すべての夢小説で共通です。
その十七
夢主の名前
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「ちわっす」
「ああ、猩影か。・・・夢主様は変わりないよ」
「はい・・・」
猩影は毎日のように夢主のもとへ通っていた。
学校は夏休みに入り、狒々組を継いだとはいえ、高校生として初めての夏を少しばかりは楽しめるはずだった。
「夢主・・・。もう十日になるのか」
猩影は夢主の左手を優しく握る。
「夢主、俺はどうしたらいいんだ」
全身に火傷を負い、痛々しい姿で夢主はただ昏々と眠り続ける。どうしたら夢主は目を覚ますだろう。
夢主をこんな目にあわせた陰陽師を見つけ出して、報復すればいいのか。たとえそれで気が晴れたとしても夢主が目を覚ますことにはならないだろう。
そしていつでも猩影は自分を責めた。あのとき、手を繋いでいれば。はぐれなければ。もっと早く夢主の居場所を察知できていれば。一緒に居なかったことへの後悔が猩影にずっと付きまとう。
夢主、夢主、夢主・・・
名を呼んで、手を握り、彼女が目を覚ますのを願うことしかできなかった。
親父、助けてくれ。夢主を助けてくれ。なあ、俺から夢主すらも奪うのか。そしたら今度こそ俺は、ひとりになっちまう・・・
夢主は長い長い夢を見る。
夢、というには少しばかり異色であるが、現実でないことには夢なのである。
白の世界で出会ったのは、遠い昔の時代に生きた祖母、珱姫だ。珱姫は夢主をまっすぐに見つめると、意を決したように話し始めた。
「夢主、あなたにとっては辛いことだとわかっています。ですが、思い出してください。鯉伴、いえ、貴女の父親が命を落としたときのことを」
思いも寄らない「お話」の内容に夢主は息を呑む。そしてそれはできれば思い出したくはないものであった。
「お父さんが、死んだとき・・・お父さんは、刀で刺された。だけど、私はそれしか知らないの、おばあちゃん」
噛み締めるように言葉にする。
「では、なぜそれを知っているのですか、夢主」
「それは・・・」
夢主は目を閉じた。映るのは、父の胸元に突き刺さる刀。その刀とは、四国との抗争の際に再び見ることになったあの刀である。そして崩れ落ちる父。
夢主の記憶はこれだけだ。
夢主は、確かに見ていた。父の命が尽きるところを。それはやがて夢主のトラウマになった。誰かが傷つくことが極端に怖くなった。できることなら誰も傷つかぬようにと、願ってきた。
それが行動に現れたのは、四国襲来の時である。
だけど、夢主は、どうして父が刀に貫かれるのを目の当たりにしたのか、肝心なところを覚えていない。
父の最期を思い出すたび、どうして、父を助けに飛び出すなり、誰かを呼びに行くなりできなかったのか。次に意識がハッキリしたのは自室の布団の中だった。現場を発見した者によれば、夢主は鯉伴の亡骸の傍らで放心していた、という。
しかし夢主本人は覚えていないのだ。
(私は何かを忘れている?でも、何を・・・?)
『孫娘よ・・・お主には特等席で事の顛末を見てもらうとしよう。フェッフェッフェ~』
それは唐突に蘇った。
『絶望を頭に刻み込んでおけ』
あまりにもリアルに蘇った声に夢主は咄嗟に両耳を塞ぐ。
『父の殺されるところをよぉ~く、覚えておくのじゃぞぉ』
ぎゅっと目を瞑っても、
『そして、時が来たたとき・・・・・・その生き肝が羽衣狐様のお力となるのじゃ』
唇を噛み締めても、
『不思議な力を持った姫よ』
蘇った声が頭の中に響く。
『400年前、食らい損ねたその力を・・・今度こそ』
夢主の心がまたもその記憶を排除しようとする。
「あ、ああ・・・そん、な・・・おとう、さん・・・うっっぐ」
ふらふらと夢主がへたり込む。身体は見てわかるほどに震え、放心しそうになったとき、珱姫が夢主の両肩をぎゅっと掴み目を合わせた。
「夢主!気をしっかり持ちなさい!!」