大國日神記第二話:桃花の秘め事
大國日神記第二話:桃花の秘め事
老いも終わりも無い常世(とこよ)で生きる彼らに“肉体”という枷(かせ)を与え、現世(うつしよ)に繫ぎ止める術。それが私たち『神依児(しんいじ)』。
私は神を現世に縛り付ける鎖として、かつて私を縛り付けた此処にまた来てしまった。
父の上辺(うわべ)だけの言葉を聞いても、大金を握らされそうになっても、何も感じなかった。ただ…この戦いで力を使う為に自分は産まれてきたのだ、という根拠の無い確信だけが沸々(ふつふつ)と心に湧き上がってきただけだった。
幼児(おさなご)の様に丸っこいのに、何の揺らめきもない無機質な魂を持った私の“神様”。私はこの方と共に全てを壊し、そして共に道を作っていくのね…。
“ある程度の荷物は神社に送っておかなくちゃ”と、噺家 明(ハナシカ メイ)はその細い指を優雅にくるくると回した。すると、何匹か童子(わらべ)の様な見た目をした式神が召喚され、明はそれに部屋の荷物を纏めさせる。
彼女の住居は昔ながらの喫茶店の様な情緒があり、この街で異質な雰囲気を持ち佇んでいた。ふんわりと慣れた手つきで玄関に手をかける。
「ぎゃッッッッ!!!!!!!!痛ッッ…痛ってェ〜……………………!!」
ドアをぶつけられた男は尻尾を踏まれた猫の様な悲鳴を上げて痛みに飛び跳ねた。彼は明の古風で上品な住まいの景観に似合わない“如何にも若者”という風な格好をしており、傍(はた)から見れば少し不審者の様である。
「あら、遥くん来てたのね。悪いけど、私はこれから荷物を神社に送らなきゃいけないの…お茶は出来そうにないわ」
その言葉を聞き、黒澤 遥(クロサワ ハルカ)は何故か大穴が当たったかの様にニンマリと笑って“神社…へえ〜、明さんが神社にねぇ………”と呟いた。
「明さん、別にキチンとした所じゃなくて良いんだ…お茶もいらない。おたくと話したい事があるからさ〜、ちょお〜っとで良いんだ!ちょっと時間くれない?」
「……………。そうね…まだ椅子とかは片付けられてないし、遥くんがこんな真剣に他人に頼み事をするなんて珍しいから……良いわ、少し待っててね」
…………………………………
「明さん、もし違うかったらこの話は忘れてくれ。…おたくってさぁ…………神依児、…だよな?」
「ええ、そうよ。でも…ここで私を殺したら違反だとして貴方も政府に殺されてしまうわよ」
明は淡々と言葉を発する。
先に起こる争いも“運命”として受け入れた彼女の態度に遥は“分かんねえ”という風に顔を歪めたが、それは話の本筋ではないので敢えて言及しなかった。
「明さん、俺と組まない?変な気とか起こしたりしないからさ〜〜〜、よろしく頼むよ」
「ふふ、そんな事だろうと思ってたわ、良いわよ」
「えっ!?おたくそんな軽くて良いのかよ!?ありがたいけどさ〜〜命賭ける戦いなんだぜ?」
「だって私は他人(ひと)の魂が見えるんですもの。貴方が誠心誠意、頼み込んでくれてる事くらい分かっているわ。それに私の神様は非常に穏やかな方よ、きっと貴方の事も喜んで受け入れてくださるわ」
捻くれ者である遥も明の前では赤子の様にころころと弄ばれてしまう為、遥は契約が予想以上にあっさり通った嬉しさが半分、自分の優等生っぽい部分が見抜かれて気に食わなさが半分といった心持ちであった。
「んじゃ、明さん。俺が調べておいた他の神社や神々についての資料とか読んであげるからさ〜。また作戦とか練りにお邪魔させてもらうわ。俺は絶対に死にたか無いからな」
「助かるわ。お互いに良い風が吹けば良いわね」
………………………………………………
「そそぐクン!もう一度言っておくけど、ボクと君との関係は飽くまでも『情報交換をする仲』だからね?戦闘に関して何か求められたってボクは何も出来ないよ!キミが戦うしかないからねっ!❤️」
