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その二十四
夢主の名前
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「俺は、悔しいんだよ。いつもいつも傷つくのは夢主で、俺はそんな時夢主の側にいない。それがどんなにつらいか」
わかってくれ、という言葉は声にならなかった。
「しょ、う・・・くっ」
彼の名を呼ぶ前に首裏に軽い衝撃と痛みを感じる。意識が途切れる前に聞こえたのは、ごめんという彼の掠れた声だった。
くたり。倒れこんだ夢主を軽々と抱き上げる。軽い、傷だらけの彼女。肩にまかれた包帯には痛々しくも血がにじんでいる。苦しそうに閉じられた瞼には今にもこぼれそうな涙。眉間のしわを慈しむように口づけをすれば、心なしか表情が楽になったように見える。
「姐さん、俺は行くぞ」
「猩影も、かい」
ぼろぼろになったリクオを預けてくれと、鴆を伴って牛鬼が連れて行ってから、百鬼は主を失った。ある者は、その場に留まり、ある者はふらふらと歩き出した。そしてある者は、己の弱さを痛感させられて、自暴自棄の行動に出た。
毛倡妓は主がいなくなった百鬼をまとめようとしていた。猩影は姐に一声かけると、夢主を連れてその場を後にした。
「百鬼の主がいない今、俺の守るべきは夢主だけだ」
京の街を駆ける。目的地は、ない。ただ少しでも遠くに、京妖怪の手が届かないところへと歩を進める。荒れた街。変わらずそびえる黒い妖気。
「待て」
後ろに感じた気配にゆっくりと振り返る。
「妖怪共の勝手な分裂には興味がないが、単独行動をするというならその娘を置いていけ」
竹筒をこちらに向けている竜二とその少し後ろには魔魅流。
「陰陽師なんかに預けられるわけがないだろう」
「大事なお姫様なのはわかるが、こちらもそいつが狐の手に堕ちてもらっては困るのでな」
「はっ・・・羽衣狐だかなんだか知らねぇが、夢主を奪われてたまるか」
「お前にそいつが守りきれるとでもいうのか。相手は京妖怪だ」
「相手が誰だろうが、」
猩影の言葉を遮るように、竜二が口を開いた。
「現に、その娘は傷だらけのように見えるが。本当に何からも奪われない自信があるというのか」
閉口する猩影に追い打ちを掛ける。
「竜二、まとめて始末する」
「ああ、そうだな魔魅流。それはいい考えだ。ここで娘もろ共始末してしまえば、守る必要もなくなるな」
「妖怪は、黒」
言うなり、魔魅流が夢主を抱えた猩影に襲い掛かる。
「・・・学べよ、魔魅流」
圧倒的な殺意を持った相手に、猩影は躱すことしかできない。夢主に攻撃が当たらないように避けて、遠退く。
「喰らえ餓狼」
竜二の持った筒から放たれる水は容赦なく猩影を襲う。とっさに背を向けて夢主に水がかからないようにするので精一杯だ。ましてやこちらから何かを仕掛けるなんてことはできそうもない。
「何しとん、兄ちゃん!魔魅流くん」
そこへ駆け付けたのは、竜二の妹のゆらだった。後方にはなぜか毛倡妓や黒田坊たちの姿もある。
「猩影!!夢主様」
「妖怪は絶対悪」
「魔魅流の言うとおりだ」
「そんなこと言うても、夢主さんは奴良くんのお姉さんやし・・・それに、奴良くんの持つ袮々切り丸がなきゃ羽衣狐を倒せないって」
「そうや、少し落ち着こうやないか」
ゆらと竜二の間に入ったのは13代目秀元だ。
「妖怪の兄ちゃんも、どないしはるつもりや?」
「俺は・・・ここに夢主がいて、三代目がいない今、こんな戦いどうでもいいんだ。主がいないんじゃあ守るべきは夢主だから」
「そんなら、彼女を守るんが君の一番の目的なんやね」
「そうだ、他のことは今は」
「そんなら目的はおなじやないか!」
「いや、だからそうだとしても俺は!!」
「・・・夢主様?」
猩影の腕に抱かれている夢主が身じろいだ。それに気づいた毛倡妓が見れば、その顔は苦しそうに歪められている。
「熱やないか?」
先ほど負った傷が熱をもっている。
「このままじゃ、危険よ」
毛倡妓が夢主から猩影へと視線を移す。一度、落ち着けるところへ。彼女がどれほど、腕の中の彼女のことを思っているか、猩影は知っている。
「猩影・・・」
「そうや!花開院家に来たらええ」
「そんなわけにはいかんだろう。妖怪は入れてはならん、それが決まりだ」
「でも雪女はおったで」
「それはお前が連れて来たんだろうが!」
すぐ側で繰り広げられる会話が、まるで遠い彼方のことのように感じる。腕に抱いた夢主が熱いのがわかる。
妖怪と一戦交えてきたという夢主は、見つけたときにはぼろぼろだった。余りに痛々しい姿に、頭に血が上って、何を言ったのか、あまり覚えていない。
夢主はいつもそうだ。自分から離れているときに、怪我をする。
どうしてだ、なぜその時なんだ。俺が守ると決めた人は、いつも手の届かないところにいる。
「猩影、猩影!」
「っ!黒の兄貴・・・」
「大丈夫か、猩影」
「とりあえず、夢主様を休めるところへ」
「・・・船に、戻ります。あそこなら夢主を寝かせられる」
「わかった、それじゃ、あたしもついていくよ」
