すべての夢小説で共通です。
その二十五
夢主の名前
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楽し気な声が聞こえる。何かの祝いだろうか、酒を酌み交わし、ご機嫌な人たちのにぎやかな声。何かいいことでもあったのか。
目を開けたい。そこに混ざりたい。でもそれは叶わない。
にぎやかな宴の音の中、すすり泣く声が微かに聞こえた。ハッとそれに気づくと、瞬く間に、宴の音は掻き消えて、すすり泣く声だけが多くなった。
さっきまでのにぎやかな、楽し気な声はどこへいった。誰が泣いているのだろう。男なのか、女なのか。それすら見当もつかない。ただ悲し気なその声に、何か一声かけてやりたい。
目が開かない。起きたくても起きられない。
ふと、場面が切り替わる。先ほどまでの泣き声は消え、今度は何かが見えてきた。
白い光の塊が何かを話している。こちらに何かを伝えている。
「だれ?」
「……」
「なに?」
「……」
「だれ、なの…」
「夢主!!」
「お父さん!?」
白い塊は父、鯉伴を象った。
「やっと気が付いたか。…どうした?」
「な、なんで…お父さんがここに?」
「何でって、ここは俺の部屋だぞ?お前がこんなところで寝てるから、風邪ひくんじゃないかと思って起こしにきた」
「お父さんの、部屋?」
夢主は辺りを見渡した。確かに、記憶にある『父の部屋』だった。しかしそれはもう10年も前の記憶だ。
「なんだ?寝ぼけてんのかい?」
夢主が未だ追いつかない思考に困惑していると、鯉伴は懐から飴を出して寄こした。
「ほらよ。これでも舐めて、もう起きなさい。時期、夕食になるぞ」
「あ、ありがとう」
鯉伴が寄こした飴に、夢主はさらに困惑した。子供でもあるまいし、飴とは。
「これからリクオと散歩に行ってくる。どーもあいつぁ飴なんかじゃ釣れなくてな。夕食まで我慢がきかねぇんだ」
リクオと散歩?あれ、これどこかで…
「ねえ!お父さん!!」
夢主は立ち上がった。そこで確信する。目線が低い。
「私も一緒に行く」
身長差のある父に向け、必死に手を伸ばす。
あの日、私はどうしてたっけ?記憶があいまいで、しっかりとしたことを思い出せない。
これが夢だとしても、夢でもいいからせめて、夢の中だけでも救いたい。お父さんも、奴良組のみんなのことも。悲しむ必要なんてないんだよ。
どうしてあのとき、私は…
「それはできない」
「え…」
鯉伴の顔は真剣だ。
「夢主、それはできない相談だ。過去は、変えられねぇ」
過去…
「あの日、俺が昼寝していたお前を起こした。俺たちとは一緒に散歩に行かなかったのに、俺が起こしたばっかりに、お前は後を追いかけたな」
息を呑む。
「お前はあの日、家から出なけりゃよかった。そうしたら捕らわれることもなかった。怖い思いをしたな、夢主」
それはあの日の記憶を鮮明にしていく。
「夢主。もう自分を許せ」
「お父さん」
鯉伴は諭しているようでいて、申し訳なさを漂わせている。
「お前が置いてきたのは、罪なんかじゃない。過去の出来事だよ」
そんなことない、そんなことないよ、お父さん。私があの時何もできなかったのは…。
「夢主は悪くねぇよ。あの時、助けてやれなくてすまなかった。かっこわるいな、俺」
目の前の父が急に小さく見えた。
ねえ、お父さん。そんなことを言うために出てきたの?そんな父を見ていたら、無性に腹がたった。
「ねえ、お父さん」
「なんだよ」
「それは、お父さんもだよ。もう気に病まないで。私が追いかけたのは、私の意志だよ。お父さんは関係ない!」
鯉伴は瞬きを繰り返す。
「もう、いいから…」
あれが過去の出来事だと言うなら…
「私もリクオも大丈夫だから、お父さんは見守るに徹すればいい!」
「ふっ・・・あははは!夢主、お前も言うようになったねぇ。いつの間にそんな強かになった?」
今度は夢主の方が瞬きを繰り返す。
「いや、もともとお前さんは口達者だったな。そういうとこは親父そっくりでさ」
屋敷から抜け出すのもうまかったな、と鯉伴。
「夢主。父親として、言わせてくれ」
「なに?」
「自分を大切にしろ。そして自分を大切にしてくれる人たちを大切にしろ」
夢主の脳裏に奴良組の面々がよぎる。そして猩影の言葉が蘇る。
――夢主のことが大切だからだよ。好きなんだよ。だから傷ついて ほしくないし、居なくならないでほしい
「お前は愛されているなあ。だけど、どれだけ周りが愛しているかなんて、当のお前が気づかずにいる。守りたいと思う奴らの気持ちに気づいてやれ。そして自分にしかできないことを全うしろ」
鯉伴はさらに続ける。
「前回はおふくろが出てったけどな、今回が最後だ、夢主。お前、死にかけすぎ。いくら丈夫にできてるからって、女の子が作っていい傷じゃねぇぞ」
夢主は、鯉伴が何のために出てきたのか、漸く気づくことができた。
「強い女になれ、夢主。若菜を見ろ、あれは強い女だ。待つのはつらい。だけど、愛してくれる人を、愛する人を『待つ』のは、強さだ。それは百鬼の強さにもなる」
「お父さん…」
「おっと、もう時間だな。じゃあ、がんばれよ、夢主」
鯉伴は、光の中に消えていった。
「あんな夢まで見せて、言いたいことだけ言って消えてしまうなんて」
ねえ、お父さん。いつか、寿命を全うして、そちらに行くときまで、待っていて。そのときにはね、きっとたくさんの土産話をもっていくから。貴方が見れなかった奴良組の未来の出来事をたくさん話すから。