短編:刀剣乱腐
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陽がよく射し込む南泉一文字の部屋は、いつも通り居座っている山姥切長義の銀髪にあたりキラキラと反射させていた。濃い青色の瞳は本へと視線が落とされており、南泉を映してはいなかった。
「山姥切長義」
「また改まって、何かな?」
「いーや別に」
「は?」
突然普段とは違うように名を呼ぶ南泉に、長義は本から視線を上げて怪訝そうな顔を向けた。
「なにが『別に』だ。俺の読書を止めたんだ、理由をはっきりしてもらおうか」
「止めたのはお前の勝手だろ! にゃ!」
「はいはい、かわいいかわいい。で、いったい何のつもりだ」
「だーから、別に何の用もねぇってば」
長義は寝転んだままの南泉を覗き込んだ。そして一人納得したように「あぁ」とつぶやく。読んでいた本にしおりを挟んで南泉へと近づく。
そんな長義に、次は南泉が怪訝に顔をしかめる。
南泉が長義の名を呼んだことには、本当に意味がないのだ。いや、正確に言えばあるのだが用事があるのかといわれれば、なにもない。名を呼んでしまったことに、南泉自身が一番動揺している。
長義に顔を覗き込まれた時、先ほどまでは本に向けられていたその青い瞳が自身を捉えている事実に心臓がどくりと大きく脈打っていた。
「君は表情が分かりやすいね。構ってほしいならそういえばいいだろう?」
「に゛っ!?」
長義は寝転んでいた南泉の胸倉をつかみ、無理やり自身の顔へと引き寄せる。
青い目にはもう南泉以外が写っていないほどに近づいていた。
「なにがご所望かな?」
「だァから! なにも望んでねぇってば!」
南泉は青に飲み込まれそうになる前に長義の手を無理やりに解いて、その場から飛びのいた。
長義は振り解かれ行き場をなくした自身の手に視線をやり、まあいいさとまた読書の続きに戻るために体勢を机に向き直した。しおりが挟まれている本はすぐに続きのページが開き、長義を本の世界へと連れ込んでいった。
「……なぁ」
「なんでもないんじゃなかったのか? 俺は読書の続きがしたいのだけれど?」
「俺の名前呼んで」
「いきなりなんだ、風邪でもひいたか?」
「んーにゃ、健康そのもの」
長義は本から視線を外さないまま、名を呼んだ。
「南泉一文字」
「おう」
長義が要望通りに名前を呼んだにも関わらず、南泉の反応は何とも微妙なものだった。呼ばれたその名を噛みしめるでもなく、照れるでもなく、ただ相槌を打つだけ。そんな南泉に長義はつまらなさそうに返した。
「お前な……。名前なんていくらでも呼んでやるから、少し静かにできるかな、子猫ちゃん」
長義の『子猫ちゃん』呼びに、南泉はむすっと不機嫌そうに口を開いた。
「猫じゃねぇ!」
「もちろん知っているよ、猫殺しくん」
「クッソ、ムカつくにゃ!」
南泉の威嚇に、長義が返事を返すことはなかった。あの青い目は今度こそ深く本の中へと視線を向けていたのだった。南泉は、これはもう何を言っても無視だろうなと再びごろんと寝転んだ。
今日はなんだかとても、恋しいような寂しいような――。
「恋しい!?」
「いきない大声出すなよ!」
刀のくせに恋しいなんて、ましてや相手は山姥切長義。南泉は数年前なら考えられない自身の思考に、うにゃうにゃごろごろと後真を抱えて悶えだした。
そんな南泉に困惑する長義は、本にしおりを挟んでぱたんと閉じる。そして隣でごろごろと不可解に転がっている南泉の頭を撫でた。
「喉でも鳴らしてみたらいいんじゃないか」
「に゛ゃっ!?」
「『聞こえてたのか』みたいな顔してるけど、同じ部屋内で叫ばれたら聞こえるに決まってるだろう」
長義の指が、癖のある南泉の髪の間を滑る。くすぐったさの中にあるわずかな心地よさを手繰るように、南泉はすっと目を細めた。
「猫、みたいだね」
顎の下でも撫でてやろうか?と長義が南泉の輪郭を撫でた。南泉はその感覚に体の中心が逆立つような感覚を覚えて飛び起きた。長義の手は南泉の頭があった位置で浮くことになってしまった。
「その触り方やめろ!」
「すり寄ってきたのはそっちだろ」
「呪いのせい、にゃ!」
「俺は存外悪くなかったのだけれどね」
いつもより早い自身の心臓の音に南泉は恐ろしくなった。反対に長義は離れていった南泉に残念そうな顔をしながらも、そうだと繋いだ。
「刀剣男士が人の体を得たばかりだとうまく調整ができなくて、感情が揺れ動く頃もあるらしい」
「……なんか知ってんのかよ」
「いや?」
長義は体をひねり、閉じていた本を手に取ると南泉の眼前に差し出した。南泉は至近距離でピントの合わない本を長義から受け取ると見える位置に調整した。そして長義が何を読んでいたのか知ることになった。
「『刀剣男士の感情調査』?」
「つまり、だ」
長義は南泉から本を取り上げると、自身の唇と南泉の額へとつけた。いきなりの行動に固まっている南泉を見て、上機嫌に長義が笑っていた。
「俺も君と同じように『恋しい』って思っていたんだよ!」
「な、なんなんだよお前は! 分かりづれぇ奴だな!」
「こうして本として、言葉で感情が説明されていることが面白くて、つい自分の『恋しさ』を後回しにしてただけ」
いたずらに成功したような砕けた長義の笑顔に、南泉は胸元を服ごとぐちゃっと抑えた。
「マジか」
