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その二十六
夢主の名前
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そして師走
師までもが走るほど忙しいこの時期、雪女の氷麗はいつにも増してせかせかと走っていた。
「わあっ!あ、ごめんなさい、大丈夫?」
ひんやりと冷える朝の廊下で、夢主は誰かとぶつかった。
幸い、大型の妖怪ではなかったため尻餅をつくほど飛ばされはしなかった。
「す、すいません!!あ!夢主様!お怪我はありませんか?」
顔を上げた氷麗は、ぶつかった相手が夢主だとわかると、さらに慌てた。
「大丈夫よ。氷麗こそ、怪我はない?朝から慌ててどうしたの?」
「今日はガラクタ市なんです!そのお手伝いにいくことになりまして」
「荒鷲組の?」
「そうです!母が昔預かっていたシマなんです」
「そっか!雪羅さんがね。がんばってね、氷麗!」
「はい!ありがとうございます」
「ガラクタ市か。放課後覗いてみようぜ」
今朝の氷麗の様子を猩影に話せば、意外にも彼はガラクタ市に興味があるらしかった。
忙しい合間を縫って、猩影は夢主との日常を送っている。
「デート久しぶりだね!」
今日は猩影の放課後も予定がないのだろう。
神社の境内で開かれた市場には、各地から集められた骨董品が数多く並んでいた。
見る者が見れば名品逸品がわかるのだろうが、猩影と夢主の二人には目利きは難しかった。しかしアンティークに囲まれ、品物を見て回るだけでも楽しい。これは何を入れる器かなどと話しながら歩いた。
「夢主ー!」
呼び声に振り返るとそこには牛頭丸と馬頭丸がいた。
「ふたりとも来てたんだ」
「ちょっと息抜きにね〜牛頭丸は氷麗を見に来たんだよね〜」
「は!?ば、そんなわけねぇだろ!」
二人のやり取りに夢主は、つい可笑しくなってふふっと笑いをこぼす。
「何笑ってんだ夢主!」
「必死だな、牛頭丸」
「うっせーデカ猿!」
「なんだと?!」
「もう、猩くんも、喧嘩しないで。牛鬼組の強化で大変だろうけど、偶にはこういう息抜きも必要よね」
夢主は猩影と牛頭丸の言い争いを止める。
「夢主、楽しそうだね」
「え?馬頭、なに?」
「ん、最近夢主が楽しそうだから僕は嬉しいんだ!」
「そう?そんなに楽しそうかな?」
「なんだか昔に戻ったみたい」
馬頭丸の言葉に、猩影たちも言い争いをやめ、聞き入っていた。
「また牛鬼組に遊びに来てよ!ね、牛頭」
「まあ、いいんじゃね」
「そうね、また遊びに行くよ!ね、猩くん」
「ああ」
「なんでデカ猿が来んだよ!」
「だからなんで俺に突っかかるんだ!」
「ふふふっ」
「ちょっと二人とも!夢主も笑ってないで止めてよ!」
牛頭丸、馬頭丸と別れて、またブラブラと歩いていたときだった。ガシャンと何かが崩れるような壊れるような大きな音がした。それも一度ではない。
「何の音?!」
周囲を見回す。音は神社の社の方から聞こえた。
「夢主、俺から離れるなよ」
猩影が夢主を引き寄せた。
「猩くん」
目配せをすれば、猩影は頷いた。
彼も感じたはずだ。妖怪の畏れを。
「行ってみよう」
人間が多くいる場所で妖怪が暴れているなら、することはひとつだ。
人の流れに逆らって駆けつけると、骨董品と思われる置物や器物が氷漬けにされ、勢いをなくしていた。
そしてその先には瀬戸物が組み合わさってできたであろう妖怪が今にも暴れようとしている。
「猩くん、あれ!」
「ああ!」
猩影が妖怪に突っ込んでいく。そして大きな手で妖怪を薙ぎ払う。
追いかけるように氷の塊をハンマーのように携えた氷麗が妖怪を叩いた。
「氷麗!」
「夢主様!猩影!」
妖怪は猩影と氷麗の打撃でバラバラになった。しかし、砕けた破片がまだ動き回って人々を襲いにかかっている。
夢主は逃げる人々を誘導し、妖怪から遠ざけようとしていた。
「みなさん、こちらへ!早く離れて!きゃ!」
骨董品だったものが夢主に襲いかかる。小さな破片から大きなものまで様々なものが降りかかる。
「夢主!」
猩影が叫ぶが夢主に近づくことができない。
夢主は腕を降って破片を薙ぎ払った。避けてしまうと逃げる人々に当たってしまう。そのうち大きな破片が夢主を目掛けて飛んで来る。夢主は避けることなく咄嗟に腕を盾にした。
ガシャンと衝撃がきて、身体が後ろに弾き飛ばされた。
だが、地面にぶつかる衝撃はない。
「お嬢!本家のお嬢ですよね」
