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その二十三
夢主の名前
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「ふぅん”外殻の地脈”の栓となっとった妖よりは強いみたいやね。いい部下もっとるやん」
百鬼の背後から現れた新手に一同は身構える。
「でも、浮かれるのはまだ早いで・・・初めまして、君が・・・彼の孫やね?」
狩衣を来た男性を先頭に花開院陰陽師が二人。いつか浮世絵町で遭遇した彼らだった。
「お・・・おい、リクオォ、ありゃー誰だい?」
「陰陽師だ」
夢主は無意識のうちに身体が硬直していくのがわかった。一番街で自分と青田坊を襲ったのはあのふたりだ。
「夢主?」
鴆が治療の手を止めて夢主を覗い見る。夢主は渦中を見ようとはしなかった。目を逸らしている。
「(でもよ・・・夢主、妖怪同士の戦ならそれじゃあ負ける。畏れた方が敗れる、お前は知っているだろう)」
それでも事情を知っている鴆が猩影を呼ぶ。猩影が夢主の側へやってきて、その背で彼らの視線を遮った。夢主の肩の力が抜けるのを、鴆は感じた。治療を再開する。
その時、奴良組妖怪の集まるすぐ後ろで破壊音がした。その一瞬前、何かが奴良組妖怪の間すり抜けていった。見れば、先ほど戦った二十七面千手百足がクナイのような武器によって動きを封じられている。
「外殻の地脈に巣食う妖よ・・・再び京より妖を排除する封印のいしずえとなれィ」
強面の陰陽師、竜二が術を唱える。
「おい!!あれをみろ!!」
巨大な杭が二十七面千手百足を目掛けて落ちる。
「滅」
瞬く間に二十七面千手百足は封じられた。空に伸びていた禍禍しい気の柱が一本消え、伏目稲荷周辺の空気が晴れていく。
「これが封印ってやつか・・・?」
「そうや、“八つ全部”を封じるまで京は平和にはならない」
リクオに応えたのは、陰陽師とともにいた狩衣だった。
「はじめまして、ぬらりひょんの孫。蘆屋家直系京守護陰陽師、花開院家十三代目・・・当主秀元や。よろしく」
「ひでもと~~~~!!!」
頭上から聞こえた声にその場にいた全員が上を向いてしまう。
「何やねん、急に飛び降りてーーー!!この牛車の式神どうしたらええんやーーー!!」
空中には牛車。物見から身体を乗り出しているのは、リクオの同級生、ゆらである。
「ゆらちゃん、降りてきたらええやんか」
「あんたなー!!式神のくせに自由すぎるわ!!」
「ゆら?」
「げ・・・奴良くん・・・・・・」
リクオが声を掛けたところで、ゆらには地上を見渡す余裕ができた。そこには花開院の兄たちもいるが、東京で会った妖怪たちもいる。
ゆらの呟きに反応したのは雪女である。これまで陰陽師と行動を共にしていたつららはリクオたちとの合流を目指していた。
「ああ!!リクオ様~~~~!!お久しゅうございます~~~!!」
大きくはない物見に雪女までもが下を覗き込んで、ゆらが怒り、符を振りまわす。牛車の中で口論を始めたふたりを地上のものはしばし、呆れ気味で眺めていた。
そのうち謀らずとも「消えろ」とゆらが口にしたことで牛車は消え、二人は地上へと落ちた。落下中、変化が解けた雪女はリクオに、ゆらは実兄に受け止められる。
雪女による京の現状報告やら遠野勢による超絶美人の誤解やらを終え、リクオは本題に入る。
「あんた・・・秀元っつたな。じじいの知り合いなんだな。俺たちの因縁のこと・・・知ってんなら教えてくれ」
鴆の治療を受けていた夢主が顔を上げる。
「俺は・・・その因縁を断ちに来たんだ!!」
秀元は、400年前に施したという最強の結界、らせんの封印を説明する。
