この日も通過儀礼を何件かこなし、夢主と猩影はいつものように二人で下校していた。


「夢主様！」

後ろから夢主を呼ぶ声が響いて、二人は振り返る。そこには、息を切らした良太猫がいた。

「良太猫、どうしたの？」

「ハァハァ・・・夢主様！・・・お願いです、ワシの子分を・・・助けてくれねぇですか」

「具合、悪いの？」

夢主は状況に察しがついた。夢主の能力を知っていて、医者ではなく、夢主を頼る。
それが何を意味するか・・・。

「それが、今朝方、突風が吹いたと思ったら三郎猫が急に苦しみ出して・・・その、夢主様のお力で、三郎猫を助けてくれねぇですか！」

「猩くん・・・」

それは猩影も同じだった。

「・・・行くんだろ」

「ありがとう」



３人は化猫屋へ急いだ。






三郎猫の容態は思わしくなかった。
夢主は早速妖怪の姿に変化して、治癒を始める。
変化した夢主を初めてみた化猫組の者たちは、美しいその姿に魅了された。


「夢主様」

「・・・これはおそらく妖怪の毒。風で切られるとそこから毒に蝕まれるのね・・・」

「三郎猫は助かるのでしょうか！？」

「必ず、助けるわ・・・でも、私の力が及ぶかどうか」

「無理はしないでくだせぇ」


夢主は、三郎猫に両手を翳す。手から淡い光が放たれ、傷口を覆っていく。
それは、暖かく、やさしい光だった。

しばらくして、苦しそうにしていた三郎猫の呼吸が穏やかになった。
夢主の力で毒が浄化され、傷口も塞がりかけている。


「三郎猫！・・・夢主様、本当にありがとうございます！！」

「よかった、これでもう大丈夫なはずよ」

「本当に、本当にありがとうございます！」

「そんな、いいのよ。私にできることはこれくらいしかないから。猩くん、帰ろう」

待たせてごめんね、と夢主。猩影は黙って夢主の手をとり、横を歩く。

化猫組の者たちは夢主たちが見えなくなるまで、頭を下げていた。

そして、化猫屋が見えなくなったとき、カクっと夢主が崩れた。

「っ！」

それを猩影はわかっていたかのように受け止める。

「猩、くん・・・」

「夢主が倒れたら意味がないんだ。お願いだから、無理はするな」

「だけど、私はこれくらいしか、できることがないから・・・」

「違う、それは夢主にしかできないことだ。俺は、何もできないけど、夢主を支えたい。だからせめて俺の前で我慢するな。辛いなら言ってくれ」

夢主は猩影に抱きついた。
猩影は一瞬戸惑うが、夢主を受け止める。

夢主は、嬉しかった。猩影のこの言葉は、奴良組の息女としてではなく、女の子としての、恋人としての夢主に向けた言葉だと思ったから。