「来たね。待っていたよ、夢主」

建設中のビルの一角で、玉章は夢主を出迎える。

「玉章。約束は、守ってもらうわよ」

「約束？」

「私があなたのもとに行くなら、奴良組のシマから手を引くという約束よ」

「考えてもいいとは言ったが、約束した覚えはないな」

「！」

突如、夢主の両隣に妖怪が現れ、夢主を拘束する。

そして玉章は一枚の紙を夢主の目の前に翳した。そこに書かれたものを見て、夢主は驚愕する。


「狒々おじさま・・・！」


妖怪狒々が描かれた上に赤い筆で×印が打たれている。

「これは、どういうことなの」

最悪を想像して否定して。

「大幹部の割りにあっさりだったね」

「そんな・・・うそよ、狒々おじさまが・・・」

しかし真相は、最悪だった。夢主の顔に色がなくなる。

「遅かったね。ここまできたらもう手を引くことはできないんだ。奴良組のシマも、君も手に入れる」

「いや！やめて！・・・離してよ！約束が違うじゃない！！」

「バカな奴ぜよ。玉章に騙された奴良組の娘」

「僕はね、夢主。君のような奴が一番許せないんだよ！！」

玉章は捕らえられている夢主の目の前までいくと、髪を鷲掴んで俯く夢主の顔をあげさせる。
夢主は悔しさと痛みに顔をゆがめることしかできない。

「そう、その顔。そそられるね」








僕はね、夢主。君のようなやつが一番許せないんだよ。君には権利があった。奴良組の跡取りとしての。それを君は無条件で手放したんだ。

僕が、欲しくても手の届かないものを、生まれながらに与えられた権利を。