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リゾット視点
カチャカチャと食器とカラトリーが不規則に音を奏でる、目の前には故郷シチリアの伝統料理が美味しそうな香りをさせて皿の上にまるで一つの芸術品の様に盛り付けされていた、自分の手にはナイフとフォークが握られていてそう言えばこの料理を食べようとしていたのだと思い出した
周りから聞こえる音と同じ様な音を立てながら料理を口に運んだ、懐かしい故郷の味だ、思わず目を伏せてこの味を堪能しようとした時だった
「相席大丈夫ですか?」
そう声をかけられて思わず口に含んでいた料理を味あわずに飲み込んでしまった、勿体ない事をしてしまったと思いながら顔を上げるとそこには申し訳なさそうに眉を下げて微笑む女性が、空いてる席はあるのに何故わざわざ俺の所へ来たのか謎だが俺も一人では寂しいと思っていた所だったので頷くと女性は嬉しそうに笑いながら向かいの席に座った
見た所二十代くらいだろうか、俺よりも少し歳上に見える、女性は店員が居るであろう方向に向かってワインを注文した、俺はまだあのワインの味が慣れていないのでやはりこれくらいの年齢になるとワインの一つや二つサラリと飲めるようになるのだろうか
「一人で食べるの好きなんですか?」
女性はクスリと笑いながら俺に向かってそう言った、もしかして何も言わないので気を使わせてしまったのかもしれない、首を横に振ると安心したように溜め息をついた後頬杖をついて俺の顔をジッと見つめた、それにしても何故この女性は俺に対して敬語で話しかけてくるのだろうか、年齢は明らかに俺よりも上の筈なのに
「お姉さんはどうして俺と相席なんてしたんですか?」
カチャカチャと音を鳴らしながら料理を一口大に切り取ってからお姉さんに問うとお姉さんはワインをグラスに注いでいたが驚いた様に声を上げた後ワインを置きこちらを見た、彼女の目は見開かれていて本当に俺の言った言葉に驚いている様だった
何か変な事でも言ったのだろうかと思いながら料理を口に運んだ、二、三回程咀嚼すると味がフワリと口内に広がり思わず口元が緩んでしまう、もう三回程咀嚼した時
「"お姉さん"だなんてやめてよ、君は私と同じくらいの年齢じゃないですか」
と女性がワインを飲みながら言った、グラスから口を離すと数回グラスを回してワインを空気に触れさせる、その一連の動きを見つめながら女性が言った言葉を反芻する、見た所女性の年齢は確かに二十代くらいだ、そして俺の年齢も確か二十歳辺りだった気がする、正確な年齢は何故か思い出せないが恐らくその辺だろう
そうなると確かに彼女の事を"お姉さん"と呼ぶのは何か違う気がする、何故そんな呼び方をしてしまったのだろうと思いながら口直しに既に注がれていたグラスを持ち上げてワインを飲み込む、ワインを飲む俺をニコニコと笑いながら見つめる女性に少し興味が出てきて質問をもう一つしてみる事にした
「名前は?」
「ナマエ」
せっかく相席になったのも何かの縁だと思い彼女に名前を聞くと瞬きする間もなく自分の名前を答えてくれた、ナマエと言う言葉にどこか聞き覚えがある気がしたが今まで従兄弟の子を殺した男に復讐をするために生きてきたのできっと勘違いだろう
「貴方の名前は?」
ワインを一口飲み終えてグラスに薄らついた淡い紅色の口紅を親指で拭きながらナマエは俺の目を見つめてそう言った、先程のナマエと同じ様に素早く答えようとしたが何故か声が出なかった
違う、声が出なかったのではない、正しくは自分の名前が思い出せないのだ、そこまで出かかっているのに上手く喉が動かない、何も言わない俺を見て少し寂しそうに笑った後ナマエはまた一口ワインを飲んだ
「思い出せないか……」
「ナマエは俺の名前を知っているのか?」
