終ワル
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天界、そこは神々が住まう人間界とは異なる場所、白亜の建造物が建ち並び、どこからか眩い光が差し込み、空気は軽く華やかだ
「ナマエ様‼︎似合ってるっスよ」
「えぇ?そうかなぁ、なんだか恥ずかしい」
戦乙女のゲルが興奮気味に声を上げるのに対して私は恥ずかしさで俯いていた、ゲルはこの天界の中で私と仲良くしてくれる人物の一人だ、神である私に対してゲルは半神半人だがそんな些細な事など私達の間には関係ない
いつもの様に遊んでいると、ゲルが新しい服を見たいと言ってそれに付き合う形で始まったこのファッションショー、"いつもとは違う方向性で"とゲルが言ったので、ゲルはクール系の服装に身を包み、私は普段あまり露出しないので大胆にショート丈に身を包んでいる
特にゲルイチオシの短パンを履いてみたのだが、普段丈の長い物ばかり着ているので足元がスースーして落ち着かない、ゲルの様にタイツを履いてみたいがそれではいつもと同じになるとゲルに禁止されてしまった
「ミニスカートも良いかと思ったっスけど、短パンの方がナマエ様のクールさも引き立ててくれるっスからね」
得意気にそう言うゲルを見て恥ずかしかったが着てみて良かったと思った、ゲルが身を包んでいる普段あまり見ないクール系の服装も見る事ができたし、成り行きで始まったファッションショーではあるが中々楽しめる
「折角だから、今日一日この服装にしようかな」
「今日だけとは言わずに、偶にも着てみてくださいっス‼︎」
「ふふッ、そうだね」
ゲルもすっかり気に入った様子で鏡を見ながらクルクルと回っている、そんな微笑ましい姿を見ながら、ゲルの言う通り偶には雰囲気を変えてみても良いかもしれないと思い始めた
「あ、ゼウス様からの呼び出しだ」
「うぇえ⁉︎大丈夫っスか⁉︎」
ゲルを眺めていると不意に連絡用の端末が通知を知らせた、内容はゼウス様の呼び出しだったので思わず呟くとゼウス様の名前を聞いてゲルは驚きの声を上げた、ゼウス様は全知全能の神であるからゲルの反応も分かる、だがこの呼び出しはほとんど日常茶飯事の物だ
一度ゼウス様に端末の操作を教えた所、私の教え方が分かりやすかったらしくそれ以降こうして度々呼び出されるのだ、ゼウス様の身の回りや操作端末についてはヘルメス様が管理していると思ったが私が行った方がヘルメス様も助かるらしい
「大丈夫、大丈夫、いつもの事だから……じゃあねゲル、楽しかったよ、また今度やろうね」
「あ……はいっス‼︎気を付けて‼︎」
端末を操作して返信を送りながらゲルにそう言い足早にゼウス様の元へ向かう、ゼウス様は地位の高い方なので野暮用は少しでも早く終わらせた方が良いだろうと思っての事だ
いつもの様に長い廊下を歩くが服装がいつもと違うのでなんだか落ち着かない、ふと、この服装でも不敬にならないかと頭をよぎったが返信してしまった以上着替えている時間はないだろう、きっと大丈夫だと無理矢理自分を納得させて私は歩みを進めた
ゼウス様がいる部屋の前に行くとそこにはヘルメス様が立っていた、私なんかの為にわざわざ迎えをよこさなくても良いのにと思いながらヘルメル様に声をかける
「お待たせしましたヘルメス様」
「おや、ナマエさん、随分と雰囲気が変わりましたね」
ヘルメス様がこちらに目を向けたタイミングで声を掛けるといつもの様な穏やかな口調が返って来た、ヘルメス様は思案する様に顎に指を添えて私の姿を頭の先から爪先まで眺めた、やはりいつもとは違うこの服装は少々攻めすぎただろうか
「あはは……さっきまでゲルとファッションショーしてて……変ですか?」
自嘲的に笑いながらもこの服装に至った理由を話す、変に思われてないかと言う不安から思わずヘルメス様にそう問い掛けてしまった、そんな事を問い掛ける事自体不敬かと思ったが気になってしまった以上安心したい、それにヘルメス様ならなんとなく許してくれそうな雰囲気がある、いや、実の所ヘルメス様は腹黒なので一蹴されるか?
