第一章
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部屋の隅に蹲った楓は膝に顔を埋め、側に座す伊吹丸へと尋ねた。
楓「……ねえ……いぶきまる……」
伊吹丸『ん?何だ、楓』
楓「いぶきまるはみんなにはみえないんでしょ……?」
伊吹丸「ああ。この身は霊体故、霊力のないものには視えぬ」
楓「……あのひと……ぼくをみて、ようかいっていってた……けがらわしいって………」
伊吹丸『……楓……』
ぎゅ、と自分を抱くようにして膝を抱える楓は、簾た前髪から覗く水色の瞳で伊吹丸を見た。
楓「……いみはわからないけど、とてもこわかった……からだがつめたくなっていきができなくなった……きっとあのひとはぼくがとてもきらいなんだね……。……ねえ、いぶきまる………れいは、おに?」
伊吹丸『……いや、零は人間だ。鬼の力を借りてはいるが鬼ではないよ』
楓「……じゃあ、ぼくはにんげん……?」
伊吹丸は事実を返答すべきか思案した。
返答次第ではこの子の不安や、疑心暗鬼に拍車がかかり、記憶のない状態の心を壊してはしまわないだろうか、と。
伊吹丸『……それは………』
零「お前が答えを望むなら教えてやる」
伊吹丸『零……!』
扉を開け、戸口に立っていた零が部屋に入ってくる。
楓「……れい………」
楓がゆるゆると伏せていた顔を上げる。
零「……さっきは怒鳴って悪かったな。知りたいか、知りたくないかは、お前が選べ、楓」
伊吹丸『零……!!この子にはまだ……!』
珍しく声を荒げた伊吹丸を、零の紅の瞳が一瞥する。
零「……どうせ遅かれ早かれ知ることになるんだ。今傷つくか、後から傷つくかの違いしかない。隠したとしてもこいつが余計に傷つくだけだ。そうだろう?」
伊吹丸『ッ……だが……しかし……ッ……』
楓「……知ったら……どうなるの……?」
零「……分からない。お前の記憶が戻るかもしれんし、戻らないかもしれん。ただ傷ついて終わるだけかもしれない。それでもお前は、知りたいと思うか……?」
零の問いにぽかんとした顔で彼を見上げていた楓の瞳からぽろり、と涙が零れ落ちる。
楓「ッ………こわい………しりたいけど、しりたくないっ………れいとちがうっていわれるのがこわい………なにもないのもこわいけどっ……ぜんぜんちがうのが、いちばんこわいっ………」
涙を零し、泣き出した楓を見つめ、零は静かに瞳を閉じた。
伊吹丸『ッ……楓……もう、良いであろう、零……答えは既に──────』
零「……いや、まだだ。まだ、肝心なことを聞いてねえ」
そう言って再び目を開ける零。
零「楓。さっきも言ったが、遅かれ早かれ、お前は事実を知ることになる。……これは俺がお前にやれる……最後の選択だ」
楓は、しゃくり上げながら前に立つ零を見つめる。
零「俺じゃねえ他人の手で傷つくか、それとも、俺の手で……傷つくか。選べ、楓」
伊吹丸(……なんと、むごい選択だ………しかし、選ぶのは楓自身に他ならぬ………ならば我は、見守るしかないのか──────)
………楓は泣き続け、暫くの間が生まれる。
しかし、零はただじっと黙ったまま、急かすこともせず、楓の答えを待ち続ける。
そうして、漸く楓が涙に濡れた顔を上げた。
楓「………れいがいい……ぼくはれいをえらぶ……だってぼくを楓にしてくれたのはれいだから─────」
楓は、そう言って涙を拭き、精一杯の笑顔を作る。
零「……そうか。分かった」
零は、楓に近付くと、彼の目線の高さまでしゃがみこんだ。
零「いいか、よく聞け。結論から言うと、お前は人間じゃない」
