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その二十五
夢主の名前
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「夢主?」
気がつくと、そこは見慣れた自室だった。
「猩くん?」
「夢主!気がついた!ってぇー」
状況がわからない。最後に猩影と会ったのは、宝船の中だったような。
当然のように起き上がると、猩影が慌てる。
「おい、まだ寝てろ。気分はどうだ?傷は痛むか?」
布団に押し戻され、夢主な自分の体の具合を確かめるが、どこも痛いところはない。
確かめるまでもなく、今回は父に助けられたのだろう。傷一つ残ってない。
「猩くん、今はいつ?あれから何日経った?」
「夢主と別れてから5日ってとこかな。あれからリクオ様が…ってひと口には語り切れねぇな」
「どういうこと?」
それから猩影は、ゆっくりと顛末を語りだした。
羽衣狐が産んだ清明は地獄に引き返した。そもそも羽衣狐の依代は、鯉伴の前妻、山吹乙女という妖だった。鏖地蔵と清明によって、反魂の術を掛けられ、羽衣狐の依代となるよう仕向けられた。
自らの手で、愛する人の命を奪った絶望が、羽衣狐の依代になるきっかけとなった。
「じゃあ、お父さんを殺したのは…」
「直接手にかけたのは、記憶を失くした山吹乙女。だが、それを操っていたのは、鏖地蔵。裏で糸を引いていたのは安倍晴明だ」
「そんな…それじゃあ…」
(山吹乙女という妖は、愛する人を自ら手にかけた)
その事実に胸が痛む。
「夢主、彼女が依代になっていなければ、鏖地蔵は、夢主を依代にするつもりだった」
ショックのあまり、自我を失うだろうことは想定内で、山吹乙女の代替え予定だった。
それに鯉伴や奴良組を貶めるには充分すぎる人材だった。
清明が地獄に帰ったあと、リクオを側に呼んだ彼女は、こう言った。
「夢主…夢主はいないの?」
「姉貴は、怪我をして休んでいる。いつも無茶するんだ」
「そう…でもよかった。あの子は出てこない方がいい。あのとき、妾の身に狐が宿らなければ、代わりになっていたでしょう」
「なに!?」
山吹乙女から聞かされる真実に、その場にいた全員が驚く。
「妾以上に、きっと鯉伴様は心を痛められたに違いありません」
「…だから、夢主はあんな目に…」
実父の死を目の当たりにし、心を閉ざした過去のある彼女。
「夢主はきっと美しい娘なのでしょう?ああ、ひと目会ってみたかった」
「ごめん…起きていきなり、こんな話を」
「ううん。話してくれてありがとう」
夢主は目を閉じた。
暗闇の中でもはっきりと思い浮かべることができる。
父が死んだあの時のこと。そこにいた少女の姿。愛する人を手に掛けて、悔しくて、つらくて、自分が許せなかった叫び声も。
「夢主?」
しばらくして、猩影が声を掛ける。目を閉じたままの彼女が心配になる。
目が覚めて、まだ本調子ではない彼女に、こんな話をしてもよかったのだろうか。今更になって後悔した。
「猩くん」
「なんだ?どこか痛むか?」
「ううん、そうじゃなくて…猩くんは?怪我してない?」
最初に目が覚めた時、聞き間違いじゃなければ、猩影もどこか傷めているのだろう。
「ダメだぞ、夢主。お前はまず自分の心配をしろ。帰りの船ん中じゃあ、熱が高くて大変だったんだ」
夢主のしようとしていることを察した猩影が彼女の肩を抑える。
「猩くん」
夢主は仰向けのまま、両腕を広げた。
猩影は自分の体を近づけ、抱擁に応える。
「いつも、待っていてくれてありがとう」
「夢主?」
「私ね、大事なことに気付いてなかった。私がこんなふうに寝ているとき、いつもいつも猩くんは待っていてくれているんだね」
「どうした?急に。俺は待ってるよ、いつまでだって」
「そっか」
夢主は微笑んだ。
「じゃあ、お待たせ。私はもう大丈夫だよ」
猩影の体を優しい光が包み込む。
「おい、夢主!やめろ」
「大丈夫。もう、何も痛くない」
驚いて体を離した猩影。今度は夢主も起き上がる。そして、スルスルと巻かれた包帯を解く。
「あのときと同じ…」
それは陰陽師に襲われた怪我がきれいに治ったときのこと。
「今度はお父さんが出てきた。怪我したの、怒られた」
「二代目が?」
「うん。猩くん、少しだけ待って」
夢主は猩影の胸に顔をうずめた。そしてすすり泣く。
乗り越えたはずだった。父の言うように、過去の出来事だと。だけど、急に思い出されたことと羽衣狐の依代の話が、記憶の断片を繋いでいくと、堪らなくなる。
ひとつも落ちのない記憶。全部全部思い出した。だからこそ、涙が溢れる。
猩影は静かに涙を流す彼女を、ただ抱きしめて待っていた。