問い掛けてから人選が悪かったかもしれないと気付いてしまった、ダメ出しを出すならせめてネチネチ言わずにズバッと言ってもらいたい所だ、怒られません様にと密かに願いながらヘルメス様の返答を待つ
「いいえ、とても良く似合ってますよ」
ニッコリと微笑んだヘルメス様はそう言った、その声色や表情からはほんの少しの悪意を感じる事はなく、確かに褒められたのだと分かった、ヘルメス様の言葉に顔に熱が集まるのを感じる、きっと今私は頬を赤く染めてしまっているだろう
「ありがとうございます、えっと……ゼウス様の端末設定ですよね」
「ふふっ、えぇ……度々すみません」
赤くなってしまった頬を隠す様にヘルメス様から目を逸らす、そんな私を見てヘルメス様は確かにクスリと笑った、そんなヘルメス様の些細な笑い声を聞いて私はまた顔が熱くなってしまう
私がまた頬を赤くしたのを知ってか知らずか、ヘルメス様は自身の背にある扉を開けた、それに誘われる様に私はゼウス様の自室へと足を踏み入れた、自室と言っても扉を開けてからも結構歩くのでいつもの様にヘルメスさんと他愛のない会話をしながら歩く、ゼウス様の姿が見えた頃にはすっかり今の状況に慣れて、私の頬はいつも通りの顔色になった
「……っと、これで大丈夫だと思います」
「ありがとうのぉナマエ」
頼まれたのは簡単な端末設定で、数回項目を選択し、調節をすれば事はすぐに終わった、ゼウス様の方を向けばニコニコと優しい笑顔でお礼を言ってくれた、そんなゼウス様の様子に心がポカポカと温かくなった、その時不意にゼウス様は顎髭に手を添えて先程のヘルメス様の様に私を見据えながら話し始めた
「それにしても、いつもと雰囲気が違って驚いたわい」
「見過ぎですよゼウス様、ナマエさんが困ってます」
「あ、いえいえ……私なんかがこんな足出して、むしろ申し訳ないです」
しゃがれた声で笑うゼウス様にヘルメス様が顔を顰めながら苦言を呈すが、こちらとしてはむしろ急にイメチェンをしたばっかりに足を見せてしまって申し訳ないとすら思う
それよりも、ヘルメス様だけでなくゼウス様にも言われてしまうとは、始まりは遊びだったとは言え少々雰囲気を変えすぎたかもしれない、もう少し段階を踏んでも良かったのかもしれないが、それはそれでゲルが許してくれなさそうだ
まあ、何はともあれ不敬だと怒られる事もなくゼウス様の用事を終わらせる事ができたのでこの件に関しては今は深く考える必要もないだろう、来た時と同じ様に二人と他愛のない話をしながら廊下を歩く
「端末の設定もしてもらえたし、良い物見れて良かったわい」
「ゼウス様はこう言ってますが、本当に良く似合ってますよナマエさん」
扉まで来てお見送りまでしてくれた事にお礼を言うと手を振りながらゼウス様はそう言った、ヘルメス様も裏のない笑みをこちらに向ける、ゼウス様がお気に召したのは良い事だが、あまり話題に出されてしまうのも恥ずかしいと思えてしまう
「……ありがとうございます」
なんだかまた恥ずかしくなって来てしまって俯きながらもお礼を呟く、服を変える事で見た目の雰囲気は簡単に変わるが肝心の中身はそう簡単には変わらない、元々の気質のせいで服装に合わない反応をしてしまうのがなんだか申し訳ない
やはりこの服装を着るのは控えた方が良いかもしれない、なんて思いながら二人の元から離れようとした時、廊下の向こう側からペタンッペタンッと気怠げなサンダルの音が聞こえて来た、この足音には聞き覚えがある
「ナマエちゃん」
聞き慣れた足音を鳴らしながらやって来たのは私の予想通り釈迦さんで、カラコロと飴玉を転がしつつ器用に私の名前を読んだ、表情はいつもの色付きサングラスのせいであまりよく見えないが、おそらくいつも通り気怠げな表情をしているのだろう
「おや、釈迦様、どうしてこちらへ?」
