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その三
夢主の名前
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逢魔時、それは魑魅魍魎の目覚めの刻。妖怪たちが活発になる時間である。
その時間までには夢主を本家に送り届けようと思っていた猩影だったが、電車が混雑していたために、少々遅くなってしまった。
「参ったなー遅くなっちまった」
「大丈夫よ、少しくらい」
焦る猩影に夢主は、のほほんと答える。
「や、本家の方たちが心配するだろ」
ダメだダメだと猩影は引き下がらない。
少しでも早く本家へ送り届けなければ。
「猩くんが一緒だから、いいと思うんだどな」
夢主の呟きはそんな猩影には届かなかった。
日が沈む遊歩道を手を繋いで歩いている二人。
突然、ガサっという音と共に、植木から何かが飛び出してきた。
「夢主!」
猩影は咄嗟に夢主を自分の後ろに隠す。
飛び出してきた何かはどうやら人型をしている。それは二人の前で蹲り、動かない。
時折、うめき声が聞こえる。
「猩くん・・・何があるの?」
夢主が猩影の影から顔を出す。そこで見えたのは・・・
「良太猫!」
夢主は良太猫に駆け寄る。
「夢主?」
「良太猫!しっかりして!何があったの?」
「う・・・ぐっ・そ、その声は、夢主様。・・面目ねぇ・・・」
そう言うと良太猫は意識を手放した。いたるところに傷がある。何かと争ったのだろうか。
「良太猫!・・・どうしよう・・・」
目に見えて青ざめていく夢主。薄暗い中でも、猩影は夢主の変化を敏感に感じ取った。
「夢主、落ち着け!とりあえず、本家へ運ぶぞ」
「・・・うん」
猩影は良太猫を抱えあげると、夢主の手を強く握った。決して離れぬように。強く。
「夢主様、お帰りなさいませ」
本家に着くと、庭掃除をしていた首無が近づいてきた。
「夢主様?」
いつもなら元気にただいまと言ってくれる夢主の様子が変だ。首無は夢主の様子がおかしいことに気づいて顔を覗き込む。
「首無・・・良太猫が・・・」
首無は夢主の様子とその言葉で、猩影が良太猫を抱えていることに気づいた。
「良太猫!!」
「兄貴、どこか寝かせる場所はないですか?」
「すぐに用意いたします。おい!誰か、鴆様を呼んでくれ!」
首無のその声に屋敷の妖怪たちがなんだなんだと出てくる。
「治癒は私がするわ。とりあえず、安静に寝かせられる場所を用意して!」
「ですが、夢主様。顔色がよろしくありません」
夢主が青い顔をしているのを首無が気遣う。
猩影は先ほどから夢主が震えていることに気が付いていた。
「(夢主、無理するな)」
そしてぎゅっと手を握る力を強めた。