1.紅桜編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
階段から登ってきたのは、淡い桃色の浴衣を着た女性、新八の姉である志村妙だった。
雨音もなく小雨が降り始めていたのか、黄色の番傘を右手に持っていて背には風呂敷で包んだ荷物を背負っていた。左手には物騒な薙刀が握られており、芳野は目を丸くした。
「志村少年のお姉さん?随分物騒な……」
「‼ あの弟に一体何が!」
「姉上!僕は大丈夫ですから!」
「それに銀さんだって倒れているんでしょう? なにもないわけないじゃない‼」
新八の血で汚れてしまった服、見知らぬ血濡れの女性、電話で受けた銀時の状況。一度に消化するには多すぎる情報量だった。新八はお妙をなだめつつ、芳野の横を通り万事屋の中へと入っていった。定春は二人の後ろを追っていった。
しかし芳野はその場から動こうとせず、玄関外に体を向けたままだった。
「芳野さん?」
「ああごめん、一回私は家に帰ろうかなって」
服もボロボロだし?と新八とお妙に顔を向けないまま、汚れてしまっている袖をひらひらと振って見せた。
「家近いんですか?」
「そんなに遠くはないよ。ちゃんと挨拶できなくて申し訳ないんだけど、お姉さんにも私のこと紹介しておいて」
「あ、ちょっと!」
芳野は手を挙げ玄関から出ていった。
その背中を見ていた新八だが、明らかに調子が悪化していることはすぐに分かった。お妙も、見知らぬ血濡れの女が倒れそうな足取りで出ていくのを、見ていることしかできなかった。
芳野が後ろ手に万事屋の玄関扉を閉めると、袖で鼻をぬぐった。ぬぐった袖の部分には血がべっとりとついていた。
芳野は覚束ない足元のまま、先ほどの地図に描かれていた方面へと移動した。ほんの数分前までは小雨だったはずなのだが、次第に雨が強くなっているようで、鬱陶しそうに灰色の雨雲を見上げた。
「一瞬晴れるかと思ったんだけど」
鼻血を抑えつつ、芳野は裏路地へと足を進めた。
「ここからだと……30分ぐらい、いやもっとかかるも」
空が明るくなりかけているとはいえ、まだまだ人が活動する時間ではなく人の声は聞こえない。聞こえるのは芳野が吐き出す息だけ。志村新八、お妙の前では倒れまいとしていたが、芳野は『薬』の副作用で限界が来ていた。
「死ぬよりましだから、使ったけど……もう二度と使いたくない……」
芳野は胸元奥深くにしまい込んでいた、『不傷死錠』とラベルの張られた薬瓶を取り出し、忌々しそうに睨み付けた。
雨音もなく小雨が降り始めていたのか、黄色の番傘を右手に持っていて背には風呂敷で包んだ荷物を背負っていた。左手には物騒な薙刀が握られており、芳野は目を丸くした。
「志村少年のお姉さん?随分物騒な……」
「‼ あの弟に一体何が!」
「姉上!僕は大丈夫ですから!」
「それに銀さんだって倒れているんでしょう? なにもないわけないじゃない‼」
新八の血で汚れてしまった服、見知らぬ血濡れの女性、電話で受けた銀時の状況。一度に消化するには多すぎる情報量だった。新八はお妙をなだめつつ、芳野の横を通り万事屋の中へと入っていった。定春は二人の後ろを追っていった。
しかし芳野はその場から動こうとせず、玄関外に体を向けたままだった。
「芳野さん?」
「ああごめん、一回私は家に帰ろうかなって」
服もボロボロだし?と新八とお妙に顔を向けないまま、汚れてしまっている袖をひらひらと振って見せた。
「家近いんですか?」
「そんなに遠くはないよ。ちゃんと挨拶できなくて申し訳ないんだけど、お姉さんにも私のこと紹介しておいて」
「あ、ちょっと!」
芳野は手を挙げ玄関から出ていった。
その背中を見ていた新八だが、明らかに調子が悪化していることはすぐに分かった。お妙も、見知らぬ血濡れの女が倒れそうな足取りで出ていくのを、見ていることしかできなかった。
芳野が後ろ手に万事屋の玄関扉を閉めると、袖で鼻をぬぐった。ぬぐった袖の部分には血がべっとりとついていた。
芳野は覚束ない足元のまま、先ほどの地図に描かれていた方面へと移動した。ほんの数分前までは小雨だったはずなのだが、次第に雨が強くなっているようで、鬱陶しそうに灰色の雨雲を見上げた。
「一瞬晴れるかと思ったんだけど」
鼻血を抑えつつ、芳野は裏路地へと足を進めた。
「ここからだと……30分ぐらい、いやもっとかかるも」
空が明るくなりかけているとはいえ、まだまだ人が活動する時間ではなく人の声は聞こえない。聞こえるのは芳野が吐き出す息だけ。志村新八、お妙の前では倒れまいとしていたが、芳野は『薬』の副作用で限界が来ていた。
「死ぬよりましだから、使ったけど……もう二度と使いたくない……」
芳野は胸元奥深くにしまい込んでいた、『不傷死錠』とラベルの張られた薬瓶を取り出し、忌々しそうに睨み付けた。