銀魂
name changes
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
付き合って何日だとか、何ヶ月だとか、何年だとか……自分の年齢がまだ十代だったらきっとそんな事で一喜一憂するのだろう、だが今はどうだろうか、成人して何年か過ぎた今は……
「え、明日仕事入っちゃったんですか?」
とある日付に印を付けた時、その日に予定が入ったと言われて思わず大きな声を上げてしまった、数字の横に付けた小さな星、この印が意味するのは私と彼が正式に交際を始めた日だ
「本当にごめんッ!!」
パンッと音がする程勢い良く手を合わせ、申し訳なさそうにそう言って頭を下げる彼……真選組の監察方筆頭、山崎退とは知り合って約六年、交際を始めて三年になる
役職や彼の穏やかで落ち着いた性格から周りの人からは"地味"だとか"ミントンしか取り柄がない"だとか酷い言われようだが、私は彼の……退さんのそんな所が好きだ
私達が交際を始めてから周囲の人達からの揶揄いは何度かあったがしばらく経つとそんな揶揄いも無くなって、その頃からお互いにそばに居るのが当然な存在になっていた、でも、だからこそ交際記念日はいつも以上に気合いを入れて特別な日にしようと決めたのが一年前
「……仕事なら仕方ないですけど……」
「実はここ最近攘夷浪士達の動きが活発になっていて……見過ごせないって事で副長が……って、こんな事言うもんじゃないね……ごめんナマエ」
そう、退さんの仕事上急なスケジュール変更は職業柄仕方のない事だ、それを承知で私も交際している、しかし急なスケジュール変更があると退さんはいつもこうして申し訳なさそうにする、私はそんな退さんの表情が好きではない、退さんにそんな表情をして欲しくない
「謝らないでください退さん、その分お仕事頑張ってくださいね」
「ナマエ……!!」
微笑みながら退さんを労る言葉を伝えると退さんは強ばっていた表情が安心したように解けた、そう、退さんにはこうした柔らかい表情が一番似合うのだ、少しタレ目なその目が魅力的で私は思わず退さんの手を握った
急な私の行動に退さんは驚いたように肩をビクつかせた、そしてみるみるうちに退さんの顔は赤くなっていく、あまりにも初心な反応にとても三十歳を超えている男性には見えない、思わずフフッと笑みをこぼすと退さんは私がどうして笑っているのか気付いたらしく顔を背けてしまった
面白い人だ、退さんの反応に私の中にある小さな加虐心が擽られ、握っていた手をほんの少し動かし男性特有の骨張った指を絡めるように握る、するとどうだろうか、先程まで顔を背けていた退さんが驚いた表情で私を見た、退さんの綺麗な黒い瞳に小さな笑みを浮かべた私の姿が反射する
「ちょ……ナマエ?急にどうしたの?」
あたふたとしながら私にそう言う退さんに私は益々口角が上がってしまう、特に隠す必要もないので私は素直に退さんに話し始める
「別に……折角の記念日を一緒に過ごせないので、ちょっとしたいらずらをと……退さんの反応も面白いので……」
「えぇ……!?」
私の言葉を聞いて退さんは困惑した様子で声を漏らし、キョロキョロと視線を動かした、困惑している退さんの姿に私は再び加虐心が刺激された上に悪知恵が働いてしまい、私は静かに目を細めた
「……退さん、私とても悲しいんですよ……?」
ゆっくりとした動作で退さんに身体を寄せて、普段退さんに甘える時に使う声色で私はそんな事を呟いた、二人の記念日を一緒に過ごせないのは確かに寂しいが、私達もお互い良い大人だ、それなりの我慢はできるが私は退さんに敢えてそう言ってみた、理由なんてとても簡単な事で、単に退さんがどんな反応をするのか気になっただけだ
「ぅ……それは本当に申し訳ないって思ってるけど……」
私の言葉に退さんはバツが悪そうに顔を顰めた、うぅんと唸り困っているその姿が愛おしい、思わず上がる口角を必死に隠しながら退さんの反応を楽しむ
「あ、そうだ、ナマエ手貸して」
「?」
そろそろ許してやるかと退さんに声を掛けようとした時、丁度退さんが何かを閃いた様に声を上げて私の手を持ち上げる、何をするのかと思っていると自分の顔の高さまで上げた私の手に退さんは顔を近付けた
呆気に取られていたのも一瞬で、私の左手の薬指に何か柔らかい物が押し当てられた、チュッ……と軽いリップ音を残して離れた退さんを見て私はようやく自分の身に何が起きたのか理解した
退さんは私の薬指にキスを落としたのだ
「今、ナマエにちょっとした願掛けをしたんだ、明日俺は傍に居れないけど心はずっとナマエの傍にあるから」
「……退さん、手を握って顔を赤くしてたのにこう言う時は大胆ですよね」
「それだけナマエの事が大切なんだよ」