夢主を受け止めたのは、強面の男だった。
「てめーら!ここは荒鷲一家のシマだ!勝手に暴れんじゃねぇ!」
「あなたは荒鷲組の!」
「へい!ここは俺らのシマです。お嬢、怪我はありませんか?」
「ありがとう。大丈夫です」
男は荒鷲組の一員で、被害が少ないところへ夢主を避難させると、妖怪たちに向かっていった。
味方の登場で、猩影はようやく戦線から離脱し、夢主のもとへ駆け寄ることができた。
「夢主、大丈夫か?無茶すんな」
「猩くんこそ・・・」
「夢主、怪我して、」
「あ、」
猩影に言われて初めて気がついた。手に数カ所切り傷ができている。
「痛くないから大丈夫だよ」
夢主はハンカチを出して、猩影から隠すように傷口に滲む血を押さえた。
「そういう問題じゃねぇよ。早く帰って治療しよう」
「でも、ちょっと待って」
夢主は妖怪が暴れて人間に襲いかかっているのをそのままに帰ることはできないと思った。
二人が話している間に、神社の社の方で一際大きな音が聞こえた。氷麗が、骨董品を操っていた元凶を氷漬けにして倒した。
「ハイ!今回だけの特別イベント『氷と骨董品のイリュージョン』いかがだったでしょうか」
荒鷲一家の一人が声高らかにそう言うと、周辺にいた人々は、今の出来事を演出だと思い込んだようだった。
「本日はこれにてお開き!また来年もよろしくー!」
氷麗は、何事もなかったかのように去っていく人々にポカンとしてしまう。
「氷麗、大丈夫?」
夢主と猩影は氷麗のもとに向かった。
「夢主様!猩影、さっきは助かったわ」
「いえ、でもこの騒ぎは一体?」
「どうやら不遇に扱われた器物が邪悪な付喪神になったようです」
「それが暴れたのね。でも荒鷲組のお陰で、大事にならずに終わりそうね」
夢主が振り返ると、荒鷲組の妖怪が一同に介していた。
「ここは江戸の頃から俺たち荒鷲一家のシマだ。けどそりゃー百物語組なんかの敵対する組から二代目や雪羅さんが体張って守ってくれたからこそ」
荒鷲組の面々が氷麗に向き直る。
「今日のあんたみたいな。俺たちぁ、あんたに従うよ!」
「ありがとうございます。でもあの・・・みなさん、私じゃなく、三代目奴良組の力になってほしいんです!」
荒鷲組と氷麗の話がまとまったとき、猩影が徐に動き出した。
「氷麗の姐さん、夢主が怪我しちまったんで、先に本家に帰りますね」
「夢主様がお怪我を!?」
「あとは任せます」
師までもが走るほど忙しいこの時期、雪女の氷麗はいつにも増してせかせかと走っていた。
「わあっ!あ、ごめんなさい、大丈夫?」
ひんやりと冷える朝の廊下で、夢主は誰かとぶつかった。
幸い、大型の妖怪ではなかったため尻餅をつくほど飛ばされはしなかった。
「す、すいません!!あ!夢主様!お怪我はありませんか?」
顔を上げた氷麗は、ぶつかった相手が夢主だとわかると、さらに慌てた。
「大丈夫よ。氷麗こそ、怪我はない?朝から慌ててどうしたの?」
「今日はガラクタ市なんです!そのお手伝いにいくことになりまして」
「荒鷲組の?」
「そうです!母が昔預かっていたシマなんです」
「そっか!雪羅さんがね。がんばってね、氷麗!」
「はい!ありがとうございます」
「ガラクタ市か。放課後覗いてみようぜ」
今朝の氷麗の様子を猩影に話せば、意外にも彼はガラクタ市に興味があるらしかった。
忙しい合間を縫って、猩影は夢主との日常を送っている。
「デート久しぶりだね!」
今日は猩影の放課後も予定がないのだろう。
神社の境内で開かれた市場には、各地から集められた骨董品が数多く並んでいた。
見る者が見れば名品逸品がわかるのだろうが、猩影と夢主の二人には目利きは難しかった。しかしアンティークに囲まれ、品物を見て回るだけでも楽しい。これは何を入れる器かなどと話しながら歩いた。
「夢主ー!」
呼び声に振り返るとそこには牛頭丸と馬頭丸がいた。
「ふたりとも来てたんだ」
「ちょっと息抜きにね〜牛頭丸は氷麗を見に来たんだよね〜」
「は!?ば、そんなわけねぇだろ!」
二人のやり取りに夢主は、つい可笑しくなってふふっと笑いをこぼす。
「何笑ってんだ夢主!」
「必死だな、牛頭丸」
「うっせーデカ猿!」
「なんだと?!」
「もう、猩くんも、喧嘩しないで。牛鬼組の強化で大変だろうけど、偶にはこういう息抜きも必要よね」
夢主は猩影と牛頭丸の言い争いを止める。
「夢主、楽しそうだね」
「え?馬頭、なに?」
「ん、最近夢主が楽しそうだから僕は嬉しいんだ!」
「そう?そんなに楽しそうかな?」
