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(花京院視点)
夢の中の彼女はいつも僕に笑いかけている、顔はハッキリとは分からないがきっと彼女は整った顔をしているのだろう
ニッコリと笑い僕に手を伸ばす彼女、しかしその手には微かに血がついている、返り血ではないのは彼女の頭から血が流れているのを見れば分かる、彼女は様々な部分から血を流していた
頭、手、そして腹部……腹部には抉られたようにも見えるしそのままブスリと穴が空いたようにも見える様な深い傷がある、これが致命傷なのだろうとどこか客観的な考えを導き出す
僕は彼女が伸ばしている少し水に濡れた手に縋るように握り締めてなにかを叫んでいる、心がとても痛く目尻が熱くなる
「典、明……君……ありがとう」
「やめてくれ!!そんな事を言わないでくれ!!」
状況はいまいち理解できないが、きっと彼女が死んでしまうのだろう、それを裏付けるように彼女の手からは段々と暖かさが抜けていく
最後に彼女は一筋の血が流れている口元を動かして、酷く悲しそうに笑った、そしてその直後彼女の手から完全に力が抜ける
「ナマエッ!!」
見知らぬ人の名前を叫ぶ自分の声で目が覚めた、窓からはチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえている、しかしいつも聞こえる人の声が全く聞こえない事から早朝だと言う事が分かる
学生には結構貴重な睡眠時間を無駄にしてしまったと思い密かに溜め息をつく、目は完全に覚めていて二度寝は出来そうにない
チラリと時計を見るとやはり日の出をしてから少ししか経っていない、それを確認して僕はまた溜め息をついた
今日は僕が新しい学校へ行く日、父親の仕事の都合で別の県へ行く事になってしまい、少し時期がズレてしまったが今日から僕は転校生としてこの県の学校へ通う
ボーッと真新しい天井を眺めているとあの夢の事を思い出す、あの夢は僕がよく見る夢だ、やけに生々しくて小さい頃は怖くて泣いてしまって親を困らせていた流石に高校生にもなって泣く事はないが、目が覚めた時なんとも言えない虚しい気持ちになる
出会った事のない人物、見た事も聞いた事もすれ違った事さえない人物、しかしその人物を夢の中の僕は確かに大切に思っていて、彼女が息絶える時確かに絶望している
クシャリと前髪を掻き上げてまた目を瞑るが、やはり目は完全に覚めていた
ジリジリと今更時計が鳴るが、それをすぐに止めて下の階へ降りるといい匂いが漂ってきた
朝食を作り出した母親に挨拶をして洗面所へ向かい、もう一度部屋に戻って制服に身を包んだあとまた下の階へ行くと丁度よく朝食が準備してあった
少し時間が早いのでいつもよりゆっくりと食べて、出勤をする父親を母親と見送ってから少しして僕も登校する
学校に近付くにつれ、生徒達が噂をしているのかヒソヒソと話し声が聞こえるが僕はイヤフォンでそれを遮断した
職員室へ入ると今日から僕の担任になる教師が手を振っていた、簡単な挨拶をして教室へ向かう、教室中はガヤガヤと騒いでいて僕はなんだか緊張してしまった
そんな僕を見て、ヘラヘラと笑いながら先生が緊張するなと言って背中を優しく叩いた
先生が教室に入ってから僕も釣られるように教室に入る、先生が僕の名前をカツカツと黒板に書く中僕は簡単にクラスメートの顔を見ていた
「今日からこのクラスに入る花京院だ、皆仲良くしろよ」
「「はーい」」
先生の言葉に男女共に返事をする、そんな声を聞いていると先生が僕になにか言えと耳打ちしてきた
正直な所こう言うのは苦手だが先生もなにかしら馴染みやすいようにしてくれているのだろうと思い先生の言葉に頷いた
「花京院典明です……よろしくお願いします」
ありきたりな挨拶をするとパチパチと歓迎の拍手が響いた、ホッと息を吐くと先生が僕の席を教えてくれた
窓側から二列目の一番後ろ……教室の隅で無いのに少し残念に思ったがとりあえずその席に向かう
列の間を歩いている時、何回か声をかけられたのでとりあえず挨拶をしておく、そんな事をやっていると思っていたより席に辿り着くまで時間がかかってしまった
僕が席に着いたのを確認してから先生が朝の連絡事項を話し出す、それをボーッと聞いているとトントンと窓側の隣の人から肩を叩かれた