「え…は、はい。分かっています。おれはあまり他の神社について調べてなかったので助かります。おれの方からも何か提供出来る情報があれば随時伝えます…」
“兄との関係を何とかしたい”という私的な感情で相手の手を取ってしまった…、そんな自己嫌悪の心と相手への懐疑心を顔に浮かべたまま、怯えた様子で受け答えをしている。
対照的に喋喋喃喃は大袈裟な相槌を打ちながら漱をニマニマと眺めていた。
「う〜ん、とりあえずボクから今のところアドバイス出来る事と言えば……あっ!…そそぐクン、キミは学校でボク達十二幻神がこの國で何をしてきたかをどんな風に習ったかな?」
「え…えっと……。“この國に降り注ぐ厄災を振り払う”と…」
喋喋喃喃がにんまり笑う。少女の様に可愛い顔だが目に光は無い。
「そうだね、その通りだよ、キミはお利口さんだね!でも、厄災というのはあまりに大きなエネルギーだ、それを完全にゼロにするなんてボク達にとっても難しいところがある…」
「なら…どうするんですか…?」
「閉じ込めちゃうのさ!」
相手が何を伝えたいのか分からずに漱は喋喋喃喃の顔を見上げた。喋喋喃喃の顔は人形の様にピクリとも動かない。
「これから話すのは嘘か本当かも分からない昔々のそれまた大昔の話だよ…でも!他の神を安全に殺すには何か大きな力が必要だと思わないかい?それに、少しでも手持ちの情報は多い方が良いよね!」
………………………
遥か昔…神、妖、強大な獣でさえ大國日では『人智を超えたもの』として人々の畏敬の対象となった。時に暴れ狂う雷雨の主人を奉り、時に疫病を撒き散らかした悪神を奉った。この地の人々にとっては超越した力こそが畏敬の対象である。それは例え、禁忌を犯して手に入れた力でも変わらない。
老いも終わりも無い常世(とこよ)で生きる彼らに“肉体”という枷(かせ)を与え、現世(うつしよ)に繫ぎ止める術。それが私たち『神依児(しんいじ)』。
私は神を現世に縛り付ける鎖として、かつて私を縛り付けた此処にまた来てしまった。
父の上辺(うわべ)だけの言葉を聞いても、大金を握らされそうになっても、何も感じなかった。ただ…この戦いで力を使う為に自分は産まれてきたのだ、という根拠の無い確信だけが沸々(ふつふつ)と心に湧き上がってきただけだった。
幼児(おさなご)の様に丸っこいのに、何の揺らめきもない無機質な魂を持った私の“神様”。私はこの方と共に全てを壊し、そして共に道を作っていくのね…。
“ある程度の荷物は神社に送っておかなくちゃ”と、噺家 明(ハナシカ メイ)はその細い指を優雅にくるくると回した。すると、何匹か童子(わらべ)の様な見た目をした式神が召喚され、明はそれに部屋の荷物を纏めさせる。
彼女の住居は昔ながらの喫茶店の様な情緒があり、この街で異質な雰囲気を持ち佇んでいた。ふんわりと慣れた手つきで玄関に手をかける。
「ぎゃッッッッ!!!!!!!!痛ッッ…痛ってェ〜……………………!!」
ドアをぶつけられた男は尻尾を踏まれた猫の様な悲鳴を上げて痛みに飛び跳ねた。彼は明の古風で上品な住まいの景観に似合わない“如何にも若者”という風な格好をしており、傍(はた)から見れば少し不審者の様である。
「あら、遥くん来てたのね。悪いけど、私はこれから荷物を神社に送らなきゃいけないの…お茶は出来そうにないわ」
その言葉を聞き、黒澤 遥(クロサワ ハルカ)は何故か大穴が当たったかの様にニンマリと笑って“神社…へえ〜、明さんが神社にねぇ………”と呟いた。
「明さん、別にキチンとした所じゃなくて良いんだ…お茶もいらない。おたくと話したい事があるからさ〜、ちょお〜っとで良いんだ!ちょっと時間くれない?」
