粒の錠剤を2粒取り出し瓶の蓋をしっかりと閉めると、芳野は水も無しに無理やり飲みこんだ。
すると直ぐに効果が表れた。
一度どくんと心臓が跳ね上がると、芳野が受けたからでる出血が少なくなっていた。完全に消えることはないが、確実に傷は浅くなっていた。
しかし、傷が浅くなるのと同時に芳野は息ができなくなるほどの暑さにも似た全身を駆け巡っていた。」
「っあ゛、はぁっ……っやっぱやば、あ゛ぁっ」
それがこの薬『不傷死錠』の効果だった。どんなに死に至るような傷でも瞬時に直す特別な薬。
しかしその副作用は、回復中に起こるしい痛みと、数時間後から発生する発熱や吐血、出血だった。
過去に何度か服用経験のある芳野だが、この薬による痛みだけは慣れることはなく、叫び声を抑え事で精いっぱいだった。
自然とあふれ出た涙でぼやける視界の向こうでは、銀時が紅桜によって貫かれていた。その瞬間、出血とは別の要因で体の芯が冷えた。痛みを引きずりながら、芳野の体は似蔵のもとへ向かっていた。
―芳野飛鳥 視点―
体の痛みはたぶん治まった。いやわからない、痛みの余韻がまだひどい。それでも私は動かなければ。
涙で見えにくくなっている目元を拭った。しかし額の上にできてしまった傷からの出血は止まっていない。額の傷の回復は後回しにでもされたんだろうか。
血液が目に入らないよう、完全につぶれてしまわないように右目だけをつむった。
私が坂田くんを助けようと体を動かすたびに、浅くなったはずの傷から血があふれる。副作用の割にはひどく不完全な薬に頼らないと死んでいた事実が腹立たしい。
耳を澄ませば、似蔵が何かを語っている。高杉くんのことだろうか?
坂田くんに対して高杉くんのことを語るなんて、とも思ったけれど、今の鬼兵隊の高杉晋助のことを、私は情報でしか知らない。彼の仲間のことも実際に相対したことはない。文字列としてよく知っていても意味はない。
それでもあんたが、似蔵が隣にいたってなにも変わらなかったよ、きっと。
だって私たちがいたのはそういう場所だっただろう?なあ、坂田くん。
似蔵は悦に浸っているのか、気配を殺した私の姿には気が付かない。
私は念のためと忍ばせておいた短刀を取りだした。
「自分語りが長い」
逃げるように言ったはず少年の気配がする。坂田くんもそれに気が付いたのか、口元がにやりと笑っている。
私は人間の体を保っていた似蔵の左肩に短刀を突き刺した。せめて少年の一撃が確実に決まるよう、似蔵の体が動かないようにしたかった。
「勝利の余韻で自分語りなんて寒いことしてんなって、それにまだ折れてない」
坂田くんが自身を突き刺している紅桜をがっしりと抱えた。きっと私の意図と同じなんだろう。顔を上げて不敵笑う。
「剣ならまだあるぜ、とっておきのがもう一本」
本来なら少年の攻撃直前にぱっと退くことが理想だけれど、今の私にそれだけの俊敏性はなく、体を横に倒した。
倒した体が川の水面にぶつかる寸前、少年の一撃が似蔵の腕を斬り飛ばしたのが見えた。同時に、本来の日本刀のサイズとなった紅桜を似蔵が自身の足元に落としたことも。
こればかりは似蔵のプロ根性というかなんというか。戦闘データを蓄積させた紅桜を確実に持ち帰りたい執念が垣間見えた。
片腕を切り落とされた似蔵だが、おそらくこの少年のことを殺すことは可能だろう。坂田くんが「とっておき」と称した少年を、殺させはしない。
倒れた時にこつんと手にぶつかったものがあった。それは木刀の切っ先らしきもので、それではどうにもならないことはわかっていたけれど、がむしゃらに掴んで私は立ち上がった。
似蔵は私が立ち上がったことに気が付くと、舐め腐った声をかけてきた。
「そこの僕よりかはまだ戦れそうだが……、紅桜にとっては意味がないね」
「なに、やってみる?」
時間稼ぎぐらいはできるだろうか?ひりつく空港の中、動きをうかがっていると、遠くからぴぃーっと笛のような音が聞こえた。
おそらく付近の住民が通報でもしただろう。奉行所の人たちが大人数で押しかけてきた。
助かった。ひとまずこの場は何とかなる。
似蔵がこちらに戻ってくる可能性はゼロではない。私は撤退していく背中をしばらく見ていた。
―芳野飛鳥 視点終了―