楓「っ……」
その言葉に、楓が息を呑むのが分かった。
零「だが、完全な妖怪というわけでもない」
楓「……ようかいってなに?いぶきまるみたいなひとのこと……?」
零「そうだ。人とは違う、相容れない生き物。それが妖怪だ」
楓「ようかいでも、にんげんでもないなら、ぼくは、なに……?」
零が楓の瞳を真っ直ぐに見て口を開く。
零「お前は半妖怪だ。完全な人間でもなく、妖怪でもない。二つの種族が混じり合って生まれた禁忌の存在。それがお前だ」
楓「……きんき……ぼくは、うまれてきちゃいけなかったの……?」
零「半妖怪は人間にも妖怪にも成りきれない半端な存在と言われる。時に、生まれてくるべきではなかったとも言われる事がある」
伊吹丸『…………』
楓「そっか……やっぱり、ぼくはうまれてきちゃいけなかったんだ………」
表情暗く、沈みかけた楓に、零が静かに語りかける。
零「……生まれてきて良かったかどうか、決めるのは他人じゃない。神でもない。それは楓、お前がこれから生きて決めるんだ」
楓「……いきて……ぼくはいきて、いいの……でも、ぼくは、なんにも………」
零「……現にお前は今生きてる。生きることに誰かの許可なんかいらねえ。それに、記憶は無いかもしれないが、……一つだけあるだろう」
楓「……?なにも、ないよ……ぼくはなにももって………あ…………」
零「そうだ。楓。お前は、"楓"だ」
その瞬間、楓の瞳から再び涙が溢れる。
楓「っ………れいっ………!うッ……うわぁああああッ!」
泣きながら抱き着いてきた楓の背をぽんぽんと優しく叩く。
零「……やったばかりだし、なんのひねりもない名前だが、"お前"を定着させるのには十分だったみたいだな」
伊吹丸『全く……冷や冷やさせおる……一時はどうなる事かと思うたが、うまく事が運んだようで安堵したわ』
そう言って息をつき、立ち上がった伊吹丸に、零が声をかけた。
零「どこへ行くんだ」
伊吹丸『結界の調整だ。乱れていた楓の妖力が少し安定したからな』
零「そうか。日が暮れるまでには戻れよ」
伊吹丸『分かっている。なに、我がいない間、忌憚無く二人で緩りと過ごすがいい。ではな』
零「おいちょっと待て。そりゃどういう意味だ……ってもういねえ……」
姿を消した伊吹丸に内心で舌打ちをしつつ、
抱き着いたままの楓に声をかける。
零「楓。そろそろ腹が減っただろう。洗いモンも木城さんに任せたままだしな」
楓「……うん。あやめにまたあえる?」
零「ああ。多分な」
楓「そっか。じゃあはやくいこう!」
あっさり自分から離れ、手を引いて立ち上がる楓を、零は少々呆れがちに見遣る。
零「……現金なやつだ……」
楓「れいはやくはやく!!」
零「ッ……分かったから引っ張るな!……ていうか待て。お前まだ寝てなきゃ駄目じゃねえか!」
楓「えー、ごはんおあずけ?」
零「飯は持ってきてやる。だから大人しく……」
楓「あやめは?」
零「木城さんを飯と並べるな!」
布団の中で頬を膨らませる楓に、小さく笑い、小さな手に手を重ねる。
楓「あやめにあいたい……こんどはちゃんとおはなししたい……」
零「もう少し良くなったらな」
握り返される手をぎこちなく握り、穏やかに笑む。
楓「じゃあなおったらみんなでごはんたべよ。いぶきまるもいっしょに!」
零「………。………ああ、そうだな……」
繋いだ手にしっかりと宿るのは互いのぬくもり。
未だ答え定まらぬ少年と己を繋ぎ止めた少年は、柔らかな春の風吹く中、暫しの間、束の間の幸せな時を過ごす。
