海に溶けて消える
name changes
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ナマエがポセイドンの元に来て数週間が経過した、相変わらずポセイドンはナマエに対して素直になれず勘違いさせては怖がらせてしまう毎日ではあったが、長い生涯の中で退屈しない日々だった、ナマエもまたポセイドンに怯えてはいるものの信頼のような物が芽生えていた
ナマエが初めて現れた場所でポセイドンは水槽越しに多数の魚と対話をしていた、その後ろでナマエは寝椅子に座りながらポセイドンを見つめ、密かにうとうとと睡魔に襲われている
ポセイドンの指を追いかけるように、一匹の色鮮やかな魚が優雅に泳ぐ様をナマエは見つめていたが気が付けば瞼が落ちていた、静かな空間、微かに水が揺れる音、全てがナマエを意識の奥へと沈めていく、そんなナマエが水槽に反射しているのを見つめながらポセイドンは小さく溜め息をついた
自分と言う男がいるのに無防備に寝るナマエに呆れているのか、それとも神である自分がナマエにとっては警戒する価値もない存在だと思われているのが気に障るのか、ポセイドンは早々に魚との対話を終えると踵を返してナマエの元へと歩み寄る、すぅすぅと規則正しい呼吸を繰り返し意識を手放しているナマエの頬にポセイドンは静かに手を伸ばした
「ナマエ……余の気が変わる前に、早く帰れ」
頬に触れるか触れないかの位置でポセイドンは咄嗟に手を引っ込めた、このまま触れてしまえばここ数週間で確実に肥大している己の中の仄暗い独占欲に支配されると思っての事だった、吐き出された言葉はやはりどこか棘のあるものだった、素直に愛を示す事はポセイドンにとっては難しい事だ、名前を呟いただけでもポセイドンにとっては最大限の愛情表現だった
これ以上見つめてはいけないと、己の中に確かに存在する独占欲を感じ取りポセイドンはナマエを守るためにナマエから離れようとした、その時穏やかに寝ていたナマエが身じろいだ
「ん、……ぅ」
「な、っ!」
それは、いつか腕を掴まれた時と同じだった、離れようとしたポセイドンの手をナマエが握り、あろうことか自身の頬にポセイドンの手を押し付けたのだ、触れてしまったらナマエを壊してしまうと思っていた中でのナマエからの接触、柔らかい肌に触れた事でポセイドンの中に隠されていた仄暗い独占欲が牙を剥く
ナマエにずっとそばにいてもらう為にはどのようにすれば良いのか、自分が一体何をすればナマエと言う存在が手に入るのか、ポセイドンは分かっている、その事が頭の中で理性を削るように駆け巡る、なけなしの理性を必死に働かせて押し隠そうとするがそれを拒む様に再びナマエの柔らかい肌がポセイドンの指先に押しつけられる
ふに。っとナマエの柔らかく瑞々しい桃色の唇がポセイドンの指先に触れた瞬間、ポセイドンの脳内でプツンッと何かが切れた音が響いた
気が付けばポセイドンは自身の三叉槍を手にしてナマエの身体の周囲を斬る様に動かしていた、プツリ……と見えないが確かに何かが三叉槍によって斬れた感覚を感じた時、ポセイドンは無意識に口角を吊り上げていた
自身がたった今斬ったのはナマエが傷付けないようにと日々気を使っている肉体との繋がりの線である事を確信していた、これでナマエはもう肉体との繋がりを失ったただの魂、この状態の者は冥界と言うハデスの領域の存在になるが今は自分の手の中にいる、自分がハデスに連絡をするかハデスが何もしない限りナマエは永久に自分の傍にいる事になる、例え肉体に力が戻っても元の場所に呼び戻される事はない、永遠に
「余だけの……」
ポセイドンの思考を塗り潰した仄暗い独占欲が彼を更に突き動かす、ポセイドンは握られた手を優しくナマエの頬に添えて柔らかな唇へ自身のそれを押し当てた、自分の少し硬い唇とは違いナマエのそれは瑞々しく、柔らかく、甘いとすら感じた
ゆっくりと離れた時、静かな部屋に微かにチュッとリップ音が鳴り響く、ナマエは目を覚さない、だが目が覚めても例えこのまま覚めなくともポセイドンはナマエが自分だけの物だと言う事実に歓喜する
他の誰のものでもない、自分だけの存在、自分だけがその事実を知っている、もし自分が繋がりを切った事を知ったらナマエはどの様な顔をするだろうか、きっとその表情も自分の独占欲を刺激するのだろうとポセイドンは確信していた、ナマエと言うただ一つの存在に狂わされた神がそこにはいた
「ん……、ぁれ?私寝ちゃってた……」
ポセイドンが離れてから少しして、まるで王子の口付けによって目を覚ます白雪姫の様にナマエはゆっくりと瞼を上げた、ナマエの視界には眠ってしまう前と変わらず魚と対話するポセイドンの後ろ姿がある、目の前にいるその人物がつい先程自分に取り返しのつかない事をしたとはつゆ知らず、ナマエは再び静かにポセイドンと魚達を眺めていた
先程犯した罪を全く感じさせず、滑らかに指先を動かし、魚と対話をするポセイドンは背後にいるナマエの視線を感じながら大袈裟に溜め息をついた
「一体、いつになったら貴様は帰るのだ……早く帰れ雑魚が」
視線を魚から動かす事なく紡がれたその言葉はナマエに対してのものだった、ポセイドンにそう言われ、ナマエもここ数週間の事を思い出し全く元に戻る気配を感じない事に思わず苦笑いを溢した
「あはは……ここは居心地が良いのかもしれませんね」
「……ふん」
ナマエにとってはなんて事ない冗談のその一言がポセイドンの心を動かしている事実は誰も知らない、ポセイドンはナマエを帰れなくした上で嫌味を言うがナマエは自分が帰ることができなくなった事実を知らない上に今後も知ることはない、歪な関係が生まれた瞬間だった
真実を知った時、ナマエは絶望するのかそれともそんな考えすらすでに……
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