「なんだか昔に戻ったみたい」
馬頭丸の言葉に、猩影たちも言い争いをやめ、聞き入っていた。
「また牛鬼組に遊びに来てよ!ね、牛頭」
「まあ、いいんじゃね」
「そうね、また遊びに行くよ!ね、猩くん」
「ああ」
「なんでデカ猿が来んだよ!」
「だからなんで俺に突っかかるんだ!」
「ふふふっ」
「ちょっと二人とも!夢主も笑ってないで止めてよ!」
牛頭丸、馬頭丸と別れて、またブラブラと歩いていたときだった。ガシャンと何かが崩れるような壊れるような大きな音がした。それも一度ではない。
「何の音?!」
周囲を見回す。音は神社の社の方から聞こえた。
「夢主、俺から離れるなよ」
猩影が夢主を引き寄せた。
「猩くん」
目配せをすれば、猩影は頷いた。
彼も感じたはずだ。妖怪の畏れを。
「行ってみよう」
人間が多くいる場所で妖怪が暴れているなら、することはひとつだ。
人の流れに逆らって駆けつけると、骨董品と思われる置物や器物が氷漬けにされ、勢いをなくしていた。
そしてその先には瀬戸物が組み合わさってできたであろう妖怪が今にも暴れようとしている。
「猩くん、あれ!」
「ああ!」
猩影が妖怪に突っ込んでいく。そして大きな手で妖怪を薙ぎ払う。
追いかけるように氷の塊をハンマーのように携えた氷麗が妖怪を叩いた。
「氷麗!」
「夢主様!猩影!」
妖怪は猩影と氷麗の打撃でバラバラになった。しかし、砕けた破片がまだ動き回って人々を襲いにかかっている。
夢主は逃げる人々を誘導し、妖怪から遠ざけようとしていた。
「みなさん、こちらへ!早く離れて!きゃ!」
骨董品だったものが夢主に襲いかかる。小さな破片から大きなものまで様々なものが降りかかる。
「夢主!」
猩影が叫ぶが夢主に近づくことができない。
夢主は腕を降って破片を薙ぎ払った。避けてしまうと逃げる人々に当たってしまう。そのうち大きな破片が夢主を目掛けて飛んで来る。夢主は避けることなく咄嗟に腕を盾にした。
ガシャンと衝撃がきて、身体が後ろに弾き飛ばされた。
だが、地面にぶつかる衝撃はない。
「お嬢!本家のお嬢ですよね」
夢主を受け止めたのは、強面の男だった。
「てめーら!ここは荒鷲一家のシマだ!勝手に暴れんじゃねぇ!」
「あなたは荒鷲組の!」
「へい!ここは俺らのシマです。お嬢、怪我はありませんか?」
「ありがとう。大丈夫です」
男は荒鷲組の一員で、被害が少ないところへ夢主を避難させると、妖怪たちに向かっていった。
味方の登場で、猩影はようやく戦線から離脱し、夢主のもとへ駆け寄ることができた。
「夢主、大丈夫か?無茶すんな」
「猩くんこそ・・・」
「夢主、怪我して、」
「あ、」
猩影に言われて初めて気がついた。手に数カ所切り傷ができている。
「痛くないから大丈夫だよ」
夢主はハンカチを出して、猩影から隠すように傷口に滲む血を押さえた。
「そういう問題じゃねぇよ。早く帰って治療しよう」
「でも、ちょっと待って」
夢主は妖怪が暴れて人間に襲いかかっているのをそのままに帰ることはできないと思った。
二人が話している間に、神社の社の方で一際大きな音が聞こえた。氷麗が、骨董品を操っていた元凶を氷漬けにして倒した。
「ハイ!今回だけの特別イベント『氷と骨董品のイリュージョン』いかがだったでしょうか」
荒鷲一家の一人が声高らかにそう言うと、周辺にいた人々は、今の出来事を演出だと思い込んだようだった。
「本日はこれにてお開き!また来年もよろしくー!」
氷麗は、何事もなかったかのように去っていく人々にポカンとしてしまう。
「氷麗、大丈夫?」
夢主と猩影は氷麗のもとに向かった。
「夢主様!猩影、さっきは助かったわ」
「いえ、でもこの騒ぎは一体?」
「どうやら不遇に扱われた器物が邪悪な付喪神になったようです」
「それが暴れたのね。でも荒鷲組のお陰で、大事にならずに終わりそうね」
夢主が振り返ると、荒鷲組の妖怪が一同に介していた。
「ここは江戸の頃から俺たち荒鷲一家のシマだ。けどそりゃー百物語組なんかの敵対する組から二代目や雪羅さんが体張って守ってくれたからこそ」
荒鷲組の面々が氷麗に向き直る。
「今日のあんたみたいな。俺たちぁ、あんたに従うよ!」
「ありがとうございます。でもあの・・・みなさん、私じゃなく、三代目奴良組の力になってほしいんです!」
荒鷲組と氷麗の話がまとまったとき、猩影が徐に動き出した。
「氷麗の姐さん、夢主が怪我しちまったんで、先に本家に帰りますね」
「夢主様がお怪我を!?」
「あとは任せます」