「もちろん」
「俺とナマエは知り合い?」
「それはどうだろうね」
ナマエが俺の名前を知っているような口振りで話すので思わず聞き返すとナマエはニッコリと笑いながら俺の名前を知っていると言った、知り合いかと聞きたがはぐらかされてしまった、手っ取り早く自分の名前を思い出してこの心に引っかかるモヤモヤを取り除きたい所だが、ナマエはそう簡単に教えてくれなさそうに見える
早く教えて欲しいと感じた俺の気持ちを察したのか困った様に笑いながら俺を見た、何故だろうか、ナマエの顔を見ると酷く切ない気持ちになる、まるで、まるであの子の死を見届けた時の様な……
いや、今はあの事を思い出すのはやめよう、もう仇は取ったのだ、従兄弟の子を殺した奴は死んだ、俺が殺した、それは覚えている、忘れるわけがない、首を振って思考を強制終了させる、動きを止めていたナイフとフォークを動かして料理を口へ運んだ、しっかりとした味が広がり二口目を切り取ろうとした時
「私の職場のさ、仲間達が辞める事になったの、急にだよ?何も言わずに」
とナマエが寂しそうに呟いた、思わず手が止まる、ナマエの瞳を見ると若干涙を浮かべていて潤んでいる、会って間もないがナマエはそう簡単に泣くような人間には見えなかったので驚いてしまう、何も言えずにナマエを見ていると俺の視線に気付いたのかナマエは顔を上げて悲しそうに笑った
「二年くらい前に仲の良い二人が辞めたんだけどね、今回辞める事になった一人は優しいお兄さんって感じの人で、あの人が居ると仲間達のバランスが保たれてる感じがしたね」
懐かしそうに目を細めながら辞めた仕事の仲間の話をし出す、その姿がどこか儚くて思わず目を奪われた、何故だろうかナマエの話はどこか他人事には思えない気がする、目を瞑り悲しそうに笑った後クイッとワインを飲むナマエの動きを目で追ってしまう
「あともう一人はちょっと性格に難有りでね、でもきっと私達の事を信頼していたからああ言う態度を取ってたんだろうね」
困った様に笑いながらもう一度ワインを飲み、傍にあったフォークを一つ手に取ると俺の皿に手を伸ばして中の料理をフォークに刺した、俺が何か言う前にフォークに刺された料理はすぐにナマエの口の中へと運ばれた、行儀が悪いと思ったが一度くらいなら許してやろうと思い俺も料理を食べる事にした
それにしてもナマエの話はどこか聞いているだけの俺の心を悲しくさせる、何故だろうかと思ったが考えても答えは出ないだろうから深く考えるのはやめる事にした、ナマエの二人の仕事仲間について興味が湧いたが俺には関係ないだろうから深く追求するのはやめよう
ナマエの喉が上下に動き先程俺の皿からネコババしたのを食べ終えたのだと理解した、テーブルの隅にあったフキンで口を拭きフォークを手にしたままナマエはまた話し始める
「一人はまだ新入りだったんだけど、成長したと思ったら辞める事になっちゃって……私としてはもう少し成長した姿を見ていたかったんだけどね」
「随分辞めるのが多いな」
「だよね、私達は全員で十人なんだけど、私と一人を残してみんな辞めちゃったんだ」
「八人か……」
思っていたより人数が多くて思わず口を挟んでしまったがナマエが細かい人数を伝えてくれた、ナマエを抜いて九人、内辞めたのが八人、残されたナマエと一人は一体どんな気持ちになったのだろうか、しかし仕事仲間だと言うだけなのに随分とナマエは大切にしている様だ、ただの仕事仲間が辞めるだけでこんなにも悲しい表情はしないだろう、ナマエはきっと仲間思いなのだろう
「あともう一人は新入りの兄貴分で、口うるさいんだけど言う事はいつも正しかった、あの人の背中は追うべき背中だったよ」
「頼もしいな」
「うん、頼もしかった……あとはちょっと面白い人、メンバーの中でも個性的だった、他の人からは変人とか言われてたけどね」
