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その十三
夢主の名前
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夢主と猩影は、四国撤退後、夢主の部屋にて話し合う場を設けた。
「ごめんなさい」
開口一番に夢主はそう言った。
「狒々組を守れなかった。狒々おじさまを守れなかった」
「夢主様、頭を上げてください。謝らなければならないのは、俺の方です」
その言葉に驚いて、夢主は顔を上げた。猩影が謝罪することなどあっただろうか、否。
「夢主様は俺の身を守ろうと、俺を突き放したと聞きました。俺はそんなことには気づかずに夢主様に見放されたと思った。そして親父の組が壊滅して、復讐ばかり考えた。夢主様の気持ちを無視してしまった」
「そ、そんなの猩くんが謝ることじゃない!悪いのは私。勝手に飛び出して、それに最悪な結果を招いてしまった。本当にごめんなさい。冷静な判断をしていれば、防げたかもしれなったのに」
「親父の組が壊滅したのは、何も夢主様の所為じゃありません。あれは組の実力・・・だから、もう謝らないでください」
目線はまっすぐに夢主を捕らえる。
「俺は、組を継ぐ。親父の代よりも強い組を作る。これは俺のけじめです。夢主様が責任を感じることはないです」
人間として生きると言っていた猩影。だが、それを覆したのは、父親の組が壊滅したからではない。復讐のためでもない。
夢主を見てそう思った。夢主は奴良組を守るために自分の身を差し出した。そんな覚悟が猩影の中にはなく、人間としても妖怪としても失格だと思った。
「夢主を・・・守りたい」
「猩くん・・・」
「俺は夢主を守りたいんだ」
守ろうとするものに守られた。それが何より悔しい。
「私はあなたの目の前で、憎むべき相手である玉章を治癒した。それでも?」
夢主は覚悟をしていた。狒々を、猩影の父を亡き者にしたのは他でもない玉章である。本来なら仇をとってもおかしくない敵を治癒したのだ。猩影に憎まれても仕方がないと思っていた。
「あれは、手打ちのあとだ。夢主のしたことは、きっと間違いじゃない」
「でも」
「俺が言うんだから、いいんだ。それよりも、辛くないか?」
猩影は夢主の身体を心配している。それを察した夢主は、自分の力についてを猩影に話した。そして、四国の陣地で起こったことも彼に話した。
「・・・それは確かに二代目を殺ったの凶器だったのか?」
玉章に刀の行方を聞いていたのにはこういう理由があったのだ。
「間違いないと思う。だけど、確かめられなかった」
夢主が百鬼に追いつたときには、あの刀はもうそこにはなかった。そしてそれを誰が持っていったのかは、先ほど確認済みだ。
「玉章が持ってた刀は確かにおかしかった」
「仲間を糧にするなんて・・・あんな・・・ひ、どい」
部屋中に、切り伏せられた四国の妖怪たち。刀は仲間の血を糧に威力を増す。
信頼は一瞬にして憎悪になった。
それを見てせせら笑う玉章。彼もまた刀の被害者なのだと、夢主は思う。
「夢主」
震えだした夢主を猩影が包み込む。
「あの刀は・・・血を、吸いすぎてる・・・」
「夢主、もう思い出さなくていい」
猩影が静止をかけても言葉は止まらない。
「憎、しみが・・・」
「夢主!止めろよ!」
「こわ、かった」
そして彼女は手を握り締めた。強く握りすぎて手のひらに爪が食い込んでいる。
「夢主。」
猩影は両の手で夢主の手のひらを優しく解いた。そして爪の跡をそっと撫ぜる。
「もう大丈夫だ。ここには俺がいる」
もう大丈夫だ、もう一度繰り返して、猩影は腕の中の彼女を壊さないようにそっと、強く、抱きしめる。
俯いて、夢主の顔はよく見えない。泣いているだろうか。身体は相変わらず震えている。
その震えがどうにか止まるように、猩影は力をこめる。震える隙を与えないように。
「猩、くん・・・」
「ん?」
「ごめん。ありがとう。・・・ただいま」
「ん、おかえり、夢主」
四国編完了。