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私の隣の席はこのぶどうヶ丘高校での人気者、東方仗助君だ、入学式早々リーゼントヘアーの男子が隣の席になり私の青春は終わったとばかり思っていたが違っていた、仗助君は優しいリーゼントヘアー男子だったのだ
仗助君は優しいだけでなく話しやすい雰囲気、滲み出る良い人オーラ、道で迷っていたお婆さんを助ける……他にも様々な要素があるが、とにかく仗助君は良い人なのだ
そんな隣の席の仗助君の奥、教室の窓から見える景色は酷く曇っていて今にも大雨が降り出しそうだ、先程は雷が鳴っていたのでゲリラ豪雨に似た物だろう、それが分かった瞬間私は思わず机に突っ伏した
「傘なんて持ってきてないよ……」
弱々しく呟く私の声は暴風雨警報のお陰で午後の授業が無くなった事によるクラスメイト達の叫び声にかき消された、皆やんややんやと騒ぎ各々荷物をまとめている、そんな中傘を忘れた私は一人孤独に悩んでいた
朝の天気予報を見れなかったのは昨日友達から借りた漫画を夜遅くまで読んでいたら案の定寝坊したのだ、その友達は今日は自転車で学校に来ているので傘は持っていないと言う、他の友達にも聞いたが折り畳み傘は皆持っていない上に家の方向が逆方面だ
「ううう……私今日学校に泊まる」
「何言ってんのナマエ」
「だってぇ……今にも降り出し……」
「あっ……降ってきた……」
「うわあああああん!!」
学校に泊まると言う私に漫画を貸した友達がツッコミを入れてきたが私は半分冗談だった、しかし雨が降り出して来てその気持ちはいよいよ本気になる、ガタガタと机を揺らしながら叫ぶが無情にも先生から全員下校の連絡が届いた
一斉に教室から出て行くクラスメイト、友達も例外ではなく、私になるべく早く帰る様に伝えて教室から出て行ってしまった、薄情者と呟くが誰にも聞こえないだろう、チラリと窓を見ようと隣に目を向けた、しかしそこには窓はなく代わりに学ランの紺色が視界を支配した
「うわっ」
「ナマエ傘忘れたのかよ」
思わず叫び声を上げながら顔を上げるとそこには私を憐れむ様な目をしている仗助君が立っていた、仗助君は先程も言った通り良い人だ、良い人だがそれだけの関係なのだ、こうして二人きりで話すのは何気に初めての事だ
「忘れた……」
「ふーん、俺さ折り畳み傘持ってるけど」
「えっ!?本当!!」
「おう、貸そうか?」
「是非ッ!!」
ぶっきらぼうに仗助君は折り畳み傘を持っている事を私に伝えた、その単語を聞いた瞬間私は椅子を飛ばす勢いで立ち上がり思わず仗助君に近付いて本当か聞き返してしまった、そんな私の無礼とも取れる行動になにも文句を言わずに貸そうとまでしてくれた
砂漠の中のオアシスとはこの事だろうか、いやそれとも蜘蛛の糸だろうか、とにもかくにも私は仗助君に本気で感謝した、ガサガサと鞄の中を探る仗助君の動きを思わず目で追ってしまう
少しして数枚のプリントと共に出てきた黒色の折り畳み傘を仗助君は微笑みながら差し出してくれた、それを大きな声でお礼を言って受け取る、嬉しさで涙が出そうになった時ふとある事が頭をよぎった
「あの……仗助君、仗助君の分の傘は?」
「ん?俺の分?ああ、あるよ、今日は億泰が忘れると思って持ってきたんだよそれ」
「あ、そうなの……えっ?じゃあ虹村君は?」
「アイツは今日休み、だから俺今日帰るの一人なんだよなぁ……」
折り畳み傘を何故持っていたのか聞くとどうやらこれは忘れっぽい虹村君のために持って来た物らしい、今日は休みらしいがこれがもし休みじゃなかったら私は今頃どうなっていたのだろう、今日休んでくれた虹村君に不謹慎だが感謝して、今度プリンか何かをあげようと思った
仗助君は困った様に顔を顰めて今日帰り道が一人だと呟いていた、ふと仗助君の家の方向を思い出す、確か途中まで私と同じだった筈だ、これなら丁度いい
「折角だし一緒に帰る?」
外を指さしそう言うと仗助君は少し驚いた様な顔をしたあと、ゆっくりと頷いたどうやら良い様だ、仗助君が鞄を閉じたのを確認してから私達は一緒に教室を出た、電気を消すと空が曇っているからかいつもと違う暗さが教室を包み込んだ
廊下にはまだ電気が点いていて明るいがたまに視界に映る教室はどれも暗い、なんだかいつもと違う景色に違和感を覚える、それに今日はいつもはあまり話さない仗助君と一緒だ
なんだか今日はいつもと違う事ばかり起きるなぁ……なんてしみじみ感じながら廊下を歩く、私達の間には会話はなく代わりに外の激しい雨音が聞こえるだけだ
「結構降ってるな……傘の大きさ大丈夫かナマエ?」
「多分なんとかいけるよ」