「変人か……面白い職場だ」
「うん、楽しい職場だった……最後の一人はちょっと血の気が多くて、ことわざとか矛盾しているのを見つけると暴れちゃう人でね、でもチームを信頼してたみたい」
「言葉には出さなかっただけで、本当は誰よりも信頼していたのかもな」
ペラペラと饒舌に楽しそうに仕事仲間の事を話すナマエの表情にどこか哀愁を感じるのは気の所為ではないだろう、先程まで若干浮かべていた涙が仲間の話しをする度に増えていきもう瞳には留まる事は出来そうに無い様でナマエが瞬きをした拍子にポロリと零れ落ちてナマエの頬を伝う
思わず手を伸ばしナマエの頬を流れる涙を指で掬った、温かくナマエの体温を直に感じるそれは結局俺の指を伝ってテーブルにポトリと落ちた、それが合図だったかのようにナマエの涙からは片手では受け止めきれない程涙が溢れ出した
「ごめん、ごめんね、ソルベとジェラートの事も、ホルマジオの事も、イルーゾォの事も、ペッシの事も、プロシュートの事も、メローネの事も、ギアッチョの事も……私、私全部活かせなかった、あと少しで私達の勝利だったのに」
ボロボロと子供のように泣きじゃくりながらナマエは俺に向かって謝り始める、正直なんの事だかさっぱりだがナマエに大丈夫だと声を掛ける、それしか俺が出来る事は無いだろう、ナマエが泣いている理由も自分の名前も分からないのだから
しかし何故だろう、ナマエが口にする仕事仲間の名前の数々を聞くと頭の中で様々な人物の姿が思い浮かぶのだ、初めて聞いた名前だろうに、何故だろうか、その人物と共に笑っているナマエと俺の姿が頭に浮かぶのは
「ごめんね……リゾット……」
ナマエが涙声で俺の名前を呼んだ、リゾットと呼んだ、その直後全てを思い出した、ソルベとジェラートが変わり果てた姿で見付かってから二年間首輪を付けられた犬コロ同然だった俺達に一つの希望が見えた、しかしその希望を手にしようとしたが結果は上手くいかずチームが全滅した事を
ホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ、プロシュート、メローネ、ギアッチョ、そして……ナマエ
チームのメンバー全ての死を見届けたクセに俺はどれも受け止めきれなかったのだ、ボスとの一騎打ちにあと一歩で敗北して、自分の記憶に蓋をしてチームの事を忘れようとした、その方が楽だったのだ、しかしそんな情けないリーダーをナマエはわざわざ迎えに来てくれたのだ
「謝らないでくれ、ナマエ」
気が付くと先程まで俺とナマエの間にあったテーブルが消えていた、しゃがみ込み涙を流してひたすら俺に謝るナマエにそう声を掛けて肩を掴む、細くて少しでも力を込めたらポキリと折れてしまいそうな細い肩、背中も俺より小さくてこんな小さい身体で何人もの仲間の死を背負っていたのだと考えると心が締め付けられる
俺の声を聞いて涙で濡れた顔を上げるナマエ、そのまま抱き締めると縋るように背中に手を回すナマエ、俺も同じように背中に手を回してポンポンと優しく叩くとナマエはクスリと笑った
「すまなかった、死して尚迷惑をかけた」
「ううん、リゾット大丈夫だよ、おかえり」
「ただいま」
ナマエに謝ると大丈夫だと言われた後、任務から帰ると決まって言ってくれたように、いつも通りの声色でおかえりと言ってくれたナマエ、ただいまと返すとナマエは嬉しそうに笑った
しばらくナマエが泣き止むまで抱き締めていたが、他のチームのメンバーが向こうで待っていると言われるとすぐにアイツらの顔を見たくなったのでナマエと一緒に立ち上がる、店を出ると空は美しい青空だった、あの世も悪くないと思いながらナマエが指差す方向に向かって歩き出す、途中、バス停に見慣れないバスが停ったが特に気にとめなかった
今は早くアイツらの顔を見たい