突然やって来た釈迦さんにヘルメス様はそう問い掛けた、確かに、釈迦さんが自分からゼウス様の近くにやって来るのは
少々珍しくも思う、それこそ呼ばれでもしないとこちらに来ないだろう、だがヘルメス様の様子を見るに釈迦さんはここへ呼ばれて来たわけではないらしい
ならば一体何故ここに来たのか、答えは簡単だった
「戦乙女ちゃんに聞いたんだ、ナマエちゃんがここにいるって」
飴玉を転がしながらそう言う釈迦さん、どうやら私を探していたらしい、それならこうして直接来なくても連絡方法はいくらでもあっただろうにと思いながら釈迦さんに駆け寄った
「釈迦さん、なにかありました?」
「んー……」
戦乙女に居場所を聞いてまで私を探していたのなら、何か急ぎの用事なのかもしれないと考えて私は釈迦さんに首を傾げて問い掛けた、そんな私を釈迦さんは静かに見下ろしているだけだ、サングラスの奥の蒼い瞳はジッと私を見据えていて、思わず固唾を飲んでしまう
不意に、カラコロと音を奏でて転がっていた飴玉がガリッと音を立てて噛み砕かれた、その様子は釈迦さんが怒っている様に見える、だが私は特に怒られる様な事はしていない筈だ、ならば後ろの二人だろうかと思ったが釈迦さんはずっと私を見据えていたのでその可能性はない
「……?釈迦、さん?」
目の前にいる釈迦さんが何を考えているのか分からなくて弱々しく名前を呼ぶ、釈迦さんは何も言わずガリガリと噛んでいた飴をゆっくりと飲み込んだ
「よっと」
釈迦さんがようやく口を開いたと思ったら気の抜けた声と共に私の腰に手をやりそのまま持ち上げた、急に視界が高くなり驚いてしまうが、釈迦さんは私の膝裏に手をやり所謂お姫様抱っこをした、恥ずかしさと足に当たる手が冷たくて思わず身を捩ったが釈迦さんはそのままグッと自分の方に私を引き寄せガッチリとホールドされてしまった
「え⁉︎何⁉︎なんで⁉︎」
「おやおや」
「コレ釈迦、ナマエを虐めるでないわ」
慌てふためく私を見てヘルメス様は面白そうに口角を上げ、ゼウス様は釈迦さんに苦言を呈した、しかしどちらの反応もまるで気にしてない様に釈迦さんは踵を返す
「じゃあねぇ、ゼウスちゃん」
「え‼︎ちょ、ちょっと⁉︎あの‼︎ゼウス様、ヘルメス様、また何かあったらいつでも呼んでくださいね‼︎」
まさかとは思ったが、釈迦さんはそのままゼウス様に別れを言って歩き出してしまった、釈迦さんに誘拐されるなんて思ってもいなくて慌てながらも釈迦さん越しにお二人に手を振った、釈迦さんの大きな身体で私はすっかり隠れてしまっているだろうが例え見えなくても声は届くだろうから良しとする
ペタンッペタンッと気怠げな足音を鳴らしながら釈迦さんは何も言わずに歩みを進める、釈迦さんの腕の中で動けなくなってしまった私は歩みによって揺れる釈迦さんの長い前髪をただただ眺めていた
「あの、釈迦さん、いつまでこの状態を?」
「…………」
釈迦さんに捕まってからもうしばらく経ってしまった、既にゼウス様達の居住地を離れ、今は釈迦さんの居住地へと続く道を歩いているが、釈迦さんは一向に私を降ろす気配がない、流石の釈迦さんも長時間私を抱えるのは大変だろうと思うが釈迦さんの表情は依然として読み取れない
更には、いつも何かしら甘い物を摂取しているのに、私の前で飴玉を噛み砕いてから何も食べようとしていない、そんな釈迦さんを見たのは初めてだ、読み取れない感情といつもとは違う様子……私の恐怖心を煽るのはそれだけで十分だった、早く解放されたい一心で意を決して釈迦さんに強く出る事にした
「ッ、釈迦さん‼︎あの、用がないなら降ろして……」
「ナマエちゃんってさぁ」
私の言葉に被せるように、私が言い終わる前に釈迦さんは足を止めて声を上げた、その声色がいつもとは違いどこか低くて、私は自然と背筋を伸ばしてしまった、そんな私を釈迦さんは静かに見下ろした、サングラス越しに見える釈迦さんの蒼い瞳は正覚阿頼耶識の紋様が薄らと浮かんでいた
