その後、鴆の薬を塗り、湿布を施された夢主は猩影たちからの物言いたげな視線を下を向いているだけで、跳ね除けることはできなかった。

「猩影、久しぶりだし、ごはん食べていきなさい」
「はい、ありがとうございます」
毛娼妓の誘いを快く受けた。

「夢主様、今日はお部屋に運びますね」
首無が言う。

「猩影、夢主に飯食わしてやれ、こう、あーんってやつで」
鴆がとんでもないことを言い出せば、夢主がやっと顔を上げた。

「鴆くん！大丈夫だってば、自分で食べられるよ」
夢主はそう言うが、鴆は更に続ける。

「こういう怪我はその時には痛くないものなんだよ。大抵後から痛み出す。それに、夢主の大丈夫が当てにならないのがわかったろ？」
「はい、今日は何度聞いたか…」
「じゃ、そういうことだ。夢主、明日もこの薬を塗って、あんまり腕を使うなよ」
鴆はそう言い残して薬を置いて去っていく。

「私たちも夕飯の支度に戻りますね」
毛娼妓と首無も夢主の部屋を後にする。

「夢主」
「ごめんなさい…」
「何度も言うが、俺だって夢主に傷ついてほしくない。だけど、隠されるのはもっと嫌だ」
「隠すつもりは、」
まさか青く腫れているとは思いもしなかった。そしてまさかそれをこんなに怒られるなんて。それは夢主を思ってのことだと夢主自身も理解している。

「明日から覚えとけよ」
猩影は、怪我を隠したことを怒ってはいるが、夢主の反応がだんだん面白くなってきた。しゅん、と小さくなっていく夢主。
明日から暫く、夢主は猩影に世話を焼かれまくることになる。




おまけ

「夢主、ほら口を開けろ」
「猩くん、本当にごめんなさい。自分で食べさせてください」
「ダメだ。兄貴も腕を使うなって言ってただろう」
「う…」
その後、ようやく観念した夢主は、顔を真っ赤にして口を開けた。猩影も猩影で、そんな夢主を見て今更ながら恥ずかしくなったのは言うまでもない。
二人共、味を感じない夕食となった。