「大マジ」
南泉と長義からは、その感情が形を作ったかのようにひらひらと桜の花びらが舞った。
「山姥切長義」
「また改まって、何かな?」
「いーや別に」
「は?」
突然普段とは違うように名を呼ぶ南泉に、長義は本から視線を上げて怪訝そうな顔を向けた。
「なにが『別に』だ。俺の読書を止めたんだ、理由をはっきりしてもらおうか」
「止めたのはお前の勝手だろ! にゃ!」
「はいはい、かわいいかわいい。で、いったい何のつもりだ」
「だーから、別に何の用もねぇってば」
長義は寝転んだままの南泉を覗き込んだ。そして一人納得したように「あぁ」とつぶやく。読んでいた本にしおりを挟んで南泉へと近づく。
そんな長義に、次は南泉が怪訝に顔をしかめる。
南泉が長義の名を呼んだことには、本当に意味がないのだ。いや、正確に言えばあるのだが用事があるのかといわれれば、なにもない。名を呼んでしまったことに、南泉自身が一番動揺している。
長義に顔を覗き込まれた時、先ほどまでは本に向けられていたその青い瞳が自身を捉えている事実に心臓がどくりと大きく脈打っていた。
「君は表情が分かりやすいね。構ってほしいならそういえばいいだろう?」
「に゛っ!?」
長義は寝転んでいた南泉の胸倉をつかみ、無理やり自身の顔へと引き寄せる。
青い目にはもう南泉以外が写っていないほどに近づいていた。
「なにがご所望かな?」
「だァから! なにも望んでねぇってば!」
南泉は青に飲み込まれそうになる前に長義の手を無理やりに解いて、その場から飛びのいた。
長義は振り解かれ行き場をなくした自身の手に視線をやり、まあいいさとまた読書の続きに戻るために体勢を机に向き直した。しおりが挟まれている本はすぐに続きのページが開き、長義を本の世界へと連れ込んでいった。
「……なぁ」
「なんでもないんじゃなかったのか? 俺は読書の続きがしたいのだけれど?」
「俺の名前呼んで」
「いきなりなんだ、風邪でもひいたか?」
「んーにゃ、健康そのもの」
長義は本から視線を外さないまま、名を呼んだ。
「南泉一文字」
「おう」
長義が要望通りに名前を呼んだにも関わらず、南泉の反応は何とも微妙なものだった。呼ばれたその名を噛みしめるでもなく、照れるでもなく、ただ相槌を打つだけ。そんな南泉に長義はつまらなさそうに返した。
「お前な……。名前なんていくらでも呼んでやるから、少し静かにできるかな、子猫ちゃん」
長義の『子猫ちゃん』呼びに、南泉はむすっと不機嫌そうに口を開いた。
「猫じゃねぇ!」
「もちろん知っているよ、猫殺しくん」
「クッソ、ムカつくにゃ!」
南泉の威嚇に、長義が返事を返すことはなかった。あの青い目は今度こそ深く本の中へと視線を向けていたのだった。南泉は、これはもう何を言っても無視だろうなと再びごろんと寝転んだ。
今日はなんだかとても、恋しいような寂しいような――。
「恋しい!?」
「いきない大声出すなよ!」
刀のくせに恋しいなんて、ましてや相手は山姥切長義。南泉は数年前なら考えられない自身の思考に、うにゃうにゃごろごろと後真を抱えて悶えだした。
そんな南泉に困惑する長義は、本にしおりを挟んでぱたんと閉じる。そして隣でごろごろと不可解に転がっている南泉の頭を撫でた。
「喉でも鳴らしてみたらいいんじゃないか」
「に゛ゃっ!?」
「『聞こえてたのか』みたいな顔してるけど、同じ部屋内で叫ばれたら聞こえるに決まってるだろう」
長義の指が、癖のある南泉の髪の間を滑る。くすぐったさの中にあるわずかな心地よさを手繰るように、南泉はすっと目を細めた。
「猫、みたいだね」
顎の下でも撫でてやろうか?と長義が南泉の輪郭を撫でた。南泉はその感覚に体の中心が逆立つような感覚を覚えて飛び起きた。長義の手は南泉の頭があった位置で浮くことになってしまった。
「その触り方やめろ!」
「すり寄ってきたのはそっちだろ」
「呪いのせい、にゃ!」
「俺は存外悪くなかったのだけれどね」
いつもより早い自身の心臓の音に南泉は恐ろしくなった。反対に長義は離れていった南泉に残念そうな顔をしながらも、そうだと繋いだ。
「刀剣男士が人の体を得たばかりだとうまく調整ができなくて、感情が揺れ動く頃もあるらしい」
「……なんか知ってんのかよ」
「いや?」
長義は体をひねり、閉じていた本を手に取ると南泉の眼前に差し出した。南泉は至近距離でピントの合わない本を長義から受け取ると見える位置に調整した。そして長義が何を読んでいたのか知ることになった。
「『刀剣男士の感情調査』?」
「つまり、だ」
長義は南泉から本を取り上げると、自身の唇と南泉の額へとつけた。いきなりの行動に固まっている南泉を見て、上機嫌に長義が笑っていた。
「俺も君と同じように『恋しい』って思っていたんだよ!」
「な、なんなんだよお前は! 分かりづれぇ奴だな!」
「こうして本として、言葉で感情が説明されていることが面白くて、つい自分の『恋しさ』を後回しにしてただけ」
いたずらに成功したような砕けた長義の笑顔に、南泉は胸元を服ごとぐちゃっと抑えた。
「マジか」
「大マジ」
南泉と長義からは、その感情が形を作ったかのようにひらひらと桜の花びらが舞った。
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