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その十五
夢主の名前
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「鴆の兄貴!鴆の兄貴は着てますか!」
奴良組本家に叫び声が響く。なんだなんだ本家の妖怪が玄関にやってくる。
その中には首無や毛倡妓、そして組の若頭であるリクオの姿もある。
「どうしたの、そんな大声で・・・!夢主姉」
「夢主様!!」
「夢主様!?」
「若!鴆の兄貴を早く!」
「わかった。猩影くんは夢主姉を部屋へ。首無、鴆くんを呼んで」
「はい!」
猩影は夢主を部屋へと運ぶ。
その道すがら、妖怪化したリクオは猩影に問う。
「何があった」
「街で夢主とはぐれて・・・破壊音を聞いたんです。駆けつけたときには・・・」
「そうか・・・」
猩影はぐっと唇をかみ締める。夢主とはぐれなければ、こんな事態は招かれなかった。
夢主を部屋へと運んで暫く、鴆が到着する。
「夢主!」
鴆は早速診察を始める。
「こいつぁひどい。一体何があったってんだ」
鴆は毛倡妓以外を部屋の外へ追い出した。
夢主の部屋の前、猩影を筆頭にリクオや首無など夢主を心配した妖怪たちが集まっていた。
「夢主様!」
そこへ青田坊と黒田坊がやってきた。
「青!お前ぼろぼろじゃねぇか」
「若、俺がついていながら、夢主様をこんな目に・・・」
「どういうこった」
青田坊は事の経緯を説明した。
「にわかには信じられん。だが青の言うとおり、それが人間だってんなら・・・」
「ああ、それは陰陽師」
「水と雷か・・・」
「リクオ様!今すぐ出入りにいきやしょう!」
「そうです!陰陽師のやつら、この奴良組の姫様に手を出したことを後悔させてやる」
「若!」
「リクオ様!」
「待て。陰陽師なら、オレに心当たりがある」
士気が高まる奴良組妖怪たちに、リクオを待ったをかけた。
翌日、リクオは清十字団の活動として花開院ゆらを探しに街に出た。
リクオとしても、ゆらに会って聴きたいことがあったので率先して探しに出た。
それを見た幹部たちは愚痴をこぼす。
「一体若は何を考えておられるのやら・・・」
「夢主様が瀕死の状態だってのに、のんきなもんだぜ」
その時、夢主の部屋から出てくる者があった。
猩影だ。
その顔は暗く、怒りに満ちている。先の四国戦を彷彿とさせるその表情に、愚痴をこぼしていた幹部たちは退散する。
夢主は、一晩経っても目を覚まさない。熱が出て、苦しそうに息をしている。着物から覗く肌には、包帯が巻かれ、とても痛々しい。
毛倡妓と鴆が着きっきりで看病するが、一向に目を覚ます気配はない。怪我が完治するのもおそらく一月はかかるだろう。
白い世界に漂っている。ふわふわと揺れて、それが心地いい。見渡す限り何もない。
ここは一体どこだろう。自分はなぜこんなところにいるのだろう。
早く、家に帰って、猩くんを見つけなきゃ。
そういえば、青に会って、一緒に本家に戻る途中だった。
式神・・・陰陽師?
水を被ったから電気の攻撃は致命傷になる。
だめ、よけて、青田坊!
間に合わない。
そっか、私はあの時、あの攻撃を受けてしまったんだ。
そこから先の記憶がない。その後、自分がどうなったのかもわからない。
膝を抱えて俯いた。
ごめんね、猩くん。
ここがどこなのかわからないや。まだあなたのところには帰れそうにない。