不穏な隣人、月島さん
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聞き慣れたアラーム音で目が覚める、どうやら休みだと言うのに仕事がある日のアラームを付けたまま寝てしまったようだ、ムクリと起き上がるといつもより身体の調子が整っていない事に気が付いた、そういえば昨日はそのまま寝てしまったのだと思い出して浴室に直行した
お風呂の湯を入れている間に飲み会の時に作られたメッセージアプリのグループに軽く返信を送る、まだ皆寝ているらしく既読は付かない、チラリとグループの人数を見ると八人……つまりイザコザがあった彼もこのグループに参加しているのだ、いつ個人的にメッセージが来るのか分からないがもし来たら問答無用でブロックしてしまおうと考える
そうこうしているとお風呂が沸いたメロディが聞こえてきたのでそのまま入る事にした、シャワーを頭から浴びながら昨日起こった一件を振り返るとやはり思っていた以上に恐怖を感じていたらしくブルブルと手が震えだした、もう彼の顔を見たくない、しかし職場は同じなのだ、こちらが避けていてもいずれ彼と出会う事になるだろう、その時はどんな顔をして会えばいいのかわからない
「いっそ、居なくなってしまえばいいのに」
昨日の彼はアルコールが入っていたとは言え明らかに異常だった、そんな人物が自分と同じ職場に居るなんて考えただけでも恐ろしかった、こんなにも恐ろしいならいっその事彼が私の目の前からいなくなってしまえばいいのにと心から思った、しかしすぐにそんな物騒な考えは頭を振ってかき消した
シャワーを止めて髪の毛の水気を取るためにタオルを頭から被ったまま部屋着に着替えてから朝食の支度をする、朝食が出来上がる頃には髪の毛もほぼ乾いてしまったが偶にはいいだろう、しっかりと手を合わせてから朝食を食べ進めながら今日のスケジュールを考える
「月島さん、昨日は夜遅くまで介抱してくれたから……夕方の方がいいかなぁ……」
菓子折りを持って行く時間帯は夕方の方が月島さんものんびりと出来るだろうと考え、ついでに食材も買い足そうと思い立ち私は朝食を食べ終えた、しっかりと皿を洗った後、軽くドライヤーをかけて少し湿気っていた髪の毛を乾かして外出用の服に着替え、身だしなみを整えてから最低限の荷物を持って家を出た、玄関の鍵をかけた時、ふと鍵の隙間に粘土の様な物がこびりついているのが見えた
「なんだろう……これ……?」
カリカリと爪で引っ掻くと簡単にポロリと取れた、それを指で摘みグ二グ二と圧をかけるといとも簡単に形を変える、色は灰色の様な色なのでもしかしたら消しゴムのカスかもしれない、しかし消しゴムのカスなんてどうやったら付くのだろうか、むしろ鍵に付いているのなら鍵の型を取るための粘土質の型取りでは無いのだろうか
そこまで考えたが流石に話が飛躍し過ぎだと思い、消しゴムのカスだと思う事にした、そのままピンッと指で弾くとどこかへ飛んで行ったので気にせず私はアパートの階段を降りた、母親から必ず必要になると言われて半ば強制的に買わされた自転車に跨り漕ぎ出す、正直自転車は苦手でのんびりと歩く方が好きなのだが荷物が多くなる事は分かっているので今回は我慢して自転車で行く事にした
近場のスーパーに入り食材と月島さん用の菓子折りを買う、休日にしては早い時間帯だったのもあってかスーパーは空いていて割りと楽に買い物が出来た、自転車のカゴの部分に戦利品を乗せて再び漕ぎ出す、行きよりカゴが重くて少しふらついてしまうが仕方ない、途中、コンビニで休憩をしようとしたが我慢してアパートまで真っ直ぐ向かう、自転車を停めてアパートの階段を上がると月島さんが自分の家の鍵を開けている所だった
「あれ!?月島さん」
考えるよりも先に月島さんに声をかけた、すると月島さんは少し肩をビクつかせた跡ゆっくりと振り向いて私を見て優しく微笑んだ、月島さんの笑顔に私も思わず口角が上がってしまう
「はやいな瀬田」
