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その三
夢主の名前
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良太猫を布団に寝かすとほぼ同時に鴆が部屋へやってきた。
夢主は傷の一番深い箇所の治療に当たっている。
その姿は妖怪のそれだった。銀の髪に赤い瞳。見とれてしまうほど、美しかった。
「・・・夢主、ひどい傷は頼む。浅い傷は俺が」
鴆は、一瞬見惚れて治療を開始する。
「・・・うん」
猩影は夢主の後ろでその光景を見守っている。
怪我をした良太猫も心配だが、それよりも夢主のことが心配だった。
夢主は誰かが傷つくことを極端に恐れる。先ほどの震えといい、良太猫を見つけたときから顔色がよくなかった。
本当は今すぐにでも抱きしめたい。そんな思いを胸に秘め、猩影は拳を握り締めた。
治療が落ち着いたころ、また屋敷が騒がしくなった。
「ボクには力なんてないんだー!」
夢主たちは良太猫を鴆に任せて部屋に移動する途中だった。
リクオが勢いよく庭へ飛び出す。
「リクオ!・・・何があったの」
夢主は近くにいた黒田坊に聞いた。
「夢主様、猩影殿・・・、リクオ様のご学友が旧鼠に捕まって、それを助けるために三代目を終生継がぬと・・・」
「旧鼠って・・、猩くん!」
「はい、良太猫の件と」
「三代目を捨てることは、下僕を見捨てることですぞ」
「リクオ様!」
「うるさい」
カラス天狗たちと言い争うリクオ。夢主はリクオを宥めるべく、声を掛けようとするが言葉が見つからない。
「リクオ・・・」
その時、庭の桜を揺らすほど、強く風が吹く。
風に巻かれる花びら。
闇の中に現れる人影。
時が止まったかのような静寂は一瞬。
「カラス天狗、みなをここへ呼べ。夜明けまでの鼠狩りだ」
凛と響くその声は夜の姿をしたリクオのものだった。
「リクオ様!」
「若!」
方々から歓声が上がる。
リクオは夢主に気づき、夢主のもとへやってきた。
「夢主、顔色が良くねぇ」
「だ、大丈夫よ」
「猩影」
リクオが静かに猩影を呼ぶ。
「はい、若」
「オレは鼠を狩ってくる。気にくわねぇが、その間、姉貴を頼むぜ」
「はい!」
リクオを先頭に百鬼夜行が出入りに向かう。夢主はその光景をぼぅと眺めていた。
ふいに、後ろから抱きしめられる。
「猩くん・・・?」
「夢主」
「どうしたの」
「無理するな。辛いときは、俺を頼ってくれ」
「・・・ありがとう。でももう、平気だから」