「危機感ないよねぇ」
「は……?なにを?」
その瞳がすぃっと細められ釈迦さんはそう言葉を紡いだ、一体私のどこを見て危機感がないと思ったのだろうか、そもそも、これでも一応神の端くれだ、か弱い人間ならまだしもいくらでも自身の身を守れる術を持つ私に危機感なんて必要ない筈だ
釈迦さんの思わぬ言葉に目を丸くしてしまうが、釈迦さんは自身の発言をおかしいとは思っていない様だ、ただ静かに私を見下ろしている
「流石の俺でも見逃せないわ、これは」
そう呟く釈迦さんの言葉の意味を理解できなかった、一体私の何が釈迦さんの機嫌を損ねてしまったのかしっかりと話して欲しい、だがこのままではしっかりと理由を話してはくれないだろう、釈迦さんの表情は先程のよく分からない一言で伝わっていると思っている表情だ
「?……あの、話が読めないんですけど……と言うか、降ろしてください」
「だからさぁ」
全くもって言葉足らずな釈迦さんに私はそう言った、あわよくばこのまま降ろして貰おうと思っていたが、釈迦さんは私を降ろすどころかグッと手に力を込めた、それによって足を支えていた釈迦さんの手が私の太ももに当たる
「好きな子がこんな短いの履いて、足出して、しかも俺以外のヤツに見せたのが許せないって言ってんの」
そのまま軽く太ももにある手を微かに動かした釈迦さんの言葉に私はようやく合点がいった、釈迦さんが怒っていたのはこの服装の事だったらしい、おそらくあの全知全能の神であるゼウス様の元にこんな格好をして向かったのがさぞ気に食わなかったのだろう、微かに太ももにある手に力が込められた
ブリュンヒルデ曰く思春期真っ盛りの唯我独尊男だとしても礼儀や作法を重んじる方なのだろう、あの釈迦さんでも真面目な所があるらしい
「す、すみません……足出したりして……」
「なぁに言ってんの、俺以外のヤツに見せないなら全然出して良いよ、可愛いし、似合ってる」
「は、はぇ⁉︎」
「カッカッカッ、顔真っ赤ぁ」
咄嗟に謝った私だが当の釈迦さんはキョトンとした表情を浮かべた、そしてあろう事か"可愛い"と耳元で囁いてきた、釈迦さんの行動はどこか艶やかで、私は間抜けな声を上げながら顔を赤くしてしまう、そんな私を見て釈迦さんはいつもの様に声を上げて笑った
釈迦さんの元気な笑い声を聞いて、もしかして茶化されたのではないかと一瞬警戒してしまう、ロキ様の様に無駄に誰かを揶揄ってはその反応を見て暇を潰す神もいるのだから釈迦さんもそうなのかもしれないと思ったが、次に発せられた釈迦さんの言葉で私は自分がとんだ勘違いをしていたのに気付く
「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺が怒ってんのは"その格好"にじゃなくて、"その格好で俺以外の神に会いに行った事"なんだよね」
依然として私を見下ろしながらそう言った釈迦さんの言葉に私はようやく合点がいった、だが、あの釈迦さんが私なんかにそこまで執着する事があるのかと半ば信じられなかった、それこそ揶揄っているのかと思ってしまったがそんな私の考えを見透かした様に釈迦さんは私の耳元に顔を寄せた
「俺さぁ、これでもちゃんと嫉妬とかするんだよねぇ……ッ……本当、気がおかしくなる」
「ッ……」
先程とは全く違うどこか怒りを含んだ囁き声は私の背筋を凍らせる、スルリと太ももにある手が動いたかと思ったらほんの少しだけ爪を立てられた、チクッと微かではあるが痛みが走り先程まで照れて熱くなっていた筈の体温が一気に冷やされた気がした
いつも飄々としていて執着とは一番遠い存在だと思っていた釈迦さんは想像していたよりも執着心が強いようだ、釈迦さんが私を気に入っていた事実よりもそちらの方が予想外過ぎて驚いてしまう