「……………。そうね…まだ椅子とかは片付けられてないし、遥くんがこんな真剣に他人に頼み事をするなんて珍しいから……良いわ、少し待っててね」
…………………………………
「明さん、もし違うかったらこの話は忘れてくれ。…おたくってさぁ…………神依児、…だよな?」
「ええ、そうよ。でも…ここで私を殺したら違反だとして貴方も政府に殺されてしまうわよ」
明は淡々と言葉を発する。
先に起こる争いも“運命”として受け入れた彼女の態度に遥は“分かんねえ”という風に顔を歪めたが、それは話の本筋ではないので敢えて言及しなかった。
「明さん、俺と組まない?変な気とか起こしたりしないからさ〜〜〜、よろしく頼むよ」
「ふふ、そんな事だろうと思ってたわ、良いわよ」
「えっ!?おたくそんな軽くて良いのかよ!?ありがたいけどさ〜〜命賭ける戦いなんだぜ?」
「だって私は他人(ひと)の魂が見えるんですもの。貴方が誠心誠意、頼み込んでくれてる事くらい分かっているわ。それに私の神様は非常に穏やかな方よ、きっと貴方の事も喜んで受け入れてくださるわ」
捻くれ者である遥も明の前では赤子の様にころころと弄ばれてしまう為、遥は契約が予想以上にあっさり通った嬉しさが半分、自分の優等生っぽい部分が見抜かれて気に食わなさが半分といった心持ちであった。
「んじゃ、明さん。俺が調べておいた他の神社や神々についての資料とか読んであげるからさ〜。また作戦とか練りにお邪魔させてもらうわ。俺は絶対に死にたか無いからな」
「助かるわ。お互いに良い風が吹けば良いわね」
………………………………………………
「そそぐクン!もう一度言っておくけど、ボクと君との関係は飽くまでも『情報交換をする仲』だからね?戦闘に関して何か求められたってボクは何も出来ないよ!キミが戦うしかないからねっ!❤️」
「え…は、はい。分かっています。おれはあまり他の神社について調べてなかったので助かります。おれの方からも何か提供出来る情報があれば随時伝えます…」
“兄との関係を何とかしたい”という私的な感情で相手の手を取ってしまった…、そんな自己嫌悪の心と相手への懐疑心を顔に浮かべたまま、怯えた様子で受け答えをしている。
対照的に喋喋喃喃は大袈裟な相槌を打ちながら漱をニマニマと眺めていた。
「う〜ん、とりあえずボクから今のところアドバイス出来る事と言えば……あっ!…そそぐクン、キミは学校でボク達十二幻神がこの國で何をしてきたかをどんな風に習ったかな?」
「え…えっと……。“この國に降り注ぐ厄災を振り払う”と…」
喋喋喃喃がにんまり笑う。少女の様に可愛い顔だが目に光は無い。
「そうだね、その通りだよ、キミはお利口さんだね!でも、厄災というのはあまりに大きなエネルギーだ、それを完全にゼロにするなんてボク達にとっても難しいところがある…」
「なら…どうするんですか…?」
「閉じ込めちゃうのさ!」
相手が何を伝えたいのか分からずに漱は喋喋喃喃の顔を見上げた。喋喋喃喃の顔は人形の様にピクリとも動かない。
「これから話すのは嘘か本当かも分からない昔々のそれまた大昔の話だよ…でも!他の神を安全に殺すには何か大きな力が必要だと思わないかい?それに、少しでも手持ちの情報は多い方が良いよね!」
………………………
遥か昔…神、妖、強大な獣でさえ大國日では『人智を超えたもの』として人々の畏敬の対象となった。時に暴れ狂う雷雨の主人を奉り、時に疫病を撒き散らかした悪神を奉った。この地の人々にとっては超越した力こそが畏敬の対象である。それは例え、禁忌を犯して手に入れた力でも変わらない。
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