例えその日々が夢に始まり、夢に終わろうとも、今は、今だけはどうか願わくば一時の安らぎを────────。
楓「……ねえ……いぶきまる……」
伊吹丸『ん?何だ、楓』
楓「いぶきまるはみんなにはみえないんでしょ……?」
伊吹丸「ああ。この身は霊体故、霊力のないものには視えぬ」
楓「……あのひと……ぼくをみて、ようかいっていってた……けがらわしいって………」
伊吹丸『……楓……』
ぎゅ、と自分を抱くようにして膝を抱える楓は、簾た前髪から覗く水色の瞳で伊吹丸を見た。
楓「……いみはわからないけど、とてもこわかった……からだがつめたくなっていきができなくなった……きっとあのひとはぼくがとてもきらいなんだね……。……ねえ、いぶきまる………れいは、おに?」
伊吹丸『……いや、零は人間だ。鬼の力を借りてはいるが鬼ではないよ』
楓「……じゃあ、ぼくはにんげん……?」
伊吹丸は事実を返答すべきか思案した。
返答次第ではこの子の不安や、疑心暗鬼に拍車がかかり、記憶のない状態の心を壊してはしまわないだろうか、と。
伊吹丸『……それは………』
零「お前が答えを望むなら教えてやる」
伊吹丸『零……!』
扉を開け、戸口に立っていた零が部屋に入ってくる。
楓「……れい………」
楓がゆるゆると伏せていた顔を上げる。
零「……さっきは怒鳴って悪かったな。知りたいか、知りたくないかは、お前が選べ、楓」
伊吹丸『零……!!この子にはまだ……!』
珍しく声を荒げた伊吹丸を、零の紅の瞳が一瞥する。
零「……どうせ遅かれ早かれ知ることになるんだ。今傷つくか、後から傷つくかの違いしかない。隠したとしてもこいつが余計に傷つくだけだ。そうだろう?」
伊吹丸『ッ……だが……しかし……ッ……』
楓「……知ったら……どうなるの……?」
零「……分からない。お前の記憶が戻るかもしれんし、戻らないかもしれん。ただ傷ついて終わるだけかもしれない。それでもお前は、知りたいと思うか……?」
零の問いにぽかんとした顔で彼を見上げていた楓の瞳からぽろり、と涙が零れ落ちる。
楓「ッ………こわい………しりたいけど、しりたくないっ………れいとちがうっていわれるのがこわい………なにもないのもこわいけどっ……ぜんぜんちがうのが、いちばんこわいっ………」
涙を零し、泣き出した楓を見つめ、零は静かに瞳を閉じた。
伊吹丸『ッ……楓……もう、良いであろう、零……答えは既に──────』
零「……いや、まだだ。まだ、肝心なことを聞いてねえ」
そう言って再び目を開ける零。
零「楓。さっきも言ったが、遅かれ早かれ、お前は事実を知ることになる。……これは俺がお前にやれる……最後の選択だ」
楓は、しゃくり上げながら前に立つ零を見つめる。
零「俺じゃねえ他人の手で傷つくか、それとも、俺の手で……傷つくか。選べ、楓」
伊吹丸(……なんと、むごい選択だ………しかし、選ぶのは楓自身に他ならぬ………ならば我は、見守るしかないのか──────)
………楓は泣き続け、暫くの間が生まれる。
しかし、零はただじっと黙ったまま、急かすこともせず、楓の答えを待ち続ける。
そうして、漸く楓が涙に濡れた顔を上げた。
楓「………れいがいい……ぼくはれいをえらぶ……だってぼくを楓にしてくれたのはれいだから─────」
楓は、そう言って涙を拭き、精一杯の笑顔を作る。
零「……そうか。分かった」
零は、楓に近付くと、彼の目線の高さまでしゃがみこんだ。
零「いいか、よく聞け。結論から言うと、お前は人間じゃない」
楓「っ……」
その言葉に、楓が息を呑むのが分かった。