すっかり静かになった私を見て釈迦さんは納得した様に息を吐いた、そして止めていた歩みを再度動かす、再びペタンッペタンッと気の抜けた音と共に釈迦さんの長い前髪が揺れ始める
「ま、コレに懲りたらさ、今後は俺の前以外で着ないでね」
いつもの調子に戻った釈迦さんは軽い口調で私にそう言った、こちらは向かずに正面を向いたままそう言う釈迦さんを見て、あまりにも執着と言う言葉とはかけ離れていて先程の出来事が嘘のように思えてしまう
「……折角ゲルが選んでくれたのに……」
そんな釈迦さんについつい気が緩んでしまったのだろう、先程釈迦さんの言葉で背筋を冷やした私だが気付けばそんな不平を言っていた、それが釈迦さんの執着心を更に刺激するとは知らずに
「……なぁに、色んな人に見せつけたいの?」
「違っ、そんなんじゃないです‼︎ただ……ゲルが嬉しそうにしてて……私も嬉しかったし……」
「ふーん……じゃあさ」
いつの間にか歩みを止めた釈迦さんに見下ろされていた、再びいつもとは違う雰囲気を纏う釈迦さんに私は思わずタジタジとしてしまう、しかしやはりゲルが選んでくれた物なのだ、そうそう無碍に扱う事はできない、きっと釈迦さんなら私の気持ちを汲んでくれるだろうと思いそう口走る
私の言葉を聞いて釈迦さんはサングラスの奥にある蒼い瞳を静かに細めた
「閉じ込めちゃおうか」
細められた瞳はどこか虚で、いつも飄々としている口調は重たくのしかかるように私に投げかけられた、なんて事はないと言った様子で語るにはあまりにも場違いな単語、だがこの釈迦さんの手にかかれば私のようなちっぽけな神は本当にどこかへ閉じ込めてしまうことができるのだろう
そしてその場所を知っているのはきっと、釈迦さんだけだ、釈迦さんがその気になれば私は簡単に釈迦さん以外の存在と関われなくなる、そしてそれは脅しでも何でもない、今この瞬間でも可能なのだ
「ッ……⁉︎」
今、私は釈迦さんの寛大な心で見逃されてるだけだと理解した瞬間、思わず息を呑んでしまった、嫌な汗が背中を伝う
「嫌でしょ?じゃあ俺の言う事聞いてくれる?」
「…………わかりました」
私が固唾を飲んだ瞬間パッといつもの調子に戻った釈迦さん、だが言葉はいつもよりも重みがあった、それに従わなければ最悪の結末が待っているのを知っているので私は小さく頷く事しかできない
再びペタンッペタンッと気の抜けた音を鳴らしながら歩みを進める釈迦さんに私は何も言えなかった、願わくば今まで見せた釈迦さんの執着心が趣味の悪い冗談であって欲しいが、先程の言葉の重みや表情は冗談とは思えない物だった
いつから釈迦さんに執着されていたのだろうか
「あ、でも、それめっちゃ可愛いから、俺だけには見せてね?なんならこれから俺の所で一緒に金ちゃんの飴食べようよ、帰りも送ってくから」
揺れる前髪を見つめながら考え事をする私に釈迦さんはいつもの笑顔を向けた、少なくとも先程尋常ではない執着を見せた神とは思えない笑顔だ、いや、あの執着は釈迦さんにとって普通の事なのかもしれない、例え第三者から見たら異常だとしても……
「……釈迦さんって、偶に凄く怖いですよね」
「えー、なにそれ、俺めっちゃ優しい神じゃん」
苦笑いして返す私に釈迦さんはプクッと頬を膨らませた、どうやら本格的にいつもの調子に戻ってくれたようだ、執着心を見せた時にはもうこの調子の釈迦さんに会えないのではないかと密かに危惧していたので安心してしまう
「でもまあ、それだけナマエちゃんが好きなんだよ、俺の気持ち伝わった?」
「……えぇ、凄く」
……前言撤回、やはり釈迦さんはもう以前の様に執着心を隠してくれないらしい、目を細めて笑う釈迦さんの笑顔がほんの少し怖いと感じてしまった、なんなら心なしか太ももにある手に力が込められた気がする
私はきっと、もう以前の様に好き勝手できないだろう