京には重大な地脈がらせん状にめぐっている。地脈は木の流れとなる大地の血管のようなもの。
そのうちの一つ、京の都千年の怨念が通う道・・・・京妖怪の力を排するためには、この通り道を塞がねばならない。先ほど二十七面千手百足を封じたのは、封印の“栓”であった。
秀元の予測では、羽衣狐は弐條城を破ったあと、鵺を生むために守勢に回る。そこを、花開院家の力「破軍」と奴良組の持つ「祢々切丸」によって羽衣狐を討つ、という。
「頼まれなくても、そのために俺は来たんだよ!」
秀元はリクオを一瞥したあと、秀元たちからは奥の位置にいるリユキを視界にいれた。
「・・・それと、君がもうひとりの孫、やね?」
夢主は黙って頷いた。
「珱姫の不思議な力を受け継いだ、名は・・・」
「夢主、です」
「そう、夢主ちゃん。君、狙われるで」
「知っています。・・・因縁を断ちに来たのは、私もです」
「覚悟があるんやね、君も」
悲痛な記憶。目の前で父の最期を望まぬかたちで見ることとなった、あの忌々しい過去。つい先日思い出された記憶は、もう何年も前のことなのに、とても鮮明だ。夢主は唇を噛みしめて耐える。
「京妖怪は生き肝信仰。より強い生き肝を喰らい、羽衣狐は妖力を強める・・・絶対に彼女を守れ。奴良組だけじゃなく、花開院家もや」
もちろんだ、と声をそろえる奴良組。
秀元は花開院家の陰陽師たちに向き直ってさらに忠告する。ただでさえ転生を繰り返した羽衣狐は強い。奴に力を与えるな、と。
「それと夢主ちゃん、今は妖怪の姿やね」
「はい」
「なるべくそっちで居たほうがいいかもしれんなあ」
「それはどういうことだ」
口を挟んだのは猩影だった。夢主は先ほどの戦いで負傷しているのに加え、妖怪の姿で治癒の力を使ったことにより疲労は計り知れないだろう。そんな中で妖怪の畏れを保てなど、拷問に近い。夢主は4分の3は人なのだ。
「妖怪のほうが幾らか姿をくらませることができるんやないか、と思ってな」
「でも夢主は・・・!」
「強ぇ奴 全部揃ったなぁー」
百鬼の背後から現れた新手に一同は身構える。
「でも、浮かれるのはまだ早いで・・・初めまして、君が・・・彼の孫やね?」
狩衣を来た男性を先頭に花開院陰陽師が二人。いつか浮世絵町で遭遇した彼らだった。
「お・・・おい、リクオォ、ありゃー誰だい?」
「陰陽師だ」
夢主は無意識のうちに身体が硬直していくのがわかった。一番街で自分と青田坊を襲ったのはあのふたりだ。
「夢主?」
鴆が治療の手を止めて夢主を覗い見る。夢主は渦中を見ようとはしなかった。目を逸らしている。
「(でもよ・・・夢主、妖怪同士の戦ならそれじゃあ負ける。畏れた方が敗れる、お前は知っているだろう)」
それでも事情を知っている鴆が猩影を呼ぶ。猩影が夢主の側へやってきて、その背で彼らの視線を遮った。夢主の肩の力が抜けるのを、鴆は感じた。治療を再開する。
その時、奴良組妖怪の集まるすぐ後ろで破壊音がした。その一瞬前、何かが奴良組妖怪の間すり抜けていった。見れば、先ほど戦った二十七面千手百足がクナイのような武器によって動きを封じられている。
「外殻の地脈に巣食う妖よ・・・再び京より妖を排除する封印のいしずえとなれィ」
強面の陰陽師、竜二が術を唱える。
「おい!!あれをみろ!!」
巨大な杭が二十七面千手百足を目掛けて落ちる。
「滅」
瞬く間に二十七面千手百足は封じられた。空に伸びていた禍禍しい気の柱が一本消え、伏目稲荷周辺の空気が晴れていく。
「これが封印ってやつか・・・?」
「そうや、“八つ全部”を封じるまで京は平和にはならない」
リクオに応えたのは、陰陽師とともにいた狩衣だった。
「はじめまして、ぬらりひょんの孫。蘆屋家直系京守護陰陽師、花開院家十三代目・・・当主秀元や。よろしく」
「ひでもと~~~~!!!」
頭上から聞こえた声にその場にいた全員が上を向いてしまう。
「何やねん、急に飛び降りてーーー!!この牛車の式神どうしたらええんやーーー!!」
空中には牛車。物見から身体を乗り出しているのは、リクオの同級生、ゆらである。
「ゆらちゃん、降りてきたらええやんか」
「あんたなー!!式神のくせに自由すぎるわ!!」
「ゆら?」
「げ・・・奴良くん・・・・・・」
リクオが声を掛けたところで、ゆらには地上を見渡す余裕ができた。そこには花開院の兄たちもいるが、東京で会った妖怪たちもいる。
ゆらの呟きに反応したのは雪女である。これまで陰陽師と行動を共にしていたつららはリクオたちとの合流を目指していた。
「ああ!!リクオ様~~~~!!お久しゅうございます~~~!!」
大きくはない物見に雪女までもが下を覗き込んで、ゆらが怒り、符を振りまわす。牛車の中で口論を始めたふたりを地上のものはしばし、呆れ気味で眺めていた。
そのうち謀らずとも「消えろ」とゆらが口にしたことで牛車は消え、二人は地上へと落ちた。落下中、変化が解けた雪女はリクオに、ゆらは実兄に受け止められる。
雪女による京の現状報告やら遠野勢による超絶美人の誤解やらを終え、リクオは本題に入る。
「あんた・・・秀元っつたな。じじいの知り合いなんだな。俺たちの因縁のこと・・・知ってんなら教えてくれ」
鴆の治療を受けていた夢主が顔を上げる。
「俺は・・・その因縁を断ちに来たんだ!!」
秀元は、400年前に施したという最強の結界、らせんの封印を説明する。
京には重大な地脈がらせん状にめぐっている。地脈は木の流れとなる大地の血管のようなもの。
そのうちの一つ、京の都千年の怨念が通う道・・・・京妖怪の力を排するためには、この通り道を塞がねばならない。先ほど二十七面千手百足を封じたのは、封印の“栓”であった。
秀元の予測では、羽衣狐は弐條城を破ったあと、鵺を生むために守勢に回る。そこを、花開院家の力「破軍」と奴良組の持つ「祢々切丸」によって羽衣狐を討つ、という。
「頼まれなくても、そのために俺は来たんだよ!」
秀元はリクオを一瞥したあと、秀元たちからは奥の位置にいるリユキを視界にいれた。
「・・・それと、君がもうひとりの孫、やね?」
夢主は黙って頷いた。
「珱姫の不思議な力を受け継いだ、名は・・・」
「夢主、です」
「そう、夢主ちゃん。君、狙われるで」
「知っています。・・・因縁を断ちに来たのは、私もです」
「覚悟があるんやね、君も」
悲痛な記憶。目の前で父の最期を望まぬかたちで見ることとなった、あの忌々しい過去。つい先日思い出された記憶は、もう何年も前のことなのに、とても鮮明だ。夢主は唇を噛みしめて耐える。
「京妖怪は生き肝信仰。より強い生き肝を喰らい、羽衣狐は妖力を強める・・・絶対に彼女を守れ。奴良組だけじゃなく、花開院家もや」
もちろんだ、と声をそろえる奴良組。
秀元は花開院家の陰陽師たちに向き直ってさらに忠告する。ただでさえ転生を繰り返した羽衣狐は強い。奴に力を与えるな、と。
「それと夢主ちゃん、今は妖怪の姿やね」
「はい」
「なるべくそっちで居たほうがいいかもしれんなあ」
「それはどういうことだ」
口を挟んだのは猩影だった。夢主は先ほどの戦いで負傷しているのに加え、妖怪の姿で治癒の力を使ったことにより疲労は計り知れないだろう。そんな中で妖怪の畏れを保てなど、拷問に近い。夢主は4分の3は人なのだ。
「妖怪のほうが幾らか姿をくらませることができるんやないか、と思ってな」
「でも夢主は・・・!」
「強ぇ奴 全部揃ったなぁー」