「月島さんこそ、あっ、昨日は本当にありがとうございました!!これ……買ったそばから何ですが……」
月島さんは私の持っている荷物を見て朝が早いと笑った、月島さんこそ今家の鍵を開けたという事は朝早くからどこかへ外出していたのだろうと思いそう言った後菓子折りの事を思い出してガサガサと袋を漁り、先程店員さんに包装してもらった菓子折りを月島さんに手渡した
月島さんは何が何だか分からないと言った表情で菓子折りと私を見比べた後、昨日の事を思い出したのか閃いた様に目を見開いて声を上げた
「そんな気を遣わなくても……」
「いえいえ、本当に助かったので」
「……そうか、ありがとう、大切に頂くよ」
菓子折りを返そうと私の方へ押してくる月島さんに私は手を振ってそれを押し返す、少しして月島さんは納得したらしく菓子折りを小脇に抱えた、まさかこんなに早く渡せるなんて思ってもいなかったが、とにもかくにも月島さんにお礼を言えた事が出来て安心した
そこでふと何故月島さんがこんな時間に外から帰って来たのか気になって、世間話の代わりに聞いてみる事にした
「月島さんはどうしてこんなに早く?」
首を傾げてそう聞くと月島さんは少し言いにくそうに首に手をやった、何か聞くべきではない事を聞いてしまったのかと少し身構えたが月島さんは困った様に笑いながら理由を話してくれた
「会社でトラブルがあってな……昨日の夜、あの後駆り出されたんだ」
「えぇっ!?大丈夫ですか!?」
「いや、問題ないから心配しなくて大丈夫だ」
心配しなくていいと言う月島さんの目元をよく見ると薄らとクマが見えた、どうやら徹夜で仕事をしていたようだ、私の介抱がなければ月島さんは少しでも睡眠を取れたのかもしれないのに……そう考えてショックを受けていると表情に出ていたのか月島さんは私を見て先程まで微笑んでいた顔を少し顰めた
月島さんの表情の変化に気付いてすぐに自分の表情筋を動かして普通の顔をするが今更遅いだろう、案の定月島さんは少し大きめの溜め息をついてから私を見た、キリッとした真っ直ぐな視線と目が合う
「あの時瀬田を助けたのは俺が、俺のためにやった事だ、感謝してもらわないとそれこそ労力の無駄だろう」
そう言いながら月島さんはゴツッと強めに私の額を指で弾いた、恐らく本人はそんなに力を入れていないのだろうが受けたこちら側としては軽く脳みそが揺さぶられて視界がブレた、思わず額を両手で押さえて困惑した表情で月島さんを見てしまう
そんな私を見て月島さんは一瞬キョトンとした顔をした後自分の指を凝視し、その後私の額に目をやった、きっと私の額は月島さんの指が当たった場所が赤くなっているだろう、ジンジンと熱を持つ感覚が伝わり思わずそう思った
「……ッく、はははっ悪い瀬田」
「……笑い事じゃないです」
「ぐっっ……ふふふふっ…凄い音がしたなぁ?脳震盪起こしてないか?ははっ」
月島さんは唖然としていた私を見て肩を震わせて笑い出した、ケラケラと声を上げて笑う月島さん、笑われた事に恥ずかしさを感じて額とは別の意味で熱を持った頬を片手で隠しながら思わず拗ねた様に言うと、月島さんはもっと声を上げて笑い出した、そんな月島さんの様子に私もなんだか笑みがこぼれてしまう
少しの間二人で笑い合うと先程まで気にしていた事も問題ないと思えてしまう、月島さんの言う通り、助けて貰った事を感謝しないと逆に失礼に値するだろう、若干眠そうな月島さんの目を見てそう思った
このままここで月島さんと話を続けても私は全然良いが月島さんはそうはいかないだろう、一刻も早く睡眠を摂りたいはずだ、そう察して私は自分の家のドアノブに手を伸ばした
「月島さん、本当にありがとうございました……ちゃんと寝てくださいね」
「ああ、ゆっくり休むよ、おやすみ瀬田」
ドアノブを捻ってから月島さんに言うと月島さんは優しく微笑んだ後しっかりと休むと口に出した後普段なら夜に言い合う言葉を交わして自分の家へと入って行った、それを見送った後私も家に足を踏み入れた