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様々な人々の叫び声や悲鳴が聞こえる中私は一人暗闇に立っていた、実際は立っていないがこう表現する方が今の状況に合うだろう
血走った目を向けながら私に刀を向けていた敵軍の兵の顔を最後に私の視界は闇に覆われたように何も映さない、あるのは暗闇と自分の瞳から溢れ出る生温い何かと痛みだけだ
自分の目の前で最後に写った敵軍の兵の叫び声が聞こえ、私は思わず自分の腕を上げて今出来る精一杯の防御をした、だが瞳は何も映さない敵軍の刀がどこから来るのか分からない
「あ……ッ」
滲み出る恐怖心から思わず声が出たしかしそんな私の腕は誰かによって握り締められた、この手を私は知っている気がした、今は金属の冷たい感触だがその下にある温かい手を知っていた
「おいおい、冗談だろ」
切羽詰った声でそう言って私を抱えたソイツはそのまま飛び上がったのか風が切れる音が響く中私を抱えたソイツは私の容態を気にしていた
「ナマエちゃん!!俺様の顔見れるよね!?」
「……?佐助?」
「ねぇ言ってよ俺様の情けない顔が見れるって、いつも馬鹿にしてきたくせにそりゃないよ」
どうやら私を助けてくれたのは佐助のようだ泣きそうな声で私の名前を呼んできた、やはり顔が見れないというのはどうにも不便だ早くこの暗闇から抜け出したい
風が切れる音が止み今度は川の流れる音が聞こえると佐助は冷たい金属の篭手で私の頬に触れた、思わず肩を竦ませるが佐助は次に川で濡らして来たのか水で濡れた冷たい手拭いを私の瞳に置いた
「冷たッ……」
「大丈夫、ちょっと傷を見るだけだから……ね、瞼が斬れただけだよねナマエちゃん」
自分に言い聞かせるように呟いた佐助の声を聞きながら私はただ暗闇の中で佐助の腕を掴むだけだった、相変わらず硬い防具の感触しかしない
それにしても暗闇に包まれてから私は視覚以外の事に関して鋭くなったと思う、川の流れる音はいつもより大きく聞こえるし佐助の心配そうな息遣いもよく聞こえる
一体私の身に何が起きたのだろうかと考えているうちに佐助は私の瞳から濡れた手拭いを離した
「嘘だろ……」
「どうかしたか?」
「ナマエちゃん、自分で気が付いてないの?」
「?何の事だ?それにしても先程からずっと真っ暗なんだ、悪戯でもしたのか?」
「…………ッ」
佐助の言ってる事が分からないがとりあえずこの暗闇から抜け出したかったので佐助に伝えたが返ってきたのは佐助が息を呑む音だけだった
何をそんなに気負う事がある?今日の佐助はなんだか変だなと言うと佐助はまた返事をせず息を呑むだけだった、そして私がなにか言う前に佐助は何思ったのか私の体を抱きしめた
「さす……け?」
「ナマエちゃん、大丈夫、大丈夫その目が使えなくても俺様が守ってあげるから、ずっと俺様がナマエちゃんを支えてあげるから」
佐助の名前を呼ぼうとしたら佐助の声にかき消されてしまった、佐助はなにか決意をしたような口調でそう言った
私は佐助の言葉を聞いてようやく自分の身に何が起きたのか理解した、どうやら私は眼球を斬られたようだだから先程から暗闇ばかりなのだと
そう理解した後暗闇の中で佐助にすがり付く、これからどんな景色も見られないと思うととても不安に駆られたのだ、最後に見た敵軍の血走った目を思い出し私は小さく身震いをした
そんな私に気が付いてか佐助はポンポンと先程まで戦場にいた忍とは思えない程優しく頭に手を置いてきた、思わず顔を上げるがやはり私の瞳は何も映さない
「とりあえず大将の所へ行こうか、あの戦はもう勝っただろうし」
「……お館様は……私の事をなんて言うかな?」
「……それ、どう言う意味?」
佐助の言葉に私は思わずまた俯いた、自分の声とは思えない程か細い声で私は言ってはいけない事を呟いた、分かってはいたが不安は拭いきれない
お館様は目が使えなくなった私と言う一人の兵を捨てるのではないかと、お館様がそんな器の小さい人ではない事は百も承知だが今の私は何も出来ないお荷物当然なのだ、私の言葉に佐助は見なくても分かる程怒っていた、正確には空気が一気に張り詰めたのだ
「……私はもう戦えないんだ……もう二度と……」
震える声でそう言うと佐助の周りの空気が動いた音がした、どうやらゆっくりと立ち上がったようだ、何をするのかと顔を上げると
「そう思うなら、俺様がここでナマエちゃんを置いて行こうか、手を下すより簡単だ」
と佐助が冷たく言い放ったその言葉に私は一気に寒気が襲ってきた、このまま佐助がいなくなったら私は今どう言う状況なのか朝なのか夜なのかも分からずそのうち確実に死ぬだろう
死ぬと言う事がこれ程まで鮮明に分かるとは思ってなかった、何度も何度も戦に出て死を受け入れたつもりだったが私は完全に受け入れてなかったようだ、一気に恐怖心が溢れてくる
そしてふと佐助の気配がない事に気が付いた、その直後私は思わず勢いよく立ち上がった、だが視界は真っ暗なので本当に立ったかも分からない
「佐助……どこだ」
佐助の名前を呼ぶが声が震えて上手く声が出ない、自分の荒い息が響く中私は右足を一歩前に出してみたが本当に動いているのか分からない
そのまま右足に力を入れ左足を引き摺るように動かす、砂が掻き分けられる音がして私は一歩動けたのが分かった
固唾を呑み込んでもう一歩、もう一歩と歩いて行く、だが途中で石があったようでバランスを崩し私は倒れてしまった、真っ暗な視界の中私は今自分がどこを向いているのか分からなくなった
今までどの方向を進んでいたのだろう、この周辺の地形はどうなっているのだろう、私は今どうなっているのだろう、その全て何もかもが分からない
「……ッ……佐助……」
恐怖で涙が溢れてくる、その直後私は佐助と言う存在に縋り付いた、思っていたより私はとてもちっぽけな存在だった事に今更気がついた
ズルズルと身体を引きずりながらどこに向かっているのか分からないままから進んで行く、所々小石で腕が傷ついてしまったのだろうかヒリヒリと痛みが走る
それでも見えない目で佐助を探す、身体が木に当たった様で動きが止まる、その木を伝って立ち上がりまた一歩一歩戸惑いながら歩き始める
自分の呼吸がやたらと聞こえてくる手を前に出すが本当に前に出しているのかも分からない、こんな状態の中私は生きていける自信が無い
死と言う物が身近に感じられた瞬間ドクドクと心臓が強く脈打って死にたくないと言う感情が強く込み上げてきた、戦場に出陣する前から死は克服したはずだったのに
「佐助ッ!!」
死と言う物に逃げたくて、認めたくなくて思わず佐助の名前を叫んだ、今まで上げた事のないような声が出たが今はそんな事を気にしている暇はない
何度も何度も佐助の名前を叫び佐助を探すために感覚だけで歩き続ける、どの様に歩いているのかも分からないがとにかく佐助を探す
フラフラと歩いていたからだろうか一際大きな岩にぶつかり私はフラついた、その瞬間自分の体が落ちる感覚を感じた、どうやら隣に崖があったようだ
風の音が響いたのは一瞬だけだった、行き場を無くした私の腕は誰かによって掴まれていた、助けられたのだが私の目はもうその人物を写せない
「ったく、まともに歩けないくせにフラフラ歩き回るんじゃねぇよ!!本当に死にたいの!?」
だが私の耳はその聞き覚えのある声をちゃんと聞き取った、ずっと縋り付いていた存在、佐助の呆れたようなでも慌てたような声を聞き取っていた
その声を聞いた瞬間私はポロポロと何も映さなくなった瞳から涙を流したようで頬に熱いものが伝った、そして私の腕を掴んでいてくれる佐助の手に縋り付いた
「佐助……ごめん……ッ」
「はいはい、俺様だよ、ごめんねナマエちゃん……怖かったよね……ほら、もう大丈夫」
佐助の名前を呼ぶと今度はしっかりと返事をしてくれて本当に申し訳なさそうな声を出して私を引き上げてくれた、不安定だった足場からちゃんと安定している足場についているのがなによりの証拠だ
思わず佐助に抱きつくと佐助は嫌がるような素振りは全くせず、頭に手を置いてくれた、本当に佐助には感謝しきれない、佐助の忍装束が私の涙で濡れてしまうのは申し訳ないが、今の私は涙を止める事が出来ないのだ
何度も何度も佐助に謝る、あんな事を言ってすまないと、本当は怖くて仕方なかったと、捨てないで欲しい、以前の私なら言わないような事を言ったそれ程までにこの状況は恐ろしかった
「大丈夫、大丈夫……俺様達がついてるから、ずっとついていてあげるから……ね?安心してナマエちゃん……」
子供をあやすように何度も何度も優しく囁くように言う佐助の表情はもう私には見えないが、私はこれから先佐助達の助けがないと生きられないだろう、佐助達はまるで暗闇の中にある唯一の光のような存在だ、今はその光に私は縋り付いて生きていくしかない
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