玄関まで来ると雨の勢いが激しいのがよく分かる、折り畳み傘を開いていると仗助君が隣から大きさは大丈夫かと聞いてきたが私は借りている身だ我儘な事は言えないので大丈夫だと伝えた、しかし仗助君は浮かない顔をしている、それどころかなんだか少し不機嫌そうだ
思わずどうしたのかと聞こうとした時、仗助君が少し乱暴に私の手から折り畳み傘を奪い取った、呆気に取られていると仗助君は自分の大きな傘を私に差し出した
「え?」
「ナマエ濡れたら風邪引きそうだからこっち使え」
「えぇ!?いいよ私結構身体丈夫だよ!?」
「そう言う問題じゃねぇよ!!いいから、使え」
仗助君は自分の大きな方の傘を私に使わせる気らしい、流石にそれは申し訳ないので凄い勢いで首を振り断るが逆に怒られてしまった、リーゼント頭と相俟って少し恐怖を感じたので仕方なく傘を受け取る、すると仗助君は私の頭に手を置いてぐしゃぐしゃと撫で回してきた
「そう、それでいいんだよ」
「……なんか、小さい子扱いしてない?」
幼い子を宥めるようにするその行動にそう言うと仗助君はピタリと手を止めた、それが図星だと言わんばかりに止められたので何か言ってやろうと顔を上げたが仗助君は早足で外に出てしまった
慌てて傘を開き私も仗助君の後を追いかける、外に出ると大粒の雨が傘に当たる音が響いた、足元はぬかるんでいて走ると泥が跳ねて汚れてしまいそうだ、極力丁寧に歩く事にする
大雨の音が大きいのもあってか仗助君と私の間に会話はなくなってしまった、デジャヴを感じながらも仗助君の隣を歩く、ふと仗助君の方を見ると大きな身体に小さな折り畳み傘を入れていて窮屈そうだった
「仗助君……やっぱり狭そうだよ」
思わずそう言ったが小さい声だったので雨音でかき消されてしまっただろう、そう思っていたが仗助君はこちらをチラリと見て恥ずかしいのか少し顔を赤らめていた
「……入る?」
「……おう」
傘を少し傾けて仗助君にそう聞くとゆっくりと頷いた仗助君、やはり少し狭かった様だ照れながら半分身体を入れる仗助君、必然的に私の腕はいつもより上がる、それを見て仗助君は流れる様な動きで私の手から傘を受け取り自然な高さで傘を持った
私の為に負担を和らげてくれたのだろうかと少し自意識過剰な事を考えてしまうが仕方ないだろう、仗助君にお礼を言ってまた歩く、距離は近くなりもう声は雨音にかき消されないだろうが私達の間には依然として会話はない
今日まで関わりが少なかったのだ仕方がない事だ、チラリと仗助君を見上げると整った横顔が良く見える、普段はこんな至近距離で見る事はないので何だか新鮮でついつい見すぎてしまうが、失礼にあたりそうなので程々にする
「それにしてもナマエ、ちょっと抜けてる所あるんだな」
「え?どう言う事?」
ふと仗助君が私に視線を落としながらそう言ってきた、何の事かと聞き返すと仗助君は視線を私から目の前に移しながら口を開いた
「ナマエはなんでもそつなくこなすイメージがあった」
丁度仗助君が言い終わると目の前の信号が赤に変わった、歩みを止めながら仗助君の言った言葉をもう一度確認する
「つまり、私が今日傘を忘れるなんて思わなかったって事?」
「まあそんな所、珍しい事もあるんだなって」
「確かにね……今日は寝坊して天気予報見るの忘れたんだ」
いつも友達と話す時と変わらないテンションで話を進める、淡々と続く会話は私の言葉で不意に止まった、なにか変な事を言ったかと思い仗助君を見上げるがその横顔からはなにも読み取れない
信号は依然として赤なので進む事も出来ずただ立っている私達の間に沈黙が走る、いよいよ話題を変えようかと思った時仗助君が口を開いた
「なら……予報通り降ってくれた雨に感謝だな」
「え?それってどう言う……?」
唐突に雨に感謝をすると言った仗助君に疑問を覚えた時信号が青に変わった、歩き出す仗助君と同じタイミングで私も歩き出す、横断歩道を渡っている間に仗助君が言った言葉の意味を考える
しかしよく意味が分からずうんうんと唸ってしまう、考えて歩いていると不思議と視線は下の方に寄っていってしまう、ふと水溜まりに目がいった時
「だから!!今日ナマエと帰れて良かったって意味だよ」
と仗助君が大きな声を出した、声量と仗助君が言った言葉に思わず心臓が高鳴る、仗助君の方を思わず見上げたが手で頭を押さえられて見る事は出来なかった
だが私は知っている、仗助君が先程言う前に顔を真っ赤にしていたのを、そしてそれが水溜まりに映っていた事を、なんだか恥ずかしくなってきて私まで顔を真っ赤にしてしまう
しばらく真っ赤な顔の二人で帰り道を歩く事になってしまった、雨音はまだ大きいがそれより大きな音で私の心臓は脈打っていた