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その六
夢主の名前
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三郎猫を治療をした翌日、夢主と猩影のクラスに転校生がやってきた。
「四国からの転校生、玉章くんだ。玉章、席は奴良の横だ」
「よろしくね、玉章くん」
「よろしくね、奴良、夢主さん」
あれ、私、名前言ったっけ?
そのやりとりを猩影はじっと見ていた。
あいつは、やばい。
休み時間、玉章の席の周りには人だかりができてしまった。
この時期に珍しい転校生ということと、なぜか人を惹きつける玉章の雰囲気にクラス中が沸いていた。
そのため猩影はその隣の席の夢主に近づけない。
逆に夢主を呼び出そうとしたが、ちょうどそのとき玉章が立ち上がった。
生徒の視線が一斉に彼に集まる。
「転校初日で、この学校のことが良くわからないから、案内してくれないかな、夢主さん?」
こともあろうに、玉章は夢主を指名した。
夢主は自分の名前が挙がったことに一瞬きょとんとする。その間に、クラスはさらに騒がしくなる。
ひゅーっと口笛を吹く者や囃子立てる者がほとんどだった。
「いいわよ」
一瞬間をおいて、夢主もすっと立ち上がる。
猩影は慌てた。
夢主様!
「玉章くん、夢主ちゃんには猩影くんがいるから取っちゃだめよ」
その時、誰かがそう言った。猩影は相変わらず玉章をじっと睨んでいた。
「猩影くん?」
玉章が反芻するように言い、そして振り返った。
目が合う二人。
一瞬玉章が笑ったような気がして猩影は立ち上がる。
教室がまた沸く。
「猩くん、ちょっと行ってくるね。大丈夫だから」
夢主は玉章を連れて教室を出て行く。
猩影は、大丈夫という夢主に、動けなかった。
「どこから回ろうかしら、玉章くん」
「そうだね、とりあえず・・・人気のないところがいいかな」
二人は屋上にやってきた。
「なんの用?四国妖怪さん」
「その呼び方は止めてくれるかな、奴良組のお嬢様」
「・・・その呼び方も止めてくれない?それで、何の用なの?」
「単刀直入に言おう、夢主、僕と一緒にこないか」
向き直り、まっすぐ夢主を見て、玉章は言った。
「お断りするわ」
間髪入れない断り。
「・・・即答はひどいな。僕も君も同じ立場なんだ、奴良組にいても君の居場所はいづれなくなる。組は弟くんが継ぐんだろう」
「余計なお世話よ」
「すぐに、とは言わない。ただし僕たちもここでシノギをさせてもらうよ」
「奴良組とやり合おうっての?」
「やり合う?ここはもって一週間と僕は見た。奴良組の総大将、ぬらりひょんは四国八十八鬼夜行が・・・殺るよ」
玉章は、夢主の言葉がおかしいと言わんばかりに嘲笑う。
「なんて、こと。おじいちゃんはそう簡単にはやられないわ!」
祖父は、ぬらりひょんは妖怪の総大将だ。そんな簡単にやられるはずがない。
夢主は素直にそう思った。
そして、戦いの宣戦布告をした玉章をキっと睨む。
「虚勢を張れるのも今のうちさ。すぐに奴良組なんて居たくなくなる。君は・・・美しい。是非僕の八十八鬼を隣で支えてほしい」
夢主の睨みなど物ともせず、一歩近づく。
玉章の手が夢主に伸びてくる。その時、屋上の入り口が大きな音を立てて開いた。