「姐さんは、首無の兄貴を追うんでしょう?こっちは大丈夫です」
最初からこんなの、無理だったんだ。不安の残る百鬼夜行では、京妖怪に勝てるはずないじゃないか。
わかってくれ、という言葉は声にならなかった。
「しょ、う・・・くっ」
彼の名を呼ぶ前に首裏に軽い衝撃と痛みを感じる。意識が途切れる前に聞こえたのは、ごめんという彼の掠れた声だった。
くたり。倒れこんだ夢主を軽々と抱き上げる。軽い、傷だらけの彼女。肩にまかれた包帯には痛々しくも血がにじんでいる。苦しそうに閉じられた瞼には今にもこぼれそうな涙。眉間のしわを慈しむように口づけをすれば、心なしか表情が楽になったように見える。
「姐さん、俺は行くぞ」
「猩影も、かい」
ぼろぼろになったリクオを預けてくれと、鴆を伴って牛鬼が連れて行ってから、百鬼は主を失った。ある者は、その場に留まり、ある者はふらふらと歩き出した。そしてある者は、己の弱さを痛感させられて、自暴自棄の行動に出た。
毛倡妓は主がいなくなった百鬼をまとめようとしていた。猩影は姐に一声かけると、夢主を連れてその場を後にした。
「百鬼の主がいない今、俺の守るべきは夢主だけだ」
京の街を駆ける。目的地は、ない。ただ少しでも遠くに、京妖怪の手が届かないところへと歩を進める。荒れた街。変わらずそびえる黒い妖気。
「待て」
後ろに感じた気配にゆっくりと振り返る。
「妖怪共の勝手な分裂には興味がないが、単独行動をするというならその娘を置いていけ」
竹筒をこちらに向けている竜二とその少し後ろには魔魅流。
「陰陽師なんかに預けられるわけがないだろう」
「大事なお姫様なのはわかるが、こちらもそいつが狐の手に堕ちてもらっては困るのでな」
「はっ・・・羽衣狐だかなんだか知らねぇが、夢主を奪われてたまるか」
「お前にそいつが守りきれるとでもいうのか。相手は京妖怪だ」
「相手が誰だろうが、」
猩影の言葉を遮るように、竜二が口を開いた。
「現に、その娘は傷だらけのように見えるが。本当に何からも奪われない自信があるというのか」
閉口する猩影に追い打ちを掛ける。
「竜二、まとめて始末する」
「ああ、そうだな魔魅流。それはいい考えだ。ここで娘もろ共始末してしまえば、守る必要もなくなるな」
「妖怪は、黒」
言うなり、魔魅流が夢主を抱えた猩影に襲い掛かる。
「・・・学べよ、魔魅流」
圧倒的な殺意を持った相手に、猩影は躱すことしかできない。夢主に攻撃が当たらないように避けて、遠退く。
「喰らえ餓狼」
竜二の持った筒から放たれる水は容赦なく猩影を襲う。とっさに背を向けて夢主に水がかからないようにするので精一杯だ。ましてやこちらから何かを仕掛けるなんてことはできそうもない。
「何しとん、兄ちゃん!魔魅流くん」
そこへ駆け付けたのは、竜二の妹のゆらだった。後方にはなぜか毛倡妓や黒田坊たちの姿もある。
「猩影!!夢主様」
「妖怪は絶対悪」
「魔魅流の言うとおりだ」
「そんなこと言うても、夢主さんは奴良くんのお姉さんやし・・・それに、奴良くんの持つ袮々切り丸がなきゃ羽衣狐を倒せないって」
「そうや、少し落ち着こうやないか」
ゆらと竜二の間に入ったのは13代目秀元だ。
「妖怪の兄ちゃんも、どないしはるつもりや?」
「俺は・・・ここに夢主がいて、三代目がいない今、こんな戦いどうでもいいんだ。主がいないんじゃあ守るべきは夢主だから」
「そんなら、彼女を守るんが君の一番の目的なんやね」
「そうだ、他のことは今は」
「そんなら目的はおなじやないか!」
「いや、だからそうだとしても俺は!!」
「・・・夢主様?」
猩影の腕に抱かれている夢主が身じろいだ。それに気づいた毛倡妓が見れば、その顔は苦しそうに歪められている。
「熱やないか?」
先ほど負った傷が熱をもっている。
「このままじゃ、危険よ」
毛倡妓が夢主から猩影へと視線を移す。一度、落ち着けるところへ。彼女がどれほど、腕の中の彼女のことを思っているか、猩影は知っている。
「猩影・・・」
「そうや!花開院家に来たらええ」
「そんなわけにはいかんだろう。妖怪は入れてはならん、それが決まりだ」
「でも雪女はおったで」
「それはお前が連れて来たんだろうが!」
すぐ側で繰り広げられる会話が、まるで遠い彼方のことのように感じる。腕に抱いた夢主が熱いのがわかる。
妖怪と一戦交えてきたという夢主は、見つけたときにはぼろぼろだった。余りに痛々しい姿に、頭に血が上って、何を言ったのか、あまり覚えていない。
夢主はいつもそうだ。自分から離れているときに、怪我をする。
どうしてだ、なぜその時なんだ。俺が守ると決めた人は、いつも手の届かないところにいる。
「猩影、猩影!」
「っ!黒の兄貴・・・」
「大丈夫か、猩影」
「とりあえず、夢主様を休めるところへ」
「・・・船に、戻ります。あそこなら夢主を寝かせられる」
「わかった、それじゃ、あたしもついていくよ」
「姐さんは、首無の兄貴を追うんでしょう?こっちは大丈夫です」
最初からこんなの、無理だったんだ。不安の残る百鬼夜行では、京妖怪に勝てるはずないじゃないか。