顔を向けると同時に僕の心臓は一瞬強く脈打った、一目惚れとかそんな青春じみた感じではない、正確には懐かしい人物やドラマを見て期待や嬉しさで脈打つ感じだ
「私、ナマエ、よろしく花京院君」
そう言う彼女の言葉に僕は変な違和感があった、"花京院君"と言った彼女の言葉がやたらと胸に引っかかる
「あ……よろしくナマエさん」
戸惑いながらも返事をするとニコリと笑って先生の方を向いたナマエさん、僕はナマエさんの笑顔を見て確信した
ナマエさんはいつも見る夢の"ナマエ"と言う人物だと
名前が同じで笑顔もそっくり、声も似ていて髪の毛や髪型も似ている
ファンタジーやメルヘンな事だと思う、だがナマエさんはきっとあのナマエと言う女性なのだろう
そう確信した瞬間、僕の頭の中に沢山の身に覚えのない記憶が流れ込んできた
日本からエジプトでの旅、スタンド使い、DIO、承太郎、ジョースターさん、アヴドゥル、ポルナレフ、イギー……そしてナマエ……
沢山の情報が一気に流れ込んできたせいか、僕はその直後倒れてしまったようだ、床と接している部分がやたらと冷たく感じてあのナマエの冷たい体温を思い出してしまった
僕はどうやら寝不足とストレスと緊張で倒れてしまったと言う事になっていたようだ、転校早々倒れてしまうなんて恥ずかしかったがそんな羞恥心も吹っ飛ぶ程の出来事があった
僕が長年悩んでいたあの夢は現実で起きていた事だ、俗に言う輪廻転生と言うもの、僕は宗教とかはあまり深くのめり込んでいないのでなんとなくしか分からないが多分それだ
どうやらまだ休み時間らしく僕はボーッと上半身だけ起こして外の景色を見ていた、保健室の先生は書類かなにかを取りに行ってしまいここにはいない
一人ぼっちになってしまったが今の僕には好都合だった
「……ハイエロファントグリーン……」
過去に僕が自分の分身を呼んでいた時のように名前を呟いた、するとシュルシュルと紐のような緑色の物体が人の形になって現れた
僕の好きな緑色のその物体は自分の名前が呼ばれた事を嬉しそうにしていた
「……久しぶり、君の事を忘れていてすまない……」
自分の分身にそう呟くと気にするなと言っているように僕の肩に手を置いた
もしかすると以前のように僕が独りにならないように自分から出ないようにしていたのだろうか、それとも僕がスタンド自体知らなかったからだろうか
どっちにしろ僕はまたあの独りの花京院典明になってしまったのか、ふとそう思ったが僕がこうしてスタンドまで使えるのだ、ジョースターさん達ももしかするとこの時代にいるのかもしれない
そして、ナマエさんも……
「失礼しまーす……あれ?先生いない……」
僕が考え事をしていると扉が開く音がしてすぐにナマエさんの声が聞こえた、ドキリと心臓が強く脈打ったのを感じて僕は衝動的にハイエロファントグリーンをしまった
「花京院君、起きてる?」
ナマエさんは僕がいるベッドのカーテンを少し開けてそう言ってきた、そんなナマエさんの顔を見ながら僕はどうしていいのか分からなかったけどとりあえず手を振った
するとナマエさんはニコッと口角を上げて僕の方へ歩いてきた、それが以前のナマエと似ていて少しだけ心が痛んだ
「大丈夫だった?急に倒れたからビックリしちゃったよ」
「ええ、すみません……心配かけたようで……」
「もう顔色も大丈夫みたいだし安心したよ、あ、早退とかはする?」
「いえ、午後の授業から出るつもりです」
「あ、ならノート貸してあげるよ、花京院君より汚い字かもしれないけど」
「……ありがとうございます」
ナマエさんとの距離感が掴めずなんとなく素っ気ない返事をしてしまっている気がするがナマエさんは気にしていないようにニコニコと笑っている
なんとなく分かる、ナマエさんにはナマエとしての記憶がない事を、ナマエさんは僕に対してあまりにも普通過ぎるからだ
花京院典明としてではなく、クラスの転校生として僕に接しているのが痛い程分かった何せ彼女は、ナマエは僕の事を"典明君"と呼んでいたが今のナマエさんは"花京院君"と呼んでいる
初めから貸すつもりだったのかノートを僕に渡すナマエさんを見て、僕は少し悲しくなった、目の前の彼女が僕の知っているナマエではない事がそんなにショックなのかと思い、僕は少しナマエさんに申し訳なくなった