零「だが、完全な妖怪というわけでもない」
楓「……ようかいってなに?いぶきまるみたいなひとのこと……?」
零「そうだ。人とは違う、相容れない生き物。それが妖怪だ」
楓「ようかいでも、にんげんでもないなら、ぼくは、なに……?」
零が楓の瞳を真っ直ぐに見て口を開く。
零「お前は半妖怪だ。完全な人間でもなく、妖怪でもない。二つの種族が混じり合って生まれた禁忌の存在。それがお前だ」
楓「……きんき……ぼくは、うまれてきちゃいけなかったの……?」
零「半妖怪は人間にも妖怪にも成りきれない半端な存在と言われる。時に、生まれてくるべきではなかったとも言われる事がある」
伊吹丸『…………』
楓「そっか……やっぱり、ぼくはうまれてきちゃいけなかったんだ………」
表情暗く、沈みかけた楓に、零が静かに語りかける。
零「……生まれてきて良かったかどうか、決めるのは他人じゃない。神でもない。それは楓、お前がこれから生きて決めるんだ」
楓「……いきて……ぼくはいきて、いいの……でも、ぼくは、なんにも………」
零「……現にお前は今生きてる。生きることに誰かの許可なんかいらねえ。それに、記憶は無いかもしれないが、……一つだけあるだろう」
楓「……?なにも、ないよ……ぼくはなにももって………あ…………」
零「そうだ。楓。お前は、"楓"だ」
その瞬間、楓の瞳から再び涙が溢れる。
楓「っ………れいっ………!うッ……うわぁああああッ!」
泣きながら抱き着いてきた楓の背をぽんぽんと優しく叩く。
零「……やったばかりだし、なんのひねりもない名前だが、"お前"を定着させるのには十分だったみたいだな」
伊吹丸『全く……冷や冷やさせおる……一時はどうなる事かと思うたが、うまく事が運んだようで安堵したわ』
そう言って息をつき、立ち上がった伊吹丸に、零が声をかけた。
零「どこへ行くんだ」
伊吹丸『結界の調整だ。乱れていた楓の妖力が少し安定したからな』
零「そうか。日が暮れるまでには戻れよ」
伊吹丸『分かっている。なに、我がいない間、忌憚無く二人で緩りと過ごすがいい。ではな』
零「おいちょっと待て。そりゃどういう意味だ……ってもういねえ……」
姿を消した伊吹丸に内心で舌打ちをしつつ、
抱き着いたままの楓に声をかける。
零「楓。そろそろ腹が減っただろう。洗いモンも木城さんに任せたままだしな」
楓「……うん。あやめにまたあえる?」
零「ああ。多分な」
楓「そっか。じゃあはやくいこう!」
あっさり自分から離れ、手を引いて立ち上がる楓を、零は少々呆れがちに見遣る。
零「……現金なやつだ……」
楓「れいはやくはやく!!」
零「ッ……分かったから引っ張るな!……ていうか待て。お前まだ寝てなきゃ駄目じゃねえか!」
楓「えー、ごはんおあずけ?」
零「飯は持ってきてやる。だから大人しく……」
楓「あやめは?」
零「木城さんを飯と並べるな!」
布団の中で頬を膨らませる楓に、小さく笑い、小さな手に手を重ねる。
楓「あやめにあいたい……こんどはちゃんとおはなししたい……」
零「もう少し良くなったらな」
握り返される手をぎこちなく握り、穏やかに笑む。
楓「じゃあなおったらみんなでごはんたべよ。いぶきまるもいっしょに!」
零「………。………ああ、そうだな……」
繋いだ手にしっかりと宿るのは互いのぬくもり。
未だ答え定まらぬ少年と己を繋ぎ止めた少年は、柔らかな春の風吹く中、暫しの間、束の間の幸せな時を過ごす。
例えその日々が夢に始まり、夢に終わろうとも、今は、今だけはどうか願わくば一時の安らぎを────────。