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その十六
夢主の名前
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「牛鬼様、あれは何です?」
「あれは陰陽師という妖怪から人を守る役目を負った能力者だ。よぉく知っておけ」
崩れかけの壁の上に現れたのは、牛鬼を筆頭に牛頭丸、馬頭丸だ。
「あいつが夢主を・・・強いんですかね」
牛頭丸は背から爪を出して、いつでも臨戦態勢といったところだ。
「牛頭・・・その爪をしまえ」
それを皮切りに次々と現れる妖怪たち。
竜二は今までに感じたことのないような大きさの妖気に警戒を強める。
「兄ちゃんコレ百鬼夜行や」
「百鬼夜行!?ふざけるなよ、だとすればこの中に・・・」
竜二はリクオを見る。駆けつけた妖怪たちが、彼を守るように囲っている。
「お前・・・何者だ!?」
「オレは――関東大妖怪任侠一家奴良組若頭、ぬらりひょんの孫――奴良リクオ」
「ぬらりひょんの孫だと・・・!?」
リクオの正体を知り、困惑するゆらと竜二。
しかし魔魅流だけは違っていた。またしてもリクオに突っ込んでいく。
次に彼を止めたのは、青田坊と黒田坊だった。
「昨日の続き、いや、うちのお嬢をあんな目に合わせた礼をしねぇとなあ」
「首無、姉貴の様子はどうだ」
首無は、魔魅流に焼き切られた紐を握り締めている。リクオに問いかけられ、表情を少しだけ緩めると答えた。
「命に別状はないようです。しかし、未だに目を覚まさず・・・鴆様と若菜様、猩影が付きっ切りで様子を見ています」
「そうか・・・」
リクオは何かを考える。
その隙をつくように竜二がゆらに”訃報”を伝えた。
「やつらが動き出した」
花開院家の宿敵、京都の妖をたばねる大妖怪――羽衣狐!!
京都に張られる8つの封印のうち、2つを破られた花開院家は修行中のゆらを呼び戻すことにしたのだ。
「ゆら、京に戻ってこい・・・」
竜二はゆらに言伝を終えると、祢々切丸をリクオの目の前へと投げて寄越した。
「そーだ”ぬらりひょん”に会ったらと・・・じいさんから言伝を頼まれている。”二度とうちには来んじゃねぇ”"来ても飯は食わさん”」
言い終わると竜二は背を向けてその場を立ち去ろうとする。
「待て、陰陽師」
「無事に帰ることができると思ったか」
立ちはだかったのは、首無、黒田坊、青田坊。それに続くようにリクオの周りに居た妖怪たちも再び竜二と魔魅流を睨む。
「そちらの用事は終わってもこちらの用は済んでいない」
「フン・・・“お嬢様”のことか?俺たちは陰陽師だ。役目を全うしただけだ」
「なんだあいつ・・・えっらそうに」
「かこまれてんのはオメーらだっつーの」
ざわざわと、じりじりと妖怪たちは陰陽師に詰め寄っていく。
「やめねぇか」
漸く身体の痺れが切れたリクオが徐に立ち上がる。
「夢主は死んだわけじゃねぇんだ。その辺にしとけ・・・」
「しかしリクオ様!!」
「“狂言”今日はもうやめだ」
竜二の一言で廃墟の八方から黒色の水が竹筒に戻っていく。
それを見て、リクオに抗議した妖怪たちはうろたえた。
二重に結界を張っておいて退散する竜二に魔魅流が意見するが、竜二は取り合わない。
「人間の血に敬意を払うのは今回で最後だ。ぬらりひょんの孫・・・“灰色”の存在もオレは認めんぞ」
黒服の二人組みが百鬼から離れていく。妖怪たちはその後姿を各々の心境で見つめた。