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その二十
夢主の名前
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夕食後の奴良家は、のんびりした時間が流れることが多い。好き好きのことをして過ごす。ここからが本領とばかりに活動を開始するものも、テレビを見て談笑を楽しむ妖怪らしからぬ輩もいる。
夢主は経過を見るためにと訪ねてきた鴆と、診察を終えて談笑していた。
鴆とは、夢主の学校の話だったり猩影の話だったり、鴆のとこにやってくる患者の話だったり、幼いときの思い出話だったりとさまざまな話をする。
そんな夏の夜の静かな時間。話に夢中になっていた二人は外が騒がしいことに気づくのに少し時間を要した。
様子を伺おうとしたとき、部屋の戸が遠慮がちに開かれる。
「リクオ」
「・・・っ夢主!目が覚めたんだな」
「ええ。リクオ、おかえり」
「もう起きて大丈夫なのかよ」
「へーき!」
なんだかすごく久しぶりに会うような気がする。夢主は弟との久しぶりの再会を素直に喜んだ。
鴆はそんな二人の様子を見ると、気を遣うように部屋を出て行った。リクオはそれを見届けると、夢主に確かめるべく口を開いた。
「姉貴は覚えてるか、親父が殺された時のこと」
「そのことなら、私もリクオと話したいと思っていたの」
夢主はリクオに腰を下ろすように言う。リクオが座るのを待って話し始めた。
「眠っている間にね、思い出したの・・・私、お父さんが殺されたところを見ていたわ。その犯人も」
「そうか・・・」
「ごめんなさい!」
リクオは思いがけない夢主の謝罪に目を見開いた。
「私、こんな大事なことを忘れていたの。私が弱かったばっかりに。それに・・・」
「謝るこたぁねーよ。オレだって似たようなもんだ。それより、京妖怪に狙われてるって本当か?」
今度は夢主が驚く番だった。
「どうして・・・それを」
夢主は、夢で自分の生き肝が狙われていると思い出した。しかし、それを猩影にも誰にも言っていなかった。それをどうしてたった今帰ってきたリクオが知っているのだろうか。
「オレは遠野で修業してたんだ。そこへ京妖怪が現れた。奴良組の『不思議な力の姫』の生き肝を・・・って言ってた」
「・・・」
「なあ、それって姉貴のことだろ?」
夢主は俯いて何も言わない。
「何で黙ってんだよ。命狙われてるじゃねぇか!」
リクオは声を荒げた。しかし、夢主は相変わらず、視線を合わせようとしない。
「なあ夢主!また、お前は一人で抱え込むつもりなのかよ!」
「夢主様?リクオ様?」
「リクオーねえちゃんと会えたか~?」
リクオの声を聞いて駆けつけた首無と、中々戻ってこないリクオを探しに来た遠野勢が夢主の部屋で鉢合わせる。
「何だ、この状況?」
「リクオ様・・・?どうされました?」
俯いた夢主に、片膝を立て険しい顔のリクオ。
一同は、姉弟を見て戸惑った。
「夢主が、」
「リクオやめて、黙ってて」
「黙って、どうなるんだよ!もっと仲間を頼れよ」
首無も遠野も何も言わない、いや、見守るしかなかった。
首無は夢主とリクオが喧嘩をしているところなんて、見たこともなかった。あんなに仲のよい姉弟が、どうしてこんな状況に陥っているのだろう。
「この前だって陰陽師に襲われて・・・オレたちがどんだけ心配したかわかってんのか」
夢主だってわからないわけではなかった。
目が覚めたとき、周りにいてくれた人たちは皆、涙を流してくれた。意識が戻った知らせを聞いてすぐに駆けつけてくれる者もいた。
目が覚めてからも誰かしらがずっと付き添ってくれていた。
それでも、自分が組の弱みになることが嫌だった。
「リクオ様、夢主様、一体何が」
状況に耐えかねた、否、責められているような夢主を見ていられなかった首無が二人に声を掛けた。
「夢主は命を狙われている。それも、京の羽衣狐に」
今度は、リクオの声を遮ることはなかった。
「なんだって」
「それは・・・本当ですか・・・。夢主様が」
「本当、です」
夢主は観念して話し出す。
「私は8年前、父、奴良組二代目が殺されるところを見ていたの。山吹の垣根の中で、目玉の妖怪が私を押さえて・・・目を逸らすことも、助けを呼ぶことも、できなかった」
耐えるように一度口をきつく結んでから夢主は続けた。
「父を刺したのは女の子で、その子にむかって目玉の妖怪は確かに『羽衣狐様』と呼んでいた。彼女が成長し、時が来たら生き肝を、と。・・・これも夢で思い出したことなの」
話し終え、夢主は自分を落ち着けるため深く息を吸って吐いた。
「リクオ、京都に行くのよね?」
「ああ、オレは これから京都へ行く。あの女にもう一度会いに行く。深い因縁を断ち切るために。夢主はどうするつもりだ 」
「私も」
「なりません、夢主様!」
姉弟の会話を黙って聞いていた首無が夢主の言葉を遮った。
「首無?」
「夢主様は命を狙われているんですよね?それをわかっていながら敵地に乗り込むなど、危険です!」
遠野勢はその様子を黙って見守っているだけだった。
「わかったわ・・・リクオ、敵討ちはリクオに任せる!」
夢主はにこりと笑った。その笑顔はやはり何かに耐えるような苦しいものだったが、リクオはそれに応えるように拳を作った。
「おう!任せろ」
夢主は経過を見るためにと訪ねてきた鴆と、診察を終えて談笑していた。
鴆とは、夢主の学校の話だったり猩影の話だったり、鴆のとこにやってくる患者の話だったり、幼いときの思い出話だったりとさまざまな話をする。
そんな夏の夜の静かな時間。話に夢中になっていた二人は外が騒がしいことに気づくのに少し時間を要した。
様子を伺おうとしたとき、部屋の戸が遠慮がちに開かれる。
「リクオ」
「・・・っ夢主!目が覚めたんだな」
「ええ。リクオ、おかえり」
「もう起きて大丈夫なのかよ」
「へーき!」
なんだかすごく久しぶりに会うような気がする。夢主は弟との久しぶりの再会を素直に喜んだ。
鴆はそんな二人の様子を見ると、気を遣うように部屋を出て行った。リクオはそれを見届けると、夢主に確かめるべく口を開いた。
「姉貴は覚えてるか、親父が殺された時のこと」
「そのことなら、私もリクオと話したいと思っていたの」
夢主はリクオに腰を下ろすように言う。リクオが座るのを待って話し始めた。
「眠っている間にね、思い出したの・・・私、お父さんが殺されたところを見ていたわ。その犯人も」
「そうか・・・」
「ごめんなさい!」
リクオは思いがけない夢主の謝罪に目を見開いた。
「私、こんな大事なことを忘れていたの。私が弱かったばっかりに。それに・・・」
「謝るこたぁねーよ。オレだって似たようなもんだ。それより、京妖怪に狙われてるって本当か?」
今度は夢主が驚く番だった。
「どうして・・・それを」
夢主は、夢で自分の生き肝が狙われていると思い出した。しかし、それを猩影にも誰にも言っていなかった。それをどうしてたった今帰ってきたリクオが知っているのだろうか。
「オレは遠野で修業してたんだ。そこへ京妖怪が現れた。奴良組の『不思議な力の姫』の生き肝を・・・って言ってた」
「・・・」
「なあ、それって姉貴のことだろ?」
夢主は俯いて何も言わない。
「何で黙ってんだよ。命狙われてるじゃねぇか!」
リクオは声を荒げた。しかし、夢主は相変わらず、視線を合わせようとしない。
「なあ夢主!また、お前は一人で抱え込むつもりなのかよ!」
「夢主様?リクオ様?」
「リクオーねえちゃんと会えたか~?」
リクオの声を聞いて駆けつけた首無と、中々戻ってこないリクオを探しに来た遠野勢が夢主の部屋で鉢合わせる。
「何だ、この状況?」
「リクオ様・・・?どうされました?」
俯いた夢主に、片膝を立て険しい顔のリクオ。
一同は、姉弟を見て戸惑った。
「夢主が、」
「リクオやめて、黙ってて」
「黙って、どうなるんだよ!もっと仲間を頼れよ」
首無も遠野も何も言わない、いや、見守るしかなかった。
首無は夢主とリクオが喧嘩をしているところなんて、見たこともなかった。あんなに仲のよい姉弟が、どうしてこんな状況に陥っているのだろう。
「この前だって陰陽師に襲われて・・・オレたちがどんだけ心配したかわかってんのか」
夢主だってわからないわけではなかった。
目が覚めたとき、周りにいてくれた人たちは皆、涙を流してくれた。意識が戻った知らせを聞いてすぐに駆けつけてくれる者もいた。
目が覚めてからも誰かしらがずっと付き添ってくれていた。
それでも、自分が組の弱みになることが嫌だった。
「リクオ様、夢主様、一体何が」
状況に耐えかねた、否、責められているような夢主を見ていられなかった首無が二人に声を掛けた。
「夢主は命を狙われている。それも、京の羽衣狐に」
今度は、リクオの声を遮ることはなかった。
「なんだって」
「それは・・・本当ですか・・・。夢主様が」
「本当、です」
夢主は観念して話し出す。
「私は8年前、父、奴良組二代目が殺されるところを見ていたの。山吹の垣根の中で、目玉の妖怪が私を押さえて・・・目を逸らすことも、助けを呼ぶことも、できなかった」
耐えるように一度口をきつく結んでから夢主は続けた。
「父を刺したのは女の子で、その子にむかって目玉の妖怪は確かに『羽衣狐様』と呼んでいた。彼女が成長し、時が来たら生き肝を、と。・・・これも夢で思い出したことなの」
話し終え、夢主は自分を落ち着けるため深く息を吸って吐いた。
「リクオ、京都に行くのよね?」
「ああ、オレは これから京都へ行く。あの女にもう一度会いに行く。深い因縁を断ち切るために。夢主はどうするつもりだ 」
「私も」
「なりません、夢主様!」
姉弟の会話を黙って聞いていた首無が夢主の言葉を遮った。
「首無?」
「夢主様は命を狙われているんですよね?それをわかっていながら敵地に乗り込むなど、危険です!」
遠野勢はその様子を黙って見守っているだけだった。
「わかったわ・・・リクオ、敵討ちはリクオに任せる!」
夢主はにこりと笑った。その笑顔はやはり何かに耐えるような苦しいものだったが、リクオはそれに応えるように拳を作った。
「おう!任せろ」