ほんの少しだけ頬を赤く染めた退さんは私の左手を愛おしそうに見つめながらそう呟いた、先程まで手を握られて顔を赤くしていたのにと照れ隠しの為に茶化した言葉を言うが今の退さんには効かないらしい
ゆっくりと指先で撫でられる薬指が擽ったい
「あぁ、でも……この願掛けは他の男に触られると解けちゃうから気を付けてねナマエ」
静かに呟かれた退さんの言葉に私は目を見開いてしまう……それってつまり……と聞きたくなるのをグッと我慢して私は退さんに微笑んだ
「分かりましたよ、安心してください退さん、私は退さん以外の男の人に魅力を感じませんから」
退さんはおそらく自分が居ない間に私が他の男性に現を抜かすのではないかと心配しているのだ、そんな事あるわけないのにと思いながらも退さんの見え隠れする可愛げのある小さな嫉妬心に嬉しくなってしまう
「ん"ん……それは分かってるけどさ、俺の周りってキラキラした人達多いからさ、偶に心配になるんだよ……ナマエかわいいし……取られるんじゃないかって……」
ポツリポツリと話し出す退さんの言葉に私は思わずクスクスと笑う、確かに退さんの勤め先の真選組は副長である土方さんを始め、局長の近藤さんや一番隊隊長の沖田さんなど容姿が整った方が多い、ただ容姿が整っているだけでなく、個性的と言うか印象に残るような性格をしている
そんな人達が周りにいると確かに心配になってしまうだろう、逆の立場なら私も同じ気持ちになる、しかし、私の好きな人はどう転んでも退さんで、それは紛れもない事実だ、それを彼に伝えるため私は退さんの手に自分の手を重ねた
「大丈夫ですよ……願掛け、ありがとうございます」
そう言って微笑むと退さんは安心したように目を瞑り口角を上げた、そして私の額に手をやり、前髪を掻き上げて私の額にキスをした
「仕事終わったらすぐにナマエに会いに行くから、ね?」
優しい口調でそう言う退さんに私は自然と笑みが漏れた、こうして私を第一に考えてくれる所が私は大好きだ、こんなにも愛してくれるなんてと幸せを噛み締めながら、明日はせめて仕事終わりで疲れた体を癒やしてあげようと食事の準備をしようと決めた
次の日、仕事に向かう退さんを見送り、私は退さんの為に食材を買いに向かう事にした、監察と言う職業柄偏った食事が多い退さんの為にバランスの取れた料理を作ろうと意気込み街を歩く
お目当てのスーパーに向かう途中見慣れた黒い隊服が見え、思わず目を奪われた、真選組の隊服だ、しかし私が思い浮かべていた物とは少し異なり、白いスカーフが特徴的なデザインの物だった、その隊服を着た人物が誰なのかと気になり視線を上げると栗色の髪が見えた
「あ、沖田さんこんにちは」
「ん、あぁ山崎ん所の、いつもジミーがお世話になってます」
「フフッ、こちらこそ」
真選組一番隊隊長沖田総悟、私よりも年下の、整った顔立ちをした好青年で、仕事の話をする時退さんの口からよく名前を聞くくらい退さんと関わりが多い、もちろん私も退さん経由でこうして気に掛けてもらっている、偶に言動が怖い時があるが基本的には街を守るお巡りさんらしく優しい人だ
沖田さんは私に軽く会釈をした後キョロキョロと周りを見渡した後、不思議そうに私に問い掛けた
「んで、そんな山崎が見当たらねェですけど、ナマエさん一人ですかィ?」
首を傾げながら退さんの事を聞く沖田さんのその姿は年相応の姿で、私は一瞬言葉を詰まらせてしまう、もし自分に弟がいたならと、ありもしない想像までしてしまう、そんな考えを振り払うように私は沖田さんの問い掛けにゆっくりと頷く
「えぇ、退さん今日遅くなるみたいですから、折角なので晩御飯をちょっと豪勢にしようかなって買い物中なんです」
「へぇ、そりゃあ良いや、山崎のクセに愛されてるんですねェ」
同じ真選組でもおそらく退さんの仕事は内密にしている事が多いのだろうと察して遅くなると言う事だけを伝えた、記念日の事もわざわざ伝えるような事ではないと思い、あえて隠して沖田さんに話をする
そんな私の思惑には気付かず沖田さんは感心した様に声を上げて退さんの事を茶化した、しかし沖田さんの表情は柔らかく、悪意を持った物ではないのは一目瞭然なので、沖田さんの言葉に思わず笑みが溢れてしまう、口元を手で隠してクスクスと笑っていると沖田さんも穏やかな表情を浮かべて私を見据えていた
だからだろうか、私は自分の近くに駕籠屋が迫っている事に気付かなかった
「おっと、ナマエさん危ねェ」
「わッ……!!ありがとうございます沖田さん」
勢い良く通路を走る駕籠屋の進行方向に立っていたらしく、沖田さんが私を引き寄せなければ駕籠屋とぶつかっていただろう、私の背中に手を当てて、自身の方にグッと引き寄せてくれた沖田さんに私はおずおずとお礼を言った
「良いんですよ、市民を守るのが俺達の役割なんで」
私の言葉になんて事ないように答える沖田さん、こんな時に呑気な事だが、至近距離で見る沖田さんの姿は退さんとはまた異なった魅力があり、不覚にも心臓が高鳴ってしまった
このままではいけないと、慌てて沖田さんから離れて再度お礼を伝えた後、私は足早に目的のスーパーへと向かう
ほんの少しの間沖田さんの事が気がかりだったが、買い物を始めると自然と楽しそうに私に笑顔を向ける退さんの顔が目に浮かび、どんな料理で退さんを労おうかと言う一心で私は買い物を進めていた
買い物も無事終わり家路に着き、退さんのために調理を始めた、具材を切っていると自分の左手が目に入り、ふと昨日退さんに掛けてもらった"願掛け"を思い出す
"「この願掛けは他の男に触られると解けちゃうから気を付けてねナマエ」"
退さんは確かにそう言っていた、ただの願掛けだが、私にはなんだか特別な力を持った物に感じてしまう、だからこそ私は一つ気掛かりな事があった
「……沖田さんの……あれは大丈夫だよね……?」
駕籠屋とぶつかりそうになった時の沖田さんの手が背中に触れた時の事だ、人一人を動かすために少々力強く引き寄せられたので時間が経った今でも鮮明に沖田さんの手の感覚を思い出す事ができる、しかし、その感覚が今の私にとっては非常に恐ろしく感じてしまう
もし、退さんの願掛けが解けてしまったらどうしようかと、子供じみた考えだが、そんな事はないと思えば思う程私の左手を愛おしそうに見つめていた退さんの顔が頭に浮かぶ、退さんのあの目が今はとても怖いと感じてしまうのは何故だろうか
「ただいまナマエ」
「ッ!!退さん!!おかえりなさい、早かったですね」
自分の左手を見つめながら思考を巡らせていると不意に退さんの声が聞こえてきた、反射的に退さんの名前を呼び、慌てて玄関まで向かう、疲れた様に小さく溜め息をつく退さんに駆け寄り出迎えると退さんは小さく微笑んだ
何も悪い事なんてしていない筈なのに、退さんに向ける笑顔がぎこちなくなっている気がしてならない、退さんの目に私はどう映っているだろうか
「うん、案外早く片付いてね、まあ一刻も早くナマエに会いたかったのが一番だけど」
退さんはヘラリといつもの様に笑いながらそう言い、ゆっくりとした足取りで私の傍に立つ、私よりもほんの少し大きな背丈の退さんは静かに私を見下ろしていた
その眼がどこかいつもと違っている様に感じてしまう、言動はいつもの優しい退さんだ、しかしこの眼だけは違う
「……?退さん?」
「ナマエ、俺に何か言う事無い?」
「え……ッ」
思わず弱々しく退さんの名前を呼ぶと退さんは少し早口で私にそう問い掛けた、退さんの言葉に私は戸惑ってしまい反射的に自分の手を胸元にやりキュッと握ってしまう、これでは何かあったと言っている様な物だ
沖田さんとの事を言うべきか、しかしあれは特に深い意味はない出来事だったし、むしろあの時沖田さんに引き寄せてもらわなければ駕籠屋とぶつかって怪我をしていただろう、そんな事を言ったら退さんに余計な心配をさせてしまうだろう
どうするのが正解なのか分からず口を噤んでしまう、自然と視線も下に向けてしまい軽く俯いてしまう
「…………なんてね、冗談だよ」
俯く私の頭上から退さんの優しい声が聞こえてきた、ゆっくりと顔を上げるとそこには寂しそうに笑う退さんの姿があった、しかしそんな退さんの表情を見れたのも一瞬で、退さんは私を優しく抱き寄せ、私の背中に手を回した
「………………解けちゃったね」
小さく呟かれた言葉に私は身体を強張らせた、背中にある退さんの手に力が込められたのを感じる、少しだけ爪を立てる退さんの行動に私は戸惑いを隠せなかった
「さ……退さん……?」
退さんから離れて目を見て話をしようと思い退さんの肩に手を置き離れようとしたが、その直後退さんの手に力が込められてそれは叶わなかった、私を離さないように抱き締める力を強めていく、退さんの息遣いが耳を掠めて擽ったく、身を捩ってしまうがそれすらも許されない
今までこんなにも強く抱き締められた事は無い、無いからこそ私は今のこの状況に酷く怯えてしまう、きっとそうだ、退さんの愛情表現に対して恐怖を感じるなんておかしい、私達は付き合っているのに
「大丈夫、何度解かれても俺が掛け直してあげるから」
耳元で小声でそう囁かれて心臓が高鳴った、が、嬉しさからではない、退さんの声色がいつもと違う事に気付いたから
どこか虚で、いつもの真っ直ぐな愛情ではない物を孕んだその声を聞いて、私は一つ気付いた事がある
「だって、俺達は結ばれる運命だもんね、ナマエ」
退さんの声が再び鼓膜を揺らしてそれは確信に変わった、あの時……退さんが願掛けをした時に感じた小さな嫉妬心、それは小さな嫉妬心なんて可愛いものではない、退さんの嫉妬心や独占欲は大きすぎて見えないだけだったのだと
そんな私の確信を更に確かな物にするかのように、退さんは私の左手の薬指に指を這わせた
6/6ページ