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その二十一
夢主の名前
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船は無数の妖怪たちに囲まれて、辺りは一気に緊迫した。
「どこの船だ?月も沈んだ夜明け前、命知らずがまよいこんだか・・・?」
大将格の妖怪が甲板を見下ろして言い放つ。
「どうやら・・・着いたようだな!京妖怪のお出迎えだぜ!!」
リクオは苦い顔をしながらもどこか嬉々とした表情をしている。
「きけ、そこの船。我こそは京妖怪白蔵主!我らは羽衣狐様より京の空の守護を仰せつかりし者。誰のものかわからん船をここから通すわけにはいかん!」
堂々たる物言いに奴良組の妖怪は武器を構える。
「どこの手の者だ!!名を名乗れ!」
その一言を合図にするように、上空の妖怪が船に向かってくる。甲板の妖怪もそれに応えるべく、態勢を整える。
配置に着いたところで、空の妖怪の様子がおかしいことに船の者たちは気がつく。一向に攻撃をしようとはしないのだ。みなピタリと動きを止めている。
「なぜ・・・来ない?」
「名を名乗れ。敵であっても名を名乗るまでは手は出さん」
白蔵主は再び名を名乗ることを強いる。
敵の出方を見ていた奴良組勢は半ばあきれた様子で、白蔵主の言動を分析する。最初にバカだと口に出したのは誰だっただろうか。
敵か味方かを尚も問うてくるだけで攻撃をしてこない白蔵主に納豆小僧は調子付く。そうして畏の代紋に気づかせたとき、空の者たちの様子がガラリと変わった。
「この代紋は・・・まさか、うそだろ」
「こいつらが四百年前の羽衣狐様を討った・・・・」
ぎろり、音がしそうなほどの剣幕に先頭を切っていた納豆小僧は怯む。
「よくもおおおお・・・・・塵にしてくれる!!」
今度こそ一斉に空の妖怪たちが船へと突っ込んでくる。
「夢主、」
「私のことはいいから、猩くん」
白蔵主が現れてから夢主は猩影の背に隠されていた。ついに襲ってくる敵を前に猩影は剣を構えるが、夢主を安全な場所へ避難させることを考えていた。船内ならばいくらかマシかと思いつき、進言しようとしたところで、夢主に先を越される。
「自分の身は自分で守る」
夢主は猩影の背を押した。
「来たぞ!!」
考える間もなく猩影の構えるそこにも翼を持った妖怪が突撃してくる。長剣でなぎ払うが避けられる。
近くで聞こえたぶつかり合いに猩影は目の前の敵から意識を逸らしてしまった。その隙をついて、翼を持った妖怪が猩影に長刀を振るう。猩影はギリギリのところでそれを交わした。そうしていくらも攻防を繰り返さぬうちに怒号が響く。
「やめんか!!」
白蔵主が首無と敵の間に自らの武器を食い込ませていた。喧騒は静寂と化し、船の残骸が崩れ落ちる音だけが聞こえた。
その破壊力を間近で見た者は敵味方関係なく一瞬動きが止まるほどだった。
「下がれ、例え奴良組だろうが例外ではない。双方の大将が名乗りを上げた後、戦うのが戦の作法」
交戦が始まったと言ってもいいくらいにそこかしこで武器のぶつかり合う音がしていたのにもかかわらず、白蔵主はこの期に及んでも名乗ることに拘るようだ。
敵の大将のポリシーに味方もそして奴良組勢も疑問を投げかける。
またもざわつき始めた甲板で、猩影は夢主の元へと戻ってきた。
「夢主、大丈夫だったか」
見たところ夢主に怪我はない。猩影は安堵すると、これからのことを考えた。
これから、京に入るとこういうことが増えるだろう。そのとき自分はどうするべきか。今のようなとき、夢主を置いて戦いに赴くことができるだろうか。
少し離れた位置で、リクオを取り巻く側近たちが大将の名乗りを強いる敵からリクオを遠ざけようとしている。
「ここは私が出る!大将が出る必要などない」
首無が紐を構え、敵を見据える。
猩影は、夢主の肩を抱き寄せた。
「猩くん?」
「ここは危ない、船の中へ」
「でも」
「オレが大将だ・・・この京に羽衣狐を倒しに来た。ここを通らせてもらうぜ」
「ずいぶん若い大将だな・・・ぬらりひょんではないのか?」
リクオは祢々切丸を鞘から抜き取る。
それを見た白蔵主が心得た。
「お主、名を名乗れ!!」
「奴良組若頭、ぬらりひょんの孫、奴良リクオ!」
開戦!!
「一つ訊こう。なにゆえ名乗り出た。奴良組の若い大将は力の差がわからなんだか!!」
ビリビリと離れていても白蔵主の畏れが船員に伝わる。
「あんたもバカじゃねーか。バカ正直にはバカ正直で・・・それと邪魔する奴は斬って進まなきゃならねぇからな」
「ほう・・・士道をわきまえ――且つ威勢のいいクソガキだ」
白蔵主の武器が、宝船の横を飛んでいた小判舟を突いた。みるみるうちに粉々に砕け散っていく。その勢いのままに、白蔵主はリクオにも武器を振るう。
そしてその槍はリクオの頭を打ち抜く。
「ヒッ!!」
「リクオ!!」
「リ・・・リクオ様――!?」
夢主が悲痛な叫びを上げる。今にもリクオに駆け寄っていきそうな夢主を猩影は取り押さえた。
「猩くん!リクオが」
ダメだ、夢主。俺はやっぱりお前を危険には晒せない。