絶望のオフィウクス
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2 金の鍵
10月になって間もない頃のある日の事。
穏やかな土曜日の昼下がり。
孤児院の裏手にある鬱蒼とした陰気な森の淵に今日もオフィーリアは来ていた。
お気に入りの巨木の根元に腰を降ろして幹に背を預けて本を開く。
背中を覆うほどもある髪は長く西洋では珍しい漆黒で癖がない。
本の文字を追う瞳は自他共に認める血の様な真紅。
オフィーリアは自分のこの瞳があまり好きではなかった。
異様なほどに白い肌に浮かぶ青あざがその証の様なものだった。
目の近く痛ましく浮かぶ青いあざ。
そのアザに触れながらオフィーリアは柳眉を寄せて不快感をあらわにする。
昨日学校で投げつけられたペンケースを避け損なったが故にできたアザだ。
一応冷やす事は冷やしたが、一晩経ってもアザはじくじくと痛んだ。
一歩間違えば目にぶつかり失明しかねない位置の怪我だが、この孤児院においてオフィーリアを心配する者などいない。
職員ですらオフィーリアの周囲で起こる奇怪な現象の数々を恐れ必要以上に近づこうとはしなかった。
子供たちからはは言わずもかな。
物が飛んでくるのは良くあることだったし、石を投げつけらるのも珍しい事ではなかった。
いつもなら避けるなりカバンを使って叩き落とす叩き返す位の事は出来る。
ただ、昨日に限って体調が悪く反応が鈍かったのが怪我を負った原因である。
もっとも、報復はしっかりと果たしたが。
やられて大人しく泣き寝入りなどあり得ない。
やられたら二度とそんな気も起きない位に倍返しする主義である。
自分が嫌われているのは分かり切っている事だし、他人に好かれる様な性格をしてるつもりもない
他人から向けられる悪意や害意には慣れている。
味方などいない場所だ。
オフィーリアはクスッと自らを嘲笑う。
「味方」という発想その物がおめでたい思考だ。
一体、他人に何を期待しているのか。
他人に期待も希望も関心すらもたないのが一番だと言うのに。
今の思考は語弊ががある。
自分にとっては落ち着いて過ごせる場所など、気味悪がって誰も寄り付かないこの森位である。
ふと、オフィーリアは空を仰ぎ見る。
近づく慣れた気配に自然と口元が緩む。
「ニーニア」
青い空の彼方から1羽の梟ふわりと優雅にが舞い降りる。
艶やかな漆黒の美しい毛並みと猛禽類特有のギラリとした銀の瞳。
ニーニアと呼ばれた梟は携えてきた包みをオフィーリアに向けて投げる。
「ありがとうニーニア。御苦労さま」
投げられた包みを難無く受け取り、カバンから取り出したビスケットを1つ与える。
それを咥えながらニーニアは近くの枝に止まりじっとオフィーリアを見つめていた。
その視線を感じながらオフィーリアは包みを開けていく。
包みの中には手紙と美しい装飾の金の鍵が入っていた。
「…綺麗」
思わずそう呟いてしまうほど美しく重厚な雰囲気漂う金の鍵。
アンティーク品の風情があるそれは見た目よりずっと重く、これが本物の金である事は子供であるオフィーリアにも容易に察しがついた。
続けて手紙を開けてみればそこにはいつも惜しみない愛情を向けてくれる未だあった事の無い母からの言葉。
≪愛娘のオフィーリアへ
11歳のお誕生日おめでとう。
貴女の成長する姿がこの目で見れない事が本当に残念です。
きっと愛らしくそして美しく成長している事でしょう。
オフィーリア。貴女はこれから一つの選択を迫られます。
貴女はそれを選んでも良いし選ばなくても良い。
それは貴女の自由であり権利です。
この1年が貴女の驚きと喜びに満ち溢れた年である事を心から祈っています。
PS 同封した鍵は常に肌身離さず持ち歩きなさい。
貴女の運命の扉を開く鍵です。
決して失くさないように。
母より≫
読み終えた手紙を閉じてオフィーリアは着ていたセーターの中から首に掛けた金色のロケットペンダントを取り出す。
“S”の文字が刻まれたこのロケットは不思議な事に開かない。
けれど、そんな事はオフィーリアには関係の無かった。
オフィーリアにとって、このロケットは宝物。
父の物だというこのロケットはこの孤児院に預けられた時から身に着けていた唯一の物。
父に繋がる数少ない手掛かりだ。
だから、オフィーリアはこのロケットを何より大切にしている。
文字が刻まれたトップの石は重厚な緑の輝きを放っている。
オフィーリアはロケットのチェーンに鍵を通すと再び首に掛け直し浮くの中にしまう。
服の上からそれに手を当ててオフィーリアは倖せそうに目を細める。
「いつか――」
探しに行くから。
そしたら一緒に暮らそう。
私だって願ってる。
「いつか――」
一緒に暮らせる日を願ってる。
10月になって間もない頃のある日の事。
穏やかな土曜日の昼下がり。
孤児院の裏手にある鬱蒼とした陰気な森の淵に今日もオフィーリアは来ていた。
お気に入りの巨木の根元に腰を降ろして幹に背を預けて本を開く。
背中を覆うほどもある髪は長く西洋では珍しい漆黒で癖がない。
本の文字を追う瞳は自他共に認める血の様な真紅。
オフィーリアは自分のこの瞳があまり好きではなかった。
異様なほどに白い肌に浮かぶ青あざがその証の様なものだった。
目の近く痛ましく浮かぶ青いあざ。
そのアザに触れながらオフィーリアは柳眉を寄せて不快感をあらわにする。
昨日学校で投げつけられたペンケースを避け損なったが故にできたアザだ。
一応冷やす事は冷やしたが、一晩経ってもアザはじくじくと痛んだ。
一歩間違えば目にぶつかり失明しかねない位置の怪我だが、この孤児院においてオフィーリアを心配する者などいない。
職員ですらオフィーリアの周囲で起こる奇怪な現象の数々を恐れ必要以上に近づこうとはしなかった。
子供たちからはは言わずもかな。
物が飛んでくるのは良くあることだったし、石を投げつけらるのも珍しい事ではなかった。
いつもなら避けるなりカバンを使って叩き落とす叩き返す位の事は出来る。
ただ、昨日に限って体調が悪く反応が鈍かったのが怪我を負った原因である。
もっとも、報復はしっかりと果たしたが。
やられて大人しく泣き寝入りなどあり得ない。
やられたら二度とそんな気も起きない位に倍返しする主義である。
自分が嫌われているのは分かり切っている事だし、他人に好かれる様な性格をしてるつもりもない
他人から向けられる悪意や害意には慣れている。
味方などいない場所だ。
オフィーリアはクスッと自らを嘲笑う。
「味方」という発想その物がおめでたい思考だ。
一体、他人に何を期待しているのか。
他人に期待も希望も関心すらもたないのが一番だと言うのに。
今の思考は語弊ががある。
自分にとっては落ち着いて過ごせる場所など、気味悪がって誰も寄り付かないこの森位である。
ふと、オフィーリアは空を仰ぎ見る。
近づく慣れた気配に自然と口元が緩む。
「ニーニア」
青い空の彼方から1羽の梟ふわりと優雅にが舞い降りる。
艶やかな漆黒の美しい毛並みと猛禽類特有のギラリとした銀の瞳。
ニーニアと呼ばれた梟は携えてきた包みをオフィーリアに向けて投げる。
「ありがとうニーニア。御苦労さま」
投げられた包みを難無く受け取り、カバンから取り出したビスケットを1つ与える。
それを咥えながらニーニアは近くの枝に止まりじっとオフィーリアを見つめていた。
その視線を感じながらオフィーリアは包みを開けていく。
包みの中には手紙と美しい装飾の金の鍵が入っていた。
「…綺麗」
思わずそう呟いてしまうほど美しく重厚な雰囲気漂う金の鍵。
アンティーク品の風情があるそれは見た目よりずっと重く、これが本物の金である事は子供であるオフィーリアにも容易に察しがついた。
続けて手紙を開けてみればそこにはいつも惜しみない愛情を向けてくれる未だあった事の無い母からの言葉。
≪愛娘のオフィーリアへ
11歳のお誕生日おめでとう。
貴女の成長する姿がこの目で見れない事が本当に残念です。
きっと愛らしくそして美しく成長している事でしょう。
オフィーリア。貴女はこれから一つの選択を迫られます。
貴女はそれを選んでも良いし選ばなくても良い。
それは貴女の自由であり権利です。
この1年が貴女の驚きと喜びに満ち溢れた年である事を心から祈っています。
PS 同封した鍵は常に肌身離さず持ち歩きなさい。
貴女の運命の扉を開く鍵です。
決して失くさないように。
母より≫
読み終えた手紙を閉じてオフィーリアは着ていたセーターの中から首に掛けた金色のロケットペンダントを取り出す。
“S”の文字が刻まれたこのロケットは不思議な事に開かない。
けれど、そんな事はオフィーリアには関係の無かった。
オフィーリアにとって、このロケットは宝物。
父の物だというこのロケットはこの孤児院に預けられた時から身に着けていた唯一の物。
父に繋がる数少ない手掛かりだ。
だから、オフィーリアはこのロケットを何より大切にしている。
文字が刻まれたトップの石は重厚な緑の輝きを放っている。
オフィーリアはロケットのチェーンに鍵を通すと再び首に掛け直し浮くの中にしまう。
服の上からそれに手を当ててオフィーリアは倖せそうに目を細める。
「いつか――」
探しに行くから。
そしたら一緒に暮らそう。
私だって願ってる。
「いつか――」
一緒に暮らせる日を願ってる。