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その二十四
夢主の名前
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猩影は夢主の顔に迷いがあるのを見てとった。推測が正しいのかどうか、不安に思っているのだろう。
「俺に、忠誠心がないように見えるか」
百鬼夜行の主が出陣しているのに、それを見送っている自分は忠誠心がないように見えるだろう。
息を吸い、吐く。
「戦う理由ができちまった」
彼女の父を殺めた仇と自分の父が殺された原因があの刀であるらしい。
息巻く俺に、どこかほっとしたような表情の彼女。
「いい考えがあるの」
果たして彼女の「いい考え」が捨て身の策でないことを祈る。「話しておきたいことがある」と言い出したときから薄々感じていた嫌な予感が、当たることがないように、次の言葉を待った。
「ダメだ。そんなことは俺が許さない」
夢主の言い出したことは、やはりとんでもないことだった。自分が狙われているなら、囮になる。その隙にどうにか敵に近づくことができないか、あるいは(刺し違えてでも)夢主自身が刃となると。
「俺は、親父の仇を討ちたい。それに、百鬼が出陣したならそれに参加する」
これは賭けだ。
「だけど、夢主がここから出るというなら、仇討ちは諦める」
「なんで!?やっとおじさまの仇が討てるのに」
「俺がお前を心配するのは、」
先ほど言い損ねた言葉だ。
「夢主のことが大切だからだよ。好きなんだよ。だから傷ついてほしくないし、居なくならないでほしい」
言葉を選んだつもりだった。これはそういう戦いだ。自分たちが身を置くこの世界は、常に生と死が隣り合わせの世界だ。妖怪任侠、出入り、闘争、シノギ、仇討ち・・・。
「夢主まで、俺の前から居なくならないで」
顔がまともに見れなかった。抱きしめて、隙間がないほどくっついて、互いの背中をきつく掴んだ。そのまま倒れ込み、それでも顔を合わせられなくて、首筋に顔を埋めた。傷ついた肩を慈しむように啄む。痛みからではない、嗚咽が聞こえる。頬を伝う涙がやがて自分の頬までも濡らす。漸く顔を見た。くしゃくしゃの顔に近づいて、唇を重ねる。息つく間もなく、深く、深く。生きて帰る保障のない、世界に俺たちは生きている。親の死を目の当たりにした彼女。あっけなく、逝ってしまった親父。離れようとすれば、今度は彼女の方が求めてきた。それに応える心地よさ。
薄々気づいていた。彼女は、夢主は俺を試していた。彼女はもう戦えない。そのぼろぼろの体では歩くことも困難だ。刀のこと、仇のことを話したら俺がどう動くか。
「行ってくるよ」
侮るな。俺は、戦って、帰ってくる。
「気をつけて。いってらっしゃい」
名残惜しく、離れる。ここにいれば、座敷童子の彼女がいる。夢主は安全だ。
「眠っていて。目が覚めたら、すべて終わっているさ」
夢主は限界だろう。ひどく消耗し、また熱が上がってきた。頭を撫ぜる要領で、額から目を覆えば、漸く目を閉じた。
「おやすみ」
せめて、眠りの中では良い夢を。