絶望のオフィウクス
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だが、世間に知られていない事が一つだけある。
闇の帝王と女王の間には一人の子供がいたのだ。
セブルスはその事を唐突に思い出した。
きっかけはおそらく、黒い雄々しく優雅な一羽の梟が運んできた一通の手紙。
上質だとわかる羊皮紙に書かれた端的で一瞬何の事かさえ分からないようなたった一言。
《 貴方は憶えているかしら? 》
その言葉が頭にしみ込んだきた瞬間、怒涛の勢いでに溢れんばかりに記憶が蘇えってきた。
頭がグシャグシャに掻きまわされる様な感覚と割れるような痛みに襲われながらもセブルスは思い出した。
まるで白昼夢でもみたいたかの様な錯覚がした。
何故今まで忘れていたのだろう。
あの女の事を、あの女と忌むべき系譜の血を引いた禁忌の子供の存在を。
あの忌々しくも可憐な美貌で不敵に微笑する女を。
何故―――
だが記憶を取り戻してからのセブルスの行動は早かった。
ダンブルドア事のあらましを伝えると、ホグワーツノ入学者名簿を開いた。
そして見つけたのは当然の様に名を連ねられた“ブラック”の姓を持つ少女の名。
現在ブラックの姓を名乗っているのは十数年ほど前から行方不明になっている長女とアズカバンに居る長男、死んだとされる次男。
消息は分かっていないが可能性として高いのは長女の血縁者という線だ。
誰も結婚もしていなければ子供もいないはずだ―――はずだった。
「やはり…女王(あの女)の娘か……」
セブルスは名簿を睨みつけながら忌まわしげに呟く。
脳裏に浮かぶのはその名の通りの並外れた美貌と比類なき才能にあふれた、当代一の天才と謳われた魔女。
アプロディテ=ブラックその人である。
ブラック家の直系に珍しい紫の双眸。
数々の古代魔法の謎を解き明かし、現代人に扱えぬはずの古代魔法を容易く使いこなす膨大にして甚大な、魔力の持ち主だ。
そしてその才能と美貌故に闇の帝王をも魅了した恐るべき魔性の女である。
点と点が繋がった。
死喰人達が悉く“女王”の素性を忘れてしまったわけだ。
おそらくアプロディテが死喰人全員に魔法をかけたのだ。
“女王”という存在だけを残し、中身を忘れさせる。
とてつもなく高度で複雑な魔法だ。
それを一人ではなく死喰人全員にかけたのだからその実力と才能にはほとほと舌を巻くものである。
この上なく面倒な作業に違いない。
だがアプロディテには必要だった。
他ならぬ、我が子を隠し守る為に。
父親の姓は名乗れない以上、母の姓を使わざるを得ない。
けれど、女王=アプロディテの構図が世間に知れ渡ればブラックの姓を名乗るのは闇の帝王の子供だと言っているようなものだ。
下手をすれば赤子であろうと殺されかねない。
そしてアプロディテは分かっていたのだろう。
とらえられた死喰人達が保身のために“女王”の存在を魔法省に漏らすであろう事を。
それを回避する為の手段だと考えるのならば、あの女なの根回しの良さと用意周到ぶりは相変わらずであり流石といえる。
その抜け目の無さは正しくスリザリンといえるだろう。
嗚呼、なんとと忌まわしい―――
マグルの孤児院で一角で立ち止まったセブルス。
建物の窓から覗く院裏の鬱蒼とした森の淵に佇む少女がいた。
森の方をひた見据えている。
その見覚えがある過ぎる横顔に、紅い瞳に、セブルスは我知らずと戦慄した。
可憐な美貌の面差しと静かな真紅の眼。
瞳の色こそ違えど、その面差しはまさしく、女王(あの女)そのもので―――。
セブルスはアメジストの双眸を忌まわしいと思っているがルビーの眼を恐れいる。
血を連想させる真紅は硬質な至高の宝玉であり、この世の何よりも情に欠けていた。
あれと同じ真紅の眼が残虐に歪むのを幾度と見てきた。
色鮮やかな色彩とは真逆の冷然とした真紅。
闇の帝王を象徴し、連想させるその紅い眼。
その二つの特徴を見れば聞かずともわかる。
あれだ。
あの少女こそが、女王(あの女)の娘だ。
かつて“見た者の魂を抜いてしまう”とまで謳われたアプロディテの美貌を見事なまでに受け継いでいた。
脳裏に浮かぶのは豪奢な椅子に足を組みながら悠然と腰掛け、不敵とも傲慢とも云える微笑をたたえる姿。
その面差しを幼くしただけの少女が無感動な瞳で無表情のまま佇んでいた。
唐突に少女がスッと此方に視線を向けた。
その瞳は、良く言えば静かで悪く言えば冷ややかなモノだった。
一瞬チラリと此方に目を向けるが、それは本当に一瞬の事だった。
直ぐに興が削がれたが如く視線は外される。
少女は昼間だと言うのにどこか薄暗い鬱蒼とした森に視線を戻すとそのまま森の中に入っていった。