絶望のオフィウクス
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3 運命を告げる手紙
「君がオフィーリア=ブラックかね?」
10月2日の誕生日も過ぎたある日。
オフィーリアの元に一人の訪問者が現れた。
名をアルバス=ダンブルドア。
そう名乗った老人とオフィーリアが会ったのは孤児院の裏手にある陰気な森の淵。
人気もなく不気味ささえ漂う静寂に包まれたその場所はオフィーリアの憩いの場所。
地元に住む人間は気味悪がって近づかないし、外部から来た人間もまたこのんで近づこうとはしない。
大凡、客人であるはずの老人がわざわざ訪れる様な場所ではないはずだ。
そんなこの老人が何故こんな場所に来たのかといえば、大抵オフィーリアがここにいる事を知っている院の職員が教えたのだろう。
思わず吐き出したくなった溜息は何とか我慢した。
そして思い返す。
本当にここ最近なんなのだろう。
数日前にも自分を探して男が来ていたという。
今日も今日でまた自分を探し来た来訪者。
しかも、今日はわざわざ会いに来た。
せっかく、穏やかな休日の午後を誰にも邪魔されず静かな読書を楽しもうとしていたのに。
木の幹に腰を降ろした瞬間感じた張り詰めた糸に何かが引っかかったような感覚。
次の瞬間、降って湧いた様に現れた何かの気配。
不思議には思ったが、そのまま院の中へ入っていくのが分かり、急激に興味を失ったのが間違いだった。
読書に耽ること数十分。
森の方へ近づく気配があった。
森に踏み入る侵入者の存在に気付いた蛇たちが数匹オフィーリアの足元に集まってきた。
≪侵入者だ≫
「≪分かってる。でも隠れてて。騒ぎになると厄介≫」
オフィーリアの口から漏れる音は人間の言葉ではない。
何故かは分からないが、オフィーリアには昔から蛇と会話することができた。
そして、それは他人にはないものだと痛いほど知っている。
オフィーリアの言葉に蛇たちは素直にうなずき身を潜めた。
ザク ザク ザク
彼はを踏み鳴らし、存在を主張するかのように歩いてきた人物はオフィーリアの傍で立ち止まる。
気づいてはいるが頑として本に視線を落としている。
靴の先だけが見えていたが、顔を上げる気は更々ない。
白々しく音を立てて本のページをめくった。
「わしの名はアルバス=ダンブルドア。君がオフィーリア=ブラックかね?」
現在に至るまでの経緯をざっと思い返していたオフィーリアは再度付きそうになった溜息を押し殺す。
そして、頭上から掛かった声に応じて顔を上げる。
自分のテリトリーに土足で踏み込まれた不愉快さと押し殺した溜息の憂鬱が心を満たしていくが、それはあくまで表情には出さない。
その全てを無表情の仮面の下に隠して、声を掛けられたから仕方なく顔を上げた態を装い目の前の老人を見つめ返す。
豊かな髭を腰誓うまで伸ばしオフィーリアに言わせれば「嘘臭い」の一言に尽きる笑み。
それ以前に深い紫色のビロード地のスーツを平然と身に纏っている姿は何処までも変人だ。
頭大丈夫だろうか、この老人。
怪訝そうに眉を寄せ警戒の色を濃くしたオフィーリア。
「………そうですけど」
目の前の老人は依然として好々爺とした笑みを浮かべている。
だが、その穏やかで柔和な笑み浮かべつつもその青い瞳に一瞬だけ垣間見えた猜疑心と警戒心をオフィーリアは見逃さなかった。
物心付いた頃から悪意と好奇と嫌悪の視線の中で暮らしてきたオフィーリアは他人の感情――取分け悪意や敵意といったもの――を見抜く事に長けたいる。
老人の秘めた非友好的な視線に気付いたオフィーリアの想いを察してか、それまで息を潜めていた無数の蛇達が、牙を剥き一斉に威嚇し始めた。
「≪やめなさい≫」
低くシューシューとした音がオフィーリアの口から漏れる。
左手をかざし蛇達を宥めるような仕草をすると、蛇達は一瞬で黙り大人しくなる。
蛇達を見ていた真紅の眸がついっと向けられる。
「此処を今すぐ離れて。此処は彼等の場所。人がいてはダメ」
「君は良いのかね?」
老人の問にオフィーリアは迷わず、そしてどこか嬉しそうに答えた。
口元を僅かにしならせて微笑する。
「私は彼等の友人だから」
「…蛇と話せるのかね?」
「小さい頃から」
オフィーリアは先ほど一瞬見せた微笑をスッと消し去る。
そして自分を、或いは目の前の老人を蔑むように言葉を放った。
「気味悪いと思う?恐ろしい?頭がイカれてるとでも?そう思うなら二度と此処に来ないで」
老人の睨みつけるその表情はどこか悲しげでもあり嫌悪に染まっていた。
そんなオフィーリアに対して老人はにっこりと陽気に笑い応じる。
「いいや。そうは思わんよ。どんな生き物でも動物と心を交わせるとは、実にすばらしい事じゃな」
「嘘吐き」
温度の無い声だった。
一切の感情も抑楊も何もない声だった。
決して大きくはない声で紡がれたその言葉は厭に響き、空気を凍てつせた。
スッと細められた真紅の瞳は明確な蔑みに彩られた冷やかなものだった。
「そんな事、思ってもいない癖に」
静かすぎる無表情が逆にゾッとするほどの威圧感を感じさせる。
老人は不覚にも一瞬その気迫に飲み込まれた。
幼い少女にひたと見据えられたまま。
年不相応なその威圧感にまるで蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れなくなる。
「……」
「……」
しばらく無言が続く。
そのまま永遠に続くのではとすら錯覚しそうなその無言を先に立ち切ったのはオフィーリアの方だった。
「…まぁ、どうでもいいけど、そんなこと」
そう呟いてオフィーリアは再び本に視線を戻す。
そして、そのまま老人のことなど認識していないかの